異世界転移したら、召喚魔術師で、武闘家で、忍者でした。
刃口呑龍(はぐちどんりゅう)
第1話 岳の華麗な学生生活
こつん。
「いてっ」
何か硬いもので頭を軽くだが叩かれ起きる。せっかく良い授業だったので、気持ち良く寝ていたのに。
顔を上げるとそこには、髪の毛を後ろに纏めた。スラッとした長身の女性が竹刀を持って、立っている。
「あっおはよー、由依」
「おはよー。じゃないだろ、岳。今日合気道部も部活だろ? 行こうぜ!」
ここは、私立目黒大学の目黒キャンパス、301教室だ。そして、自分を起こした女性は、彼女ではない。名前は、野田由依。女性としては高い身長と、やや胸が小さいのが欠点だが、見事なスタイルを持ち。そのさっぱりとした性格と男勝りな行動は、男女共に人気だ。何度も言うが、友達だが、彼女ではない。残念ながら。
自分は、いそいそと部活に行く準備を始める。由依は、自分を待っていてくれるようだ。そして、待つ間机に腰かけようとして、意外と肉付きの良いお尻をこっちに向ける。よし、自分は素早く手のひらを上にして、机とお尻の間に手を挟み込む。そして、指を動かす。
「ん?」
由依は、慌てて立ち上がると
「お前は、変態親父か!」
今度は、竹刀で、おもいっきり叩かれた。
自分と、由依は階段を降りる。3年の教室は3階にある。武道場は、地下にあるのだ。武道場は、板の部分と畳の部分があり、四武会と呼ばれる部活がそこを交替で、使用している。板の部分は、空手部と剣道部、畳の部分を柔道部と合気道部だ。
自分は、合気道部の副将で、由依は剣道部主将だ。新入生歓迎コンパも終わり、本格的に部活動が始まっている。由依が鼻歌混じりに軽やかに階段を降りる。
「ずいぶんと、機嫌が良いな」
「ふ、ふ、ふ。良くぞ聞いてくれました。人数減少傾向だったわが部に、1年生が3人も入ってくれたのです」
「そうだったな。武道系はどこも大変だけど、良かったな」
そう、最近大学生全体で部活やる学生が減っている上に、比較的きつい武道系は人気がない傾向にあるのだ。
なんて言ってるうちに地下1階、武道場のある階にたどり着く、
「じゃ、また後でな」
由依が扉を開けて中に入る。自分は、ちょっと考え事しつつ続く。すると、由依が凄い勢いで振り返り。
「どこへ行くのかな、岳君?」
「ふぇ?」
しまった! 考え事しつつ歩いていたので、由依の後に続いて歩いてしまった。凄い形相で睨む由依の頭の上に、女子更衣室と書かれた看板が見える。
「いや、考え事していて」
「問答無用!」
再び、竹刀が直撃する。痛い! 更衣室の中から、笑い声が聞こえる。
「くすくす、仲良いよね、由依先輩と、岳先輩」
「ねー」
「そうですか?」
いやいや、仲良しは竹刀で頭叩きませんって。
今度はちゃんと、武道場の扉に手をかける。すると、中から大きな声が聞こえる。開けると、
「凛花ちゃん、一緒に帰らない?」
「松山先輩、先帰ってください」
「そんなこと言わないでさ~」
「おい、大、嫌がっているだろ。やめろよ」
「おお、岳お疲れ。いや、ほら良く言うだろ、嫌よ、嫌よも好きのうち、って」
目の前にいる、馬鹿は松山大。空手部主将だ。身長が高く、やや筋肉質だが、均整の取れた体に、いわゆるイケメン。ただ、馬鹿なのが玉に瑕。
女子の方は、空手部2年安部凛花。ちょっときつめの顔だが、なかなかの美少女?だ。ショートカットを少し茶髪にしている。スタイルは、痩せ過ぎてもいないし、太り過ぎてもいない。要するに、出るとこ出て、引き締まっている所は、引き締まっている。バランスが良い体型だ。そして、噂によると、腹筋が割れているそうだ。かなり人気があり、四武会に咲くふたつの花なんて呼ばれている。
「岳先輩、お疲れ様です。押忍」
「お疲れ様、凛花ちゃん」
自分は、軽く挨拶すると、武道場の端に向かい。自分の道着をとると、服を脱ぐ。いや、自分が変態なわけでなく、男子更衣室がないだけです。男女差別だよな。
着替えを終えたころ、女子の合気道部部員も入ってくる。ふたつの花のうちのもう一輪が来たようだ。武道場に入るとキョロキョロ、まわりを見回して、自分と目が合うと、パタパタ走って来た。
「お疲れ様です。岳先輩、本日もよろしくお願いいたします」
「よろしく、史華ちゃん」
目の前にいるのは、湯本史華ちゃん2年生だ。先ほど言った。ふたつの花の一輪、凛花ちゃんが、美形なのに対してこちらは、可愛い系の女の子だ。ややぽっちゃり気味だが、いわゆる体型も可愛らしい。そして、巨乳だ。道着を来ていてもわかる、そのボリューム。
駄目だ、駄目だ。これでは、自分がむっつり、変態なのがばれてしまう。自分は、慌てて関係ない話を始める。自分のくだらない話でも、良く笑う、明るい女の子だ。
史華ちゃんと話していると、由依が武道場に入ってきた。目が合うと、少し睨まれる。おっと、さっきの女子更衣室のこと、まだ怒っているのか?
