【2】ない編 第1話 …噛み合わない。



 ス…



 ゆっくり、まぶたを開く。

 眩しさはない。暗い色のみが見えた。

 


 ──── 。


 俺は…目覚めた。


 硬く、デコボコした地面の上で。


「……てなんだこのデジャヴュ。つか、なんでこんな場所に…って、いや、覚えがないってわけでもないのか。確か…昨日…いやあれはもう、今日だったか…俺は路上で寝てしまって……」


(えーと…飲んだ後…歩いて家に帰って…その途中でクタクタになって……そんで寝た…… んだっけ?…いややっぱ覚えてない。……つか、今何時だ?暗いぞ。まさか夜になるまで寝てしまってた……ってことか…?路上で?んなアホな…)


 残業後…午前から友人と飲み、それが終わった後も歩いて帰って…その途中でも、もう朝だった。そして家に辿り着く前に力尽きた?そしてここで寝たのだろうか…そして起きたのが…今。

 と、ぼんやりと思いを巡らせながら、スマホで時間や場所を確認しようとした……のだが。スマホ、ない。


 カバンも…ない。

 ……つか服!靴までない!

 身に着けてるのは下着と…靴下だけ…


 っておい!


「………………これ、追い剥ぎか?ここまで荒廃したか日本の治安…」



 じゃなくてっ!こりゃあ…



「…………血だらけじゃねーか……っ」



 唸るようにそう吐き捨てて



「──ああっ!」



 ガバリっっ。



 慌てて身体を起こす。


 思い出したのだ。


「 …………………………。 」


 夢だと、思っていた。

 悪い夢を見ているのだと。

 あんな、悪夢のような出来事……


 思い出して、胸、背中、頭と触る。

 確かめたのだ。 

 穴は…空いてない。

 頭…潰れた様子…ない。


 …ないが、


 アレが夢だとは到底思えない。


 (…あの、感触…熱…痛み…)


 ──剣…背中に熱…インナーを赤く染めて、突き破って、出て来た切っ先…それも気持ち悪くヌラヌラと、紅く濡れていて──。


「…マジか…あれって…夢だったのか?いや、じゃあこの血はなんだ?やっぱり現実だった?…え、じゃあ…なんで生きて…ええ?なんだコレ?どんな展開だよ!何に巻き込まれた?俺!」


 とりあえず捻り出せる結論は、「全く訳が分からない。」だ。最悪な休日になる予感…。それだけはヒシヒシと感じていたりして。…などと、この期に及んで尚もと暢気を利かせていた…のだが。




【あ、おはようございますマスター。】

「ああおはよう………」




 ……………… ……… ……。





「…ってハイいいいいい!!?」



 驚愕した。

 だって急に。響いた。頭の中に。直接。謎の声。


「な…っ…はあ??誰だ!」


【あ、あぅ、ぁ…あ、あの!はじめましてマスター!あなたは時空次元を超え全ての世界で類を見ない生命体、ダンジョン人間と成りました!】


 ……!? いきなり何だ!早口で!

 ……つか、今なんて?


「だんじょんにんげん…?」


 ホント、なんなんだ。

 ホント、意味わからんぞ。


「つかお前っ。」


 この…

 頭ん中で直接響くこの…声の主っ。


【…え?】


「いやお前だよっ」


 お前以外いるかよっ。

 そもそもお前か誰なんだっつー…


【あ…すみません…こんなにも驚かれるとは予想外…】


 いや想定しとけ。

 つか…こいつ…マジで何なんだ?

 …え。まさか俺を剝いた張本人か?

 

「……では、ないよな」


 落ち着いて考えてみれば忘れるはずもない。

 俺の何もかもを奪って去ったあの三人組…。

 そのどいつとも、この声は違う。

 それに聞き覚えもある…薄っすらとだが。


 というか、落ち着いてみてもこれは超常現象。


 頭の中に直接声が響くとかありえない。

 俺が狂ったのでなければ…だが。


 一応イヤホン的な機械とか耳に付けられていないか確認したがやはり無い。声の方は…口調はぎこちなく、だが少なくとも敵対者ではないように感じた。


「…でもまあ…だからといって味方だとは限らないのか…」


【いや味方ですから!なんなら従僕ですから!】


「いやだから放り込むワードっ!」


 いちいち斬新だなっ?

 従僕とかこの現代日本じゃネタ以外で使わないからっ!


【あ…あぁぅ…すみません…でも…そんなに怒らないで下さいぃ…いくらダンジョンと言っても、私には心というものがあるのです……なので、…傷つくこともあるのです…】


 ………… …え?


 ダンジョン?


