第12話

12

「これか?」

おおよその検討をつけて二人の好みそうな場所を歩いていた。

2番は変わらず美術館だが、あの後必死に思い出して考えた事があった。

美術館は周りに色々な施設があった訳だし。

そして、1番は音楽。

「これでいいのか。」

今、俺が見ている建物は映画館と、上映中の映画のポスター。

映画の内容は、実在した音楽家が主人公のドキュメンタリー。

その音楽家は、父の虐待のようなスパルタ教育や母の死、難聴の悪化などの悲劇を迎えるが、作曲家に専念する事により大成すると言う内容だが。

「これを1番が見るのか?。」

「大丈夫、大丈夫それだって!1番さんが言ってたし、春休み中に絶対見るって言ってたし。」

1番のイメージから離れてる訳ではないが、なかなか肩が凝りそうだった。

「それでそれで、そう聞くって事は1番さんと行くの?」

電話の向こうで、うるさく聞いてくる。

この前の打ち上げで、どちらと付き合ってるか聞いてきた女生徒だった。

質問責めをしてきた時に「2番さんも、1番さんの事も任せて!」と言って連絡先を渡して来た。

「いや、1番に世話になったからチケットでも送ろうかと思って。」

苦しい嘘をついてみるが。

「嘘だー。絶対、1番さんを誘ってがっかりさせたくないから私に聞いたんでしょう。4番くんも気が多いね〜。2番さんだけじゃなくて1番さんもなんて。ねぇ、誰にも言わないから教えて絶対言わないからどっちが本命!」

