消えたふたり

 4年が過ぎた。通勤時のヒロシと二人との朝のすれ違いは切れることなく続いている。偶にどちらか一人の時はあるが、夏休みの頃を除いて2日をあけて見掛けないことはなかった。


 気が付けば、彼はもう就職した頃ではない。今ではパリっとしたスーツ姿だ。色柄も複数のものを着ている。リクルートスーツを着ている姿はめっきり見ない。もっとも、少し一回り身体が大きくなったようだから着れないのだろう・・。ネクタイも様になっている。歩き方も快活に自信に満ちて歩いているように見えた。若いエネルギーが羨ましい。二人は、毎朝楽しそうに会話をして、ある時は手をつないで、手を組んで通勤するところに何度もすれ違った。


 ところが・・その年の10月に入って、ヒロシは二人をまったく見なくなってしまった。どうしたのだろう?


 稀有な心配だった。ヒロシは、その月の下旬に再び二人の通勤する二人を見掛けることができた。ただ・・なんとなく二人の雰囲気が変わった感じが伝わってくる。


「何か違うな、何だろう?」


何年か前のクリスマスの時を思い出した。そう言えばあの時も・・。


「俺が何かを感じるということは、何かあったに違いない。」


ヒロシはこちらにやってくる久しぶりに見る二人を何気に観察した・・そして気が付いた。


「そうか・・二人が会話をしていないからだ。いつもは楽しそうにおしゃべりして歩いていたが・・。喧嘩でもしたか?」


だが、二人が喧嘩したようには見えない。それよりも肩を寄り添って歩くところを見て、前にも増して二人の安心感みたいなものが伝わってくる。何だろう・・。

最初の頃の二人は、彼女がお姉さんみたいな感じであった。今はどちらというと彼女が彼を頼っている感が強い。その違いであろうか?

ヒロシは寄り添う二人とすれ違った。その時に二人の人生の大きな変化にようやく気が付いた。


二人の左手の薬指に指輪が光っていたのだ。


「あー! なるほど、2人は籍を入れたんだ。暫く見なかった間に、会社を休んで式を挙げて、ハネムーンにも行ってたんだろう。」


二人は明らかにそんな雰囲気だった。ヒロシは心の中でつぶやいた。


 「結婚、おめでとう。」


おそらく・・、この時点でも・・、この二人は毎度すれ違うヒロシを認識していない。それぐらい、二人は互いに集中し幸せの中にいた。

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