呪われた少女は震える手に刃を握る

白鴉

呪われた少女は震える手に刃を握る

 私は呪われている。


 私の瞳は呪われている。


 私の瞳は私が視たものに恐怖を与える。


 私の視線は抜き出しの刃物同然だった。


 抜き刃の刃を向けられているような、


 いつ害されるかもわからない恐怖を他人に与えた。


 だから私は光を望まなかった。


 誰かに恐怖与えてしまうのなら、


 誰からも愛されないのなら、


 それなら何も視えないほうがよかった。


 だが、


 呪われた瞳は視ないという選択肢を選ばせなかった。


 呪われた瞳は私に強制的に何かを視させた。


 呪いが解けることはないとでもいうかのように。


 そう、他人の瞳を奪うようになったのだ。


 相手はそれに気が付くことはおそらくない。










 人間がどこで夢を視ているか知っているだろうか。


 脳だろうか?


 心だろうか?


 いや、たぶんどちらも違うのだろう。


 きっと夢も瞳で視ているのだ。


 形なんてないかもしれない。


 現実ではないかもしれない。


 だが、『視る』という定義で扱われている夢は、


 私の瞳は視ることができた。


 私が望む望まないにかかわらず誰かの視たものを、


 私は視ていた。


 私は視せられていた。


 犯罪、暴漢、処刑。


 ありとあらゆる悪意を私に視せた。








 私は孤独だった。


 私自身には一切の力なんてないのに、


 いいや、瞳にすべての力が奪われたように、


 私の体は弱かった。


 走ることはできなかったし、咳をすることもできなかった。


 それをしただけで体に激痛が走った。


 普通に生活していればそんな苦にもならない。


 しかし他人に恐怖を与える瞳は、


 そんな普通じゃない私は、


 普通に生きることなんてできなかった。








 私に恐怖した人たちは、


 私を排除しようと攻撃してくるようになった。


 傷を負って、血を流して、激痛を感じて、


 そんな様になっても人々は私を攻撃してきた。


 怖かったから。


 頭の中ではこんな奴にどうすることもできないとわかっていた。


 頭の中ではただの女の子だと分かっていた。


 だけど怖かったから私に攻撃を続けた。








 ……自分の瞳を抉り出そうと思ったのはこれで何度目だろうか。


 私は自分の振り上げたナイフを視ながらそう思う。


 ナイフの刃先は安定することなく震えていた。


 辛いんだ。


 痛いのはもう嫌なんだ。


 でも、


 だからと言って、


 自分の瞳を抉り出すのは怖い。


 どうしようもなく、
























『恐ろしいんだ』

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