何を勘違いしてるか知らないがわかったような事を言ってくる。俺にもわかったきた、こう言う人は絶対にバラす。当然、そう言うと思っていた俺は緊急フレアを用意していた。

「6番ってわかるか?」

「6番くん?わかるよ、剣道部の人でしょ。」

「アイツは、同じ部活に想っている人がいて。ここ最近上手く話せなくて困ってらしい。俺よりもそっちを助けて欲しい。」

「ほんと!?わかったあの子だ!6番くんの幼馴染で、あの子もここ最近悩んでそうに見えた。わかった、任せてあの子とも友達だから話を聞いてみるね。」

ブツっ。

自分で頼っておいてなんだが、意思を持った嵐のような人だ。

「‥まさか、一晩で2番との噂が流れたのって‥。」

いや、今は考えない、それよりやる事がある。

「すみません、このロイヤルシートを予約したいのですが、まだありますか?」

「はい、確認しますので、少々お待ち下さい。」

映画館の窓口の係員に聞いてみる。

このロイヤルシートとやらは普通の映画館と違い、高い位置にある部屋に少人数で入りスクリーンを見るという個人部屋仕様の席。

このチケットは結構するが、小遣いとして毎月俺の口座に幾らか振り込まれていて学校にいる間は買うものなんて殆ど無いので確認したら結構貯まっていた。

「はい、まだ空いてる席があります。発行しますか?」

「はい、お願いします。」

正直もうなかったらと焦ったが、今同時に人気映画の続編が放映されているので大丈夫だったようだ。

よし、これで二人と行く場所が決まった。

「何名様でいらっしゃるご予定ですか?」

「二人です。」

手続きも終わり、この辺りで何か食べる事にした。


「ジャンクフードって言うのか、ファストフードって言うのかわからないな。」

色々考えたが、すぐ近くの大手のハンバーガーチェーン店になった。

「普段食べれないから久しぶりに食べたな。」

昔からこれらを食べるのはあまり良くないと言われていたが、この味は好きな部類だった。

「この後、どうするかな。」

早めに出て来たが、行く予定の所に迷わずついて手続きも問題なく。

「まだ1時か、帰るには早いな。」

昨日の夜、秘書さんが帰り今日の予定を立てていた時は、これで一日使うはずだったが、すんなり終わってしまった。

「誰かに電話するか?いや、あいつら全員予定があるとか言ってな。」

事実上の春休み一日目、まだまだ皆んなやる事があるだろう。

「‥俺、やっぱり、友達少な。」

認めよう、科学部よりも俺は友達が少ない。

食事も終わり、店から外にでる。

まだ三月中旬、肌寒い風がひとりぼっちの体にしみる。

「帰って勉強でも、いやそれじゃ学校と同じだな。」

店の前から動いて、さっきの映画館の前に行くが、映画を観る気にもなれない。

「一人暮らしを始めたら、どうするかな。」

今の学校では何もない放課後や休日は、最近では1番の手伝い、少し前には2番に会いに、それ以前は勉強だった。

「勉強もな、もう中学のは終わって高校のもやってるけど、別に困ってないし。」

なら大学受験への勉強か?あまりにも気が早すぎるだろう。

何よりうちの学校のテストがひどいと今は思う。

前の受験問題は親父のせいで難しい過ぎたが素直に解く問題だった、しかし学校のテストや、そもそも授業だって一部を除いてついて来れないやつを置いていく事を念頭にした内容、あまりにも引っ掛けが多く、読解力向上を目指しすぎて結論として何を聞いているのかわかりにくい問題ばかりだった。