 今ダンジョンて言ったか?

 ダンジョンてあのダンジョン?


【え?え、ええ。】


「ダンジョンて…」


 ゲームとかラノベでよく出てくる、人間屠殺場的なあのダンジョン?


【だからはい…っていや違いますよ!!??いくらなんでもイメージ悪すぎます!…というか、何故わざわざそんな物騒な例えをっ!?】


 ……マジか。

 しかもあるのか…ダンジョンにも心が…

 …って、え?

 ダンジョンなのに?それはまた珍妙な…


【ひどいです…】


 あ。いや、だってだな。

 分からんじゃないの…

 そもそもとしての基準がさ… 


【?……と、言いますと?】


 いやだから、俺はダンジョンが実在するって知らずに生きてきたんだよ?

 だから、ダンジョンに心があったりダンジョンが思念を送ってきたりとか…それって実は普通な事なのかそれともやっぱり異常な事なのか…そこからして判断つかないのは当然だろ?


【ふーむ、なるほど……】


「いや、つか何の話をしてんだ俺…」


 しかもその相手がダンジョンだというのだから摩訶不思議…。


【あの、では、自己紹介をば。私は──心を持つ稀有なるダンジョン。ダンジョンにして固有の自我がある稀有なる存在。なのでこのデリケートなメンタルに関しましても御理解いただき…その…出来れば言葉の方も…その…選んでいただきまして…なんと言いますか…あのー…優しくしていただけますと… …はい、幸いでございます、マスター。』


「そうですか……って、さっきからマスター言ってるけどそれって俺の事か?」


【え、ええ…ですから先程からずっと…】

 

 おお…俺はどうやらダンジョンマスターになったらしいぞ。


「って唐突だな……っ」


 しかもマスターとして従える事になったこのダンジョンくんには心があるらしいし、しかも喋れるという珍種らしい何だそれ。


【いやマスター…珍種というのはいささか…】


 いやいや察してくれ。

 いい加減展開についてけないっつーの寝起きだし。

 

【あの、……あ〜…、えっと……どう説明申し上げたらいいのでしょう……しょうがないですね…では……ゴホン。

 ………………

 おめでとう御座いますマスター!マスターはおそらく全ての宇宙を通じ初めての『ダンジョン人間』へと進化されました!ヒュー♪】


「やり直したっ?つか『ヒュー♪』とかなんだ不謹慎なっ!」


【ああすみませ…っ】 


「つか、ダンジョンニンゲン?」


 何だそれ。

 もしや種族名ってヤツか?

 とてつもない語感の悪さだな。


「いや『ダンジョン人間』て。」


 ホラ、言ってみれば何だか悪役っポイ。

 

「…というか怪人ポイ。というかこれそもそもとして人間ですらないっポイ。」


 あらゆる意味で『それじゃない感』が凄いっポイ。


「つか普通の人間でいいんだけどっ!?なんせ三十年間それでやってきたのだしっ。」


【…え…え〜と…。色々と混乱されているようですね。何からお話しすれば良いのか…あの、マスター、何か質問があれば…】


 いやだから。

 お前がどういうアレなのか今もってわからな…【私はあなたと同化したダンジョンです。】…そうなのか。



「………………って、ええええええ!」



 ど、どどど!同化!?



「同化はヤバいだろうマズいだろう…っっ!?」【そして今やマスターと命を共にし、マスターの中に存在する『内なるダンジョン』という位置付けです!】「いやだからさ…」



 ………………。



「……って、はいいいい!?“内なるダンジョン”て!在るのかダンジョンがっ!?えっと、その…っ俺の内側の……この……どっかに!?」


【そうです!名付けて“内蔵ダンジョン”!………あ…いえ、これは名前ではありません。えっと、あくまで(仮)です。

 名前はまだありません。なので、これはあくまで種族名でしかありませんので、…はい。なので、あのー…出来れはマスターに名前を付けて頂けると…】


「え〜〜……っと。。。それはまた…ははは…」 


【あ…あの…マスター?あの、私の名前を……】


「はあ〜…………『内蔵ダンジョン』とか…何だそれ。ああそれでか。おいお前。さっきからずっと俺の思考読んでるよな?あまりにさり気なくてお互い流してたけども。それって俺の中に棲んでるからか?」


【あ、はい。そういった仕様といいますか…まだ慣れないでしょうがそれら諸々についても……】


 はいはい理解しろって言うんだろ?分かったよ。

 

