第5話

また朝がきた。今日も鬱屈とした気分は変わらないが、朝のピンポーンというチャイムの音でそんな気分を吹っ飛ばされた。

母親がニコニコしながら

「お迎えがきてるわよー」と言う。

玄関のドアを開けると、今日も完璧な外見を携えて芽内が立っていた。


「君は何がしたいんだ。俺に構っても何もいい事ないだろう」

金沢が吐き捨てるように言うと

「だから、好きだから付き合ってって言ってるじゃない」

と昨日と同じ平静なテンションで言われる。

「嘘だろ」

「本当だよー好きで好きで昨日の夜も眠れなかったもん」

「…えらい肌ツヤいいけど」

「やだー褒められちゃった」


褒めてない!


昨日から薄々思っていたが、芽内と話すとどっと疲れる。

言葉が彼女に響いておらず、上っ面を滑っていくようだ。


「とりあえず、学校近くなったら離れてくれ」

そうお願いすると

「丁重にお断りします」

と笑顔で返された。


何でだ!

思わず凄い顔で芽内を見返すと、彼女は笑いながら

「金沢くんが私と付き合ってくれるように、外堀から埋めていくことに決めたから」


そう言うとそのまま学校まで一緒について来たのだった。


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