「何で数学で、時事問題を聞いてくるんだよ。無駄だろあの文章。」

当然人によって問題の受け取り方が、変わってしまい点数が伸び悩んでしまう生徒が続出する。

その結果、部活を中心にする生徒が増え、全体の平均点が下がってしまう。

「無様だな。高等部は知らないけど、高水準の学力を目指すとか言って1番学力を下げてるのは、あの教員達だろ。」

やっぱり俺はあそこから出よう、もうあの学校で時間を潰したくない。

「どうするかな。帰ってもやる事ないし。」

朝一で起きて、持ち帰ったジャージやシャツの洗濯、乾燥機を使って早く乾かし、アイロン掛けをしてハンガーにかける。

朝食に使った食器も、もう片付けて終わっている。

朝に気合いを入れ過ぎて昼に燃え尽きたように感じる。


「すみません、いいですか?」

「え?あっはい、何ですか?」

急に話しかけられて驚いた。

「ん?映画見てたんですか?」

「え?いいえ、違くて。」

いきなり恐らく初めて会った女の子はそんな事を聞いてきた。

俺と同じぐらいか少し下の年齢だ。

「ふーん、まぁいいですよね。そんな事。」

「あの、何のようですか?」

やる気がない感じだが敵意はそこそこあるような喋り方で、いきなり聞かれて正直不気味だ。

「いいえ、別に、ただ仕組まれたように見つけたなって思って。」

「?。あの、もう行きますね。」

綺麗な子だが、どうにも話が理解できないので逃げるように、駅の方向に向かうが。

「待って下さい。私はあなたと話さなくちゃいけないんです。」

手首を掴まれ止められる。

「え?」

振り向くとさっきとは打って変わって真剣な表情をしてくる。

「おい、あれなんだ。」「別れ話みたいだな。」「相手の子可愛いじゃん。どうする?」「男が行ったら話しかけるか。」

これはまずい状況だ。

大学生ぐらいのグループがこっちを見て話している。

ていうか、相手は中学生だぞ、そんな子に話しかけたいか。

「はぁー、わかった、こっちだ。ついて来て。」

今度はこっちが女の子の手首を握って映画館から離れる、さっきのグループが舌打ちや悪態をつくが無視する。

「え?あの、あのどこ行くんですか?私は話があるだけで。」

「ならあの場で話かけるのは間違いだったかもな。」

相手は2番でも1番でもないんだ、少しきつ目に言ってしまったが、まぁいいだろう。

「っ!それでどこ行くんですか?」

「話せる場所だ、話したいんだろ。どこか喫茶店でもないか。」

「私が知るわけないでしょ。いいから離してくれません。」

女の子が手を振り払う為に掴んでいる手を叩いてくる。

「大人しくしてろ、アイツら付いて来てる。」

そんなにこの子がいいのか、あのグループがついて来ている。

「はぁ?あなたが目的でしょ。早く離して。」

めんどくさい、本当にわからないのか。

「男が男を追いかけるかよ、目的はそっちだろ。」

「なんで私なんですか?いい加減にしないと大声出しますよ。」

「いいんじゃないか、それで後ろの奴らが助けてくれるだろうな。どこかに連れて行かれるだろうけど。」

もう気を使うのはやめだ、正直に言うことにする。

「っ。それってなんでですか?」

大人しくなった、自分の今の状況がわかってきたらしい。

やばいなあのグループ、もう隠す気もないのか大分近くにいる。

「それは君が可愛いからだろ。」

「は?はぁ!?なんですかそれ?ふざけてるんですか?」

急に言われたからか、女の子は甲高い声を出す。耳が痛い、俺の周りの奴らは鏡を持っていないのか。

「ここでいい。ほら入るぞ。」

「あ、ちょっと!」

木目調の扉の喫茶店に女の子を押し込むように入る、うるさいから無視だ。

「クソ!、なんだよ!。」「つまんねーな。」「どうするよ、待つか?」

「いや、バレてるかもしれねーし諦めるか。」「あーあ、あの男ウゼーな。」

すごい大声で話してる、あれで隠れて尾行してるつもりだったのか?

「あっあの何名様で」

「2名です。」

飛び込むように入って来た俺達に驚きながら店員さんが聞いてくる。

女の子はイライラしてるが店の中では暴れないようで、店員さんの案内に従っている。

「で?どういう事ですか?」

通された机のソファーで足を組み、腕を組んで言ってくる。

「どうもこうもないだろう。確かにああなるなんて想像もつかなかったが、そんなに腕を掴まれたのが嫌だったのか?」

というか、要件があったのはそっちだろ。

「ふーん。まぁいいですけど、助けられたみたいだし。」

その割には不機嫌そうだな。

改めて見るとやはり可愛い、年下かと思ったが恐らく同い年だろう。

「ご注文は何になさいますか?」

店員さんからメニューを受け取り、女の子はすぐに注文した。

「俺も同じものを。」

よくわからないし。

「へぇー、同じ味が好きなんですか。」

つまらなさそうに言ってくるが、ちょっと嬉しそうにも聞こえる。

紅茶が好きなのか?