【あ、あの、有り難うございます?】


 いやまぁ今んとこ何一つ理解できてないけどな。つか、理解する前になんか疲れてるよ…もう既にな。


【…あ、その、お察しします。それでですね。あの…早速私の名前…】


 まあでも、しょうがないよな。


【え?】


 俺達は同化しているんだからな。


【あ、はい】


 頭ン中くらい読めちゃうよな。


【そうなんです】


 俺って初のダンジョン人間になったらしいしな……。


【はい、「…でもな。」え?あの、マスター?私の名m…「……叫ばせてね。」え? 】


「ダンジョン人間て!なんじゃああーーーーーい!!」


【はい。その事についても今から話し合いたく思います。その前に私の名…】「えええええええええええ?」


 今の心の叫びに平常運転で返すのかコイツ?これが種族間の壁ってやつか?いや種族の壁ぶち抜いて俺と同化してるんだっけコイツ?


「いやいやいや、、まだ信じてないけどなっ!」


 かのニンゲン検証バラエティの壮大なドッキリだという線はいまだ捨て切っちゃいないけどな!あの番組なら頭の中マルっとお見通ししちゃうメンタリストとか普通に準備してきそうだしっ!


【はあ…あの…】


 でもさ。頭の中読んどいて空気は読めないとかそれ…いや、もしお前が言ってる諸々が本当の事だとしてもさ…。


「相当絡みづらいよなお前…」

 

【え、あの…、何か間違いましたか私?もしそうであったならすみません…あと私の名ま…】


「いえ。うん。じゃあ取り敢えず説明お願いします。」


【…あの、……名……え?】


『イヤ、だから説明。お願いします。』


【……あ…う…はい…】


 そうして彼は詳しく説明してくれるのだった。ダンジョン人間とは何なのか。内蔵ダンジョンとは何なのか。


【あ、説明を始める前にですね】


 いやまだだった。


私達、、のステータスを参照してみて下さい。】


「はあ?ステータス?あるのか?ステータスとかっ!え、マジか。今見れるのか?」


 もしそうならまんまやないの。

 ラノベとかゲームのアレそのままやないのっ!


「…いや待てよ…もしそれが本当なら…もしステータスが参照出来るってなったらコレ…。あーヤバいヤバいコレヤバい。もう完っ全にコレ、アレだよな。………消えるよな。ドッキリの線。」


 ドッキリのTVスタッフにそんなテクノロジーも予算もあるはずないもんな。つかそもそも、俺って殺されてんだもんな。あんな痛いのがドッキリとかありえないんだよそもそもな。


「…それでもなー。」


 出来る限りは抵抗したかったんだよなー。でもでも、ステータスオープンまで出来ちゃうとなるともう無理だよなー。この摩訶不思議で、かつ最悪な状況が、限りなく現実のものである…という事になる。なってしまう。…観念せざるを得なくなる。そーゆー事になるんだもんなー。


「いやマジかそれ……怖いぞ改めて。」 


【あの、そんなに怖がらなくても大丈夫ですよ?ステータスというのは誰にでも…それこそ何にでもあるものなのですから。マスター。】


 いや、俺が怖いつってんのはそこんとこじゃない…


【あ。と言いましてもマスターが閲覧できるのは私達のステータスだけなのですが。でもその閲覧方法は簡単なものですよ?ステータスを見たい。そう念じるだけでいいはず…です。】


 …はぁ… そっか。


 …つか…うん…


「やっぱお前、絡み辛いよな。」


【うっ…なぜっ】


 まぁともかく、折角…かつ早速ってことで、

 見るか。俺のス、ステータス?


「あーやっぱこええな〜…」

【マスターガンバですっ】

「うるさいよっ」

【すみませんっ】


 まったく……


「は〜〜…〈溜息〉」 


 よし…


「すーふゅ〜〈深呼吸〉」


 見るか…いや、でも…


「あーもぅっ!いくぞ!せーのっ!」


 …ボ「 …ステータスが見たい… 」ソ…っ


 …

 ……


 …………



 ……………………




「……………なんだ。これ。」





=============


レベル 1

ランク ??

名 前 unknown

種 族 ダンジョン人間

迷宮銘 内蔵ダンジョン(仮)


 構造深度  50


 魂魄濃度  10

 支配領力  5


 攻略進度  50

 統合魔性  30


 安定指数  50 

 迷宮対価  150 


部族スキル

 【■■】


迷宮スキル 

 『迷宮本能』

  〈吸収する本能〉

   →【素材吸収Lv12】【補完倉庫Lv1】

  〈成長する本能〉

   →【状態修復Lv5】【異常克服Lv1】

  〈記録する本能〉

   →【戦闘の記録Lv1】


取得スキル  

  nothing


装備スキル

  nothing  


================

 


「なんなんだこれ……」


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