第13話 お茶会の間に

「おとうさま。いっしょにきてくれてありがとうございます!」

「途中までは一緒にいるが……本当にそのあとは一人でも大丈夫か?」


馬車の中で俺はローリエにそう聞くと、ローリエが元気に言った。


「うん!おとうさまがつくってくれたおかしもあるからだいじょうぶ!」

「そうか……帰りは一緒に帰れると思うから、楽しんでおいで」

「うん!」


天使のような娘に俺は笑みを浮かべるが……なんというか、子供というのは成長が早いと常々思うようになった。

ついこないだまで無理にしか笑えなかったローリエがこんなに自然に笑みを浮かべられるようになったことは素直に嬉しいが……娘の成長は親離れにも繋がると思うから嬉しい反面少し寂しくも感じる。


まあ、こうして皆大人になっていくのだろうが……男親としてはこれで好きな相手が出来て嫁に行くとなったらマジで胸にくるものがあるな。結婚式はマジ泣きするだろうね。そして、後でサーシャに慰めてもらう――からの、子供が増えるサイクルが見えなくはないが……サーシャが可愛いから我慢できないのは仕方ないよね!うん!


そんなことを考えていると、あっという間に城についてしまった。俺はローリエを送るついでに城にも用事があったので、ローリエがお茶会をしている間に済ますことにしたのだが……


「じゃあ……気をつけて行っておいで」

「うん!おとうさまもおしごとがんばってください!」


娘のこの言葉がなければ俺はきっとローリエの手をずっと握っていたであろうことは確実だった。

過保護かもしれないが……今までまるでなかったはずの愛情を補うには十分だろう。娘を信頼してない訳ではないが……ローリエは無理をしていても平然と笑顔を浮かべる子なのはわかっているので、常に気を付けることは大事だろう。


そうして、ローリエは俺が作ったお菓子を持ってお茶会に行ったのだった。


「さて……こちらも用事を済ませるか」


その背中を見送ってから俺は王城での用事を済ませるために目的地へと向かった。





「はぁ……終わった……」


思いの外早く用事は終わったが……いや、貴族ていうのはどうしてこう面倒なことが多いのか。仕事だからと割りきってもなかなか面倒だが……まあ、そこは諦めるしかないのだろう。


「しかしどうするか……」


想定してよりも用事が早く終わったのはいいことなのだが……ローリエはまだゆっくりとお茶をしているだろうから邪魔しては悪いし……とりあえず庭園でも見ているか?


そんなことを考えて俺はゆったりと城の反対側にある小さい庭園に足を運んでいた。中庭の豪華な庭園とは異なり、わりと地味なこちらはあまり使用されることはないが……丁寧に手入れをしてあるので隙潰しには丁度良かった。


「うん?」


庭園を眺めて歩いていると、何やら花壇の隅に人影が見えてそっと近づくと――そこには足を抱えて俯いている子供がいた。金髪の男の子……だろうか?ローリエと同い年か少し年上くらいに見える子供だ。こんなところに一般の子供がいるわけもないだろうし……多分貴族の子供だろうが、なんとなく放っておけなくて俺は声をかけていた。


「そんなところにいると服が汚れてしまいますよ?」


そう声をかけると子供はビクリと俺の言葉に体を震わせてから顔をあげた。整った顔立ちのその子は目に涙をためていた。なんだかどこかで見覚えがあるような……気のせいか?

その子は明らかに何かあった雰囲気で、俺を見てからまた俯いてポツリと言った。


「……いいよ。どうせ僕なんていなくてもいいんだし……お父様には僕以外にも優秀な子供がいるんだもん……」

「うーん……何があったかは存じませんが……お父様にとって君は君だけじゃないでしょうか?」

「……どういうこと?」


俺の言葉に顔をあげるその子に俺は屈んでその子に視線をあわせてからなるべく優しく言った。


「親にとって子供というのは宝物です。例え何人いても自分の子供なら大切な存在なんですよ」

「……でも、僕、いつも何をしてもダメで……皆、お兄様みたいに出来ない僕はダメだって……」

「別にお兄様みたいに出来なくてもいいと思いますよ?」

「えっ……?」


俺の言葉に目を開けて驚いたような表情を浮かべるその子に俺は笑顔で言った。


「君はお兄様ではないのだから同じように出来なくても当たり前なんですよ。君はあくまで君……なら、君にしか出来ないことを見つけるべきですよ」

「僕にしか出来ないこと……」

「それが何かは君にしかわからない……でも、これから沢山のことを学んで、沢山の経験をして見つければいいんです。」

「……僕に出来るかな?」


不安そうな表情のその子の頭を優しく撫でて俺は笑顔で言った。


「大丈夫ですよ。君は凄いお兄様がいるのでしょう?なら、お兄様と同じくらい凄いことができるようになりますよ」


そう言うとその子は少しだけ表情を明るくしてから立ち上がって頷いた。


「僕……頑張ってみます!ありがとうございました!」

「そう……頑張って下さい。では、私はそろそろ時間なので行きますね」


そう言ってから立ち去ろうとするとその子が「あ、あの!」と後ろから声をかけてきたので振り替えると――その子は何やらもじもじしてから言った。


「お、お名前を聞いてもいいですか?」

「私ですか?……カリスといいます」


なんと言うべきか悩んだが……爵位で名乗るのはなんとなく気まずいので俺は名前だけを言ってからその場を後にした。

後ろからその子が何やら尊敬の眼差しをしていたのと、後にこの子がよく知ることになる人物だとはその時の俺は知らずに、愛娘であるローリエを迎えにいくことだけを考えていたのは……まあ、仕方ないだろう。




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