二人分のカップが届き、その場で注ぎ始める。順番があるのか、注いで止めてを繰り返している。注ぎ終わるとごゆっくりっと言って去っていった。

「それで、話ってなんだ?」

「‥‥。」

女の子は、視線を外して不機嫌そうな顔をしている。

勘弁してくれ、ここでだんまりか。

「はぁーっ、何か食べるか。‥ケーキでも食べる?」

「‥はい、食べます。」

意外とすんなり言ってくる。

この子を全く知らないが、おそらくはうちの学校の関係者だろうな。

とりあえず、注文したお茶を飲むことにしよう。

「ん?っ!」

お!この紅茶美味しいな。なんだろう?紅茶やお茶に詳しくなかったがこれは美味しい。女の子も、驚いたのか目を大きくしている。

ケーキを注文して、女の子が食べ終わるまで約15分。

「‥あの、いいですか。」

「ケーキのおかわり?」

「違うわよ!それにちゃんと自分で払うわよ!」

やっと話す気になったらしい。落ち着いて来たのか、警戒心が解けたのか敬語も無くなった。

「あの、実は。」

話難いようでなかなか次の言葉が出てこない。

仕組まれたように、この子はそう言った。本来は自発的に探すべき所に、いやいや偶然見つけてしまった。そんな感じだった。

学校関係者で俺を探さないといけない理由。

受験はもう終わり俺を引き止める方法はないが、それでも止めたいなら偶然でも見つけたかったはず。

そして、この子は俺と同い年、だがこの子を学校で見た記憶はないけど例外がある。

うちの学校には姉妹校としてミッションスクールが共同で運営されている。

そこは行った事はないし女子校でほとんど俺の校舎とは関係ない、だがこの子は俺を知っていた、なら俺を知るような事があったのだろう。

「5番の関係者か。」

「‥知ってるんだ。」

急所を刺されたように一瞬震えて、呟いた。

「いや、詳しくは知らない。だけど恐らく君はミッションスクールの生徒だと思う。」

「‥‥。」

肯定の沈黙かわからないが、多分あってる。

「5番との関係は知らないけど、多分5番を」

「そう、あの人を許してもらうために。」

そうだろうな、5番は由緒正しい家柄で真っ当にいけば正しい地位についただろう。

この子と5番の関係はわからないが、5番について話したいなら、あの事件についてだろうな。

「悪いけど、もう俺に出来る事はない。」

「っ!どうして。」

「俺は示談でいいって親父に言って、親父もそうするって言った。」

「え?なら何で。」

「だけど、被害届は出したから検察と警察が裁判を起こすだろうって親父に言われた。」

最初、何を言われてるのかわからない様子だった。

「え‥おかしい、だったら何で‥。」

俺は言われた通りの事を話したが、女の子の様子がおかしい。

「何でそんなの聞いてない。じゃあどうすればいいの。」

おぼつかない目をして狼狽えている。

「おい、大丈夫か?どうした?」

「だって、だって。あなたに許してもらえばそれで良いって。」

女の子が思い出したようにスマホを取り出しどこかに電話を始めた。

「あっあの、4番さんに会いました‥。それで向こうはもう示談にするって言ってます。だけどもう警察が‥あの裁判にするって‥。」

焦り過ぎて上手く話せないようだ。

最初の強気の感じは消えて何かにすがりつくような声を出している。

「え?知ってた。なら何で‥、え?、私が‥。そんな、無理です!え?なんで、‥そんな、待って!違うんです待って下さい!‥はい‥はい。」

何を言われたのか、女の子が泣き始めた。

「そんな、私、はい‥でも‥、すみませんでした‥。違います!ごめんなさい!ごめんなさい!やります!‥はい、はい‥。」

異常な女の子の態度に店の人達がざわつき始めた。

「‥どうしたんだ。」

「ごめんなさい‥。もうどうしたらいいか‥。」

スマホをソファーに落とし泣き続け、それからは何を聞いても話してくれない。

「おっお客様、どうしましたか?!」

店員さんが焦って聞いてくる。

「すみません、タクシーを読んで下さい。」

「えっあ、はい。ただいま。」

相手は大体高校生に見えるかもしれないけど、子供にタクシーを呼べと言われてしたがってしまう程、女の子は悲惨な泣き方をしていた。

親父か爺さんに後で請求が行くだろうが構うものか、今はこの子をどうにかしたい。

「‥やる事が増えたな。」

春休み一日目、5番の爪痕がまだ残っていたようだ。


タクシーに泣いている女の子を乗せるのは人の目を引いて大変だったが、店員さんも手伝ってくれた。

それはそうだろうな、泣き出してしまった客が店から出ようとするのだ、すぐにでも退店させたいだろう。

とりあえず、家の住所を伝えて向かう。

タクシーの運転手さんは、そういう客も少なくないのか何も聞かない。

タクシーの中で泣き疲れたようで、幾分か静かになったが、まだ泣いている。

家の前に着き運転手さんに代金を払う。

「こっち、立てるか?」

「‥うん、ありがとうございます‥。」

会社に請求して貰おうと思ったが、手持ちでなんとかなった。

「ほら、入って。」

「‥‥。」

まだ俺は中学生とは言え、この子は家に連れて行かれて怖くないのか?

女の子は、人形のように大人しく手を引かれている。

「ここに座って。今何か持ってくるから。」

リビングのソファーに座らせ、俺はキッチンに向かう。

昨日、秘書さんが茶葉を出してるのを見たのでそこから適当に茶葉を出して、お湯を沸かしてポットに注ぐ。

「はい、これ。」

さっき飲んだからいらないと言われそうだが、取り敢えず女の子の前に置く。

「‥‥。」

「‥‥。」

苦しい沈黙だ。

泣いた女の子との話し方など知らないからどうすれば良いかわからない、何より今は何か話すより女の子が何か言うのを待つべきだと思った。

かたっ。

女の子が、カップを取って飲んだ。

「‥まずい。」

この女、気を使って出したお茶の感想がそれか?

「それで、何か話す気になったか?」

「‥ごめん。」

まだダメか、俺はそもそもこの子と5番の関係すら知らない。

家に知らない人を上がらせるのは問題かもしれないけど、放って置く事も出来なかった。

「わかった。そこで適当にくつろいでて。話す気になったら呼んでくれ。」

返事を聞かずにキッチンに向かう、時刻は3時まだまだ早い時間だが、夕食の確認しておきたい。

冷蔵庫の中から何か使える食材はないかあさる。

「ひき肉があるな、めんどくさいしパスタでいいや。」

誰もいないし、簡単に出来て量もある。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る