サイケデリックオーバーウェルム
回道巡
第1話 光る世界の執行者
「あは、ひひへぇ」
雑多な店と粗末な家が密集するスラムの路地裏で、口から涎をたらし、だらしない表情を晒す若い男が意味不明な音を口から発する。この男は
「ふむ、なるほど末期だな……。残念だが、この場で刑を執行する」
対する壮年の男は怜悧な視線を
しかし、魔術による脳への負荷は、始めこそ苦痛のみを感じるものであるが、そこから先へ行ってしまうと色とりどりの幻覚を伴う快感へと変じていく。それはつまり脳が不可逆的に損傷していることの証左でしかない訳であるが、人はえてして快感に弱く、あらゆる代償を惜しまない、いや目を逸らしてしまうものであった。
「では、
感情の窺えない声と共に、ローブの男の掲げる右腕の肘から先が発光し、物理的な衝撃力を伴う光線が末期中毒者の顔面へと降り注ぐ。腰に差した装飾過多な魔導宝剣を使わない魔術は手加減もいいところであったが、しかし抵抗する意思すらなくした
「対象の処分完了を確認。任務完了につき帰還する」
首から上が炸裂して消失した元
「ロドス上級審問官、お疲れ様です」
「ああ、お疲れ様。報告書を転送する」
スラムからほど近い位置にあり、拠点である荘厳な建物、
「キュリエ司祭、私が出ている間に何か変わりはあったか?」
「
キュリエと呼ばれた女性から魔基線を受け取ったロドスは、懐中時計を取り出して慣れた手つきで差込口へと線をはめ込む。そして右手だけで懐中時計、小型の魔基端末を操作して報告書となる映像記録の転送を開始した。
その作業の間は二人とも無言となった。
「ふむ……」
「すぐにお出掛けですか?」
魔基線を引き抜いてキュリエへ返すと、ロドスはすぐに懐中端末を操作してお告げを確認した様だった。そしてロドスの行動次第で支援担当としての仕事が変わるキュリエは、いつ動くのかだけを問うた。お告げによってもたらされる情報は異端、つまり魔導に関わる犯罪であり、
「ああ、嘆かわしいことにまたこの地区だからな」
本当に残念そうにロドスは言うが、聞いたキュリエは不快そうに細い眉を顰めた。ロドスは厳格そうな見た目に反してこういう所がある。味方である教会関係者であれば構わないとでも考えているのか、情報を断片的に漏らすことが多いのだ。真面目なキュリエはそれをいつも面白く思ってはいない。しかし地区の管理と執行の支援担当に過ぎない
精一杯の不満の表明として、少しだけ音をたてて椅子から立ち上がったキュリエは、これも少しだけ荒っぽい手つきで、奥へと続く扉の横にある紋章へと手を当てる。魔力認証によってこの
中には大小さまざまな箱が綺麗に整理して棚へと収められており。扉のある壁以外の三方がそうした棚で埋められている部屋の中央には小さな作業机が置かれていた。
「消耗はあまりしていないのだがな、一応魔弾の詰め替えだけしておこうか」
ロドスは右手首に着けた腕輪の一部をずらす様にして開くと、中から魔力の込められた小さな宝玉、魔弾を取り出して、小箱のひとつへと落とし入れる。そして別の箱から先ほどの物よりやや輝きの強い宝玉を取り出すと腕輪に収めて閉じた。これこそが魔弾であり、魔力の蓄積したこの宝玉が
補給を終えたロドスが部屋から出ると、立ったまま待っていたキュリエがすぐに紋章に手を当て、再び扉は静かに閉まった。それを見届けるとキュリエは席について魔基端末へと何やら打ち込む作業を再開し、ロドスも何を言うことも無く
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