プロローグ8
舞台袖といっても大学の講堂なので、ほぼ丸見えだ。前方の端の席の学生はこちらが見えているに違いない。
「あと十分です」
あたふたしながら、学生がカウントダウンを告げる。
「かえで、リラックスして」
「うん」
明るい声がした。
「かえでちゃん、最後に質問コーナーがあるけど、高校生のイメージを大切にしてね。答えにくい質問はうまく焦らしていいから」
「例えば?」
「パンツの色は何色? とかかな」
「きゃっ」
途端にかえでが顔を隠した。
「きょ、今日は赤です」
「だから、答えなくていいの」
「そうでしたね。じゃあ、どうやってごまかすんですか?」
「いやーん。それはヒ・ミ・ツ」
「ふふふ。島津さんは何色ですか?」
「えーとね。ヒ・ミ・ツ」
「ひっかからなかったですね」
かえでが含み笑いをした。
「そう。そんな感じでいいわ。つい答えそうになっちゃったけど…」
島津さんがふいにプリっとしたお尻を押さえた。
「あと一分で本番でーす」
機械的な声が響いた。
放送研究会から引っ張ってきた女性の司会者が原稿を見ながら練習している。
将来、アナウンサーでも目指すのだろうか。
「まもなく本番でーす」
ステージが真っ暗になると、満を持して司会がステージに出張る。
「みなさん、本日のメインイベント。二大声優さんによるトークショーの始まりです」
ゆっくりと落ち着いた口調。滑舌もしっかりしている。
「なんと今回は映画で活躍した島津さんと一橋さんが登場してくれます」
先陣を切ったのは島津さん。颯爽とステージの中央に歩き出した。
「こんにちはー!」
とびっきりの笑顔だ。さすが声優。声がキュートだ。
「島津です。今日は来てくれてありがとっ!」
歓声が四方八方から上がる。
「みなさんにJK声優こと一橋さんをご紹介します。どうぞっ!」
「こ、こんにちは!」
ぎこちない出だしだったが、かえでがスポットライトを浴びる。
すごい眩しそうだ。
「一橋かえでです!!」
深々と女子高生がおじぎをすると学生のボルテージが最高潮に達した。ふわりとチェック柄のスカートが揺れる。
「みなさん、映画は見てくれましたか? 私は高校生役をやっていました」
「実はかえでちゃん、あの映画が声優の初仕事だったんです」
「はい」
少しかえでの頬が赤くなった。
「私はヒロイン役。いっしょに仕事をしていて、とっても新鮮でした。なんだか自分も高校生に戻った気分で」
島津さんが台本通りに進行する。
ここまでは順調だ。
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