第4章  灼熱の魔法師

 十日後––––


 ヴィルヘム国の国境を超え、隣国である南国・キルヒベルク国は、想像を絶する暑さだった。


 国境を超えた列車は終点・メルシュヴィルを目指して、レールの上を一直線に走り続ける。


 山を越えるたびに、山頂の方では白景色があり、夏から秋へと季節の変わり目を表しているかのようだ。


「ようやく、国境を超えたか……。予定日よりも五日も遅れたな……」


「そうね。でも、いいんじゃない、失うものなんてないんだし、何かは分からないけど……」


「そうだな。今さら急いだって意味がないからな……」


 ボーデンとラミアは、最後の列車に乗ってメルシュヴィルの前まで迫っていた。


「しかし、着いたとしても一体どうしたらいいんだろうな」


「どうしてかしら? 目的は決まっているんでしょ」


「そうなんだが……ここに書いている内容だと、これから会う人は、相当面倒な人らしい。なぜ、あの少佐にこんな知り合いがいるのかが不思議だ」


「それは誰だっているでしょ。変な知り合いしかいないのは貴方くらいよ」


「俺が……か?」


 ボーデンは首を傾げる。


 そんな話をしているうちに列車は、メルシュヴィル付近まで近づいていた。


 前に見える山を超えたら、目的地・メルシュヴィルである。


「それにしても長かった旅もそろそろ終わりだな。ラミアは、どうだった?」


「久しぶりに退屈な時間が出来たってことかしら? あの暗闇の中にいるよりかは遥かに楽だったけど……」


「そうか。そういえば、なんでお前はあの檻の中にいたんだ?」


「忘れたわ」


「あっそ……」


 二人が話をしているうちにトンネルを抜け、メルシュヴィルの街にたどり着いた。


 鉄鉱山の街として有名なこの地には、ボーデン達の目的でもある遺跡がある。そして、

この街にはもう一つやっておかなければならないことがあるのだ。


 列車は駅に停車し、そこから次の街へと行く人たちは乗り換えをしなければならないのだ。


「よっと……」


 二人はメルシュヴィルの地に足を踏み入れる。


「うわぁ、鉄の臭いが凄いわね」


 ラミアは少し鼻を摘む。


「まぁ、街が街だからな……。サールバーツに比べて、工業が発展しているから鉄の臭いや石油の臭いがしてもおかしくないだろ」


 目の前に広がる景色は、街と工場が隣り合わせであり、物を作っている音が駅のホームまで聞こえてくる。


 奥の方には、例の遺跡と鉄鉱山が聳え立つ。


「さて、ボーデン。最初はどこから移動するの?」


 ラミアが尋ねる。


「ああ。この国は中立国だから他国の軍人や人々が集まっている。確か、目印になる人物がどこかにいるはずなんだが……」


「誰なの? いや、そうでもないかもね……」


「そうだな。ものすごーく分かりやすいんだよ……。(いい人なんだけどな……)」


 二人は、駅のホームの片隅に一際目立つ大柄な男を見つける。


「そのようね。あれで間違い無いのよね?」


「間違いなく、あの人だよ」


 ボーデンは「はぁ」と溜息をつき、目印となる男の方へと歩いていく。


「おーい、こっちだ。