コンピューター特捜官 一色沙織
亜本都広
序章
一色沙織
そこは渋谷警察署。
古びた建物の奥にずかずかと入り込んでいく。そして、階段を三階まで上がった。
生活安全課の入口付近で、声が響く。
あたしが入口を超えて奥に入ろうとしたとき、大声で制止されていた。
「部外者は入るなっ」
受付付近の刑事がじろりと睨んでいた。
あたしは気圧されもせずに尋ねる。
「何で?」
あたしの問いに、その刑事は書類に目線を戻して仏頂面で答えた。
「古物商の届け出はここじゃないぞ」
確かに生活安全課で古物商の届け出を受け付けている。
だけど、あたしが古物商だって思えるこの刑事が不思議だ。
「誰が古物商よっ!」
「ここは案内所じゃない。勝手にあがってくるな。中学生が見学するような場所じゃない。下に受付がある。最初はそこで聞け」
「ちょ、ちょっと! あんた、今なんて言った?」
その言葉に耳を疑った。この刑事、一体何を考えているんだろう。
あたしの呆然とした言葉に、その刑事は再び顔を上げた。
「受付があるって言ったが……」
「そ、その前よっ!」
「その前?」
そいつは一瞬だけ考える顔をしてから続けた。
「中学生が見学?」
あたしは、深呼吸した後、でっかいバックを開けて一枚の紙を取り出した。
「そんじゃ、これ返すわっ」
あたしはそう言い放って、その紙をその刑事に投げつける。そして、そこから帰ることにした。廊下に出て、階段に向かった辺りで、背後から大きな叫び声が聞こえた。
「え? あ! ちょ、ちょっと!」
そしてしばらく怒声が飛び交っていた。そして、どたどたという音と共に、大あわてで、年配の刑事があたしの背後に迫ってきた。
あたしは、腰に手を当てて振り返った。
目に怒りの炎が燃えていたと思う。
「中学生のあたしに何の用ですか?」
年配の刑事は頭を下げてあたしに言う。
「た、大変申し訳ございませんでした。一色特別捜査官」
さっき、中学生呼ばわりした刑事は、あたしを呼び戻しに来た課長代理に、こっぴどく怒鳴られていた。そして、あたしの元に真っ青な顔でやってくる。そして、あたしがさっき投げつけた紙をあたしに返そうとしてきた。
「すみませんでした。警察庁からのテロ対策の指示関係で混乱していましたもので――。本部への捜査支援要請を返されたら、大変なことです。再度受けとっていただけないでしょうか?」
あたしは、にっこり笑って言ってあげた。
「いいわ。でもその代わり、渋谷警察署でもう同じことのないようにしてもらえますか?」
その若い刑事は、何度も頷いていた。
――まだまだあたしって所轄に顔が知られてないからなあ。
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