すると、凛花ちゃんが由依の元に走っていき、何やら話している。頷く由依。すると、凛花ちゃんはまた走って、剣道部が使う床部分の道場の端にある鏡の前で、空手の型稽古を始めた。そうか、練習したかったのか、真面目だな。
と、凛花ちゃんにふられた大が近づいてきた。
「岳、後で猫行かねーか」
猫とは、大学近くの飲み屋「猫の部屋」と言う飲み屋だ。小さな店だが、料理が旨く、そして何よりコストパフォーマンスが良い。大学生にとってありがたいお店だ。
「いいけど、部活終わってからだから、遅くなるぞ」
「ああ大丈夫。凛花ちゃんの稽古終わってから、行くから、俺たちも、そこそこの時間になるし」
すると、史華ちゃんが、
「あっ、わたしも行きたいです。御一緒しても良いですか?」
意外にも、史華ちゃんお酒大好きなのである。ぴょんぴょん跳ねながら、アピールしてくる。
「俺は、いいけど。大、良いか?」
「もちろん、凛花ちゃんも来るし。じゃ、俺凛花ちゃんの練習見てくるは」
と言って、凛花ちゃんが練習する方へ向かって歩いて行く。えっ、凛花ちゃんも行くのか?ふられたわけじゃないようだ。
見ていると、凛花ちゃんに何か話かけ、空手の型を始める。大は、身体能力が化け物じみているし、何しろ空手の大学選手権で優勝した天才だ。空手をやっていない自分が見ても、惚れ惚れする位綺麗な型だ。
「集合!」
いつの間にか、練習開始の時間になったようだ。自分と同じ3年の主将。柿本一輝が号令をかける。柿本は、自分と同じくらいの身長だが、筋肉質で、合気道しているっぽくない。そして、顔もかなりごつい。柿本を先頭に横1列に並んで、正座をする。
「神前に礼! お互いに礼!」
「よろしくお願いいたします!」
練習が始まった。柿本は、1年生の面倒をみて、自分が、2年の練習をみていく。
合気道部の今年の1年生は、近藤翔太、大澤直美、春田剛志、守山すみれの四人。
そして、2年は、田城武志、筧史郎、湯本史華の三人である。
2年生は、昇段審査も近くそのための練習をする。昇段審査は、構え方等を行う基本動作、決められた技を行う規定技と、何が出るかわからない指定技、そして、指定自由技と言うものがある。
まずは、基本動作、規定技を繰り返し行い。体に技を染み込ませる。2年生は、三人なので、田城と筧が組み、自分と史華ちゃんが組む。副将権限の役得ではなく、男子二人の方が組みやすいからだよ。たぶん、きっと。
号令をかけつつ、基本動作を行っていく。
「右半身構え、非力な妖精一」
「ぷっ」
史華ちゃんが吹き出す。
「先輩、真面目にやって下さい!」
田城に怒られた。何だよ、ちょっとした、お茶目じゃないか。ふん、いじいじ。
「早く続けて下さい!」
また、怒られた。
田城は、合気道だけをするのはもったいないような、身体能力を持ち、そして、何よりセンスが良い。次期主将候補の期待の逸材だ。半分やる気のない自分とはレベルが違う。何より、イケメンだ。くそっ、羨ましい。身長こそそれほど高くはないが、やや細身の引き締まっている体で、もてる要素満載だ。
対して、筧は努力家で田城に頑張ってついていっている。最初は、心配になるような体力だったが、それも努力でカバー。本当に偉い。くりっとした愛嬌のある目と、優しそうな顔立ちで、意外と女子人気も高いそうだ。身長は、田城より高く、がっちりとしてきて、可愛らしい顔とアンバランスだが。それが良いんだそうだ。
練習は、基本動作を終え技に入る。史華ちゃんの手を掴む。柔らかいな~。と、その手を史華ちゃんが極め、そして投げる。自分は、軽やかに前方に飛びながら受け身をとる。史華ちゃんは、手を極めながら腕を掴んで自分をかえす。仰向けだった自分は、うつ伏せになる。そして、手を極めつつ、史華ちゃんが素早くしゃがみ、腕をその大きな胸に押し付ける。おお~♪
「エイッ!」
い、痛い~! そうだった、史華ちゃん結構パワーあるんだった。自分は、慌てて極められていない方の手で床をタップする。
練習は、滞りなく進められ、休みを挟みつつ1時間半続けられた。そろそろ時間かな?
すると、柿本が、号令をかける。
「集合!」
また、最初と同じように柿本を先頭に、横一列に並び、正座する。
「神前に礼! お互いに礼!」
「ありがとうございました!」
さて終わった。見回すと、大と凛花ちゃんは、すでにいない。先に行ったかな? 由依達、剣道部はまだ練習中だ。
と、パタパタと史華ちゃんが走ってくる。
「わたし着替えてきますね。集合どこにします」
史華ちゃんは、人差し指を口元に当て、少し首をかしげて聞いてくる。かわいい♪
と、殺気を感じて振り向く。由依が、凄い形相で睨んでいる。はい、練習に集中してくださいね。
「そうだな~。1階の玄関にしよう」
「は~い♪」
史華ちゃんは、可愛く答えつつ、また、パタパタと走って行った。
さて、着替えて玄関向かうか。おっとその前に、大に、LINEしないと。
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