孤独なファイター専用席
江波
第0話
「いっそ死んでやろうか」
誰もいない教室で、金沢は一人呟いた。
目の前には、鞄がありその中には給食で出たサラダだろう。これでもかというくらい、ドレッシングに塗れた野菜が入っている。
もちろん、鞄の中身はべちょべちょで教科書やノートは生臭い匂いを放ちページとページはくっついている。
とりあえず家に帰る前に汚れを少しでも落とそうと、鞄を背負ってトイレの前の手洗い場に行こうと廊下に出た途端、羽黒をはじめとする三人組に出会った。
にやにやと「よお、どこ行くんだよ」と興味もないくせに尋ねてくる。
「…トイレに」とボソリと言って通り過ぎようとしたらその返しが退屈だったのか、廊下に三人広がって通せんぼされる。
羽黒の取り巻きの一人が、右から周ってきて金沢の鞄を乱暴に開ける。
「うわ!汚えー。お前の鞄サラダ塗れじゃねぇかよ」と大声で叫ぶ。
それを見て羽黒が白々しく
「どうして鞄にサラダが入ってるんだ」と聞いてくる。
忌々しい。お前がやったくせに、と言いたいが声は出てこない。
だんまりな金沢の様子を見て、煽るように「今日の夕飯にでもするのかよ」と追い討ちをかけて言ってくる。
それでも黙っている金沢に苛々したのか、取り巻きその二が
「何とか言えよ。喋れないのかよ」と怒鳴ってくる。
それでも黙っている金沢に興が削がれたのか、羽黒が
「行くぞ、時間の無駄だ」と言うと取り巻きが媚びるように笑いながら
「こいつに関わるだけ、無駄だよなー」と言って去っていった。
家に帰り、鞄を開ける。時間が経って、ますます鞄の中は悲惨な状態になっていた。親が帰ってくるまでに何とか片付けなければ。
ドレッシングがついたブロッコリーやら玉ねぎやらを落とし、ノートをドライヤーで乾かし終わったとこで、どっと疲労がやってきた。
時計を見ると、もう18時だ。
これから宿題をやり、夕飯を食べ風呂に入ったらもうやる事はない。
寝て起きたら、また朝が来る。
そして憂鬱な学校に行かなければならないのかと思うと、嫌で嫌で泣けてくる。
今、中学2年の9月。
あと何回こんな日々を過ごさなければならないのかと考えると絶望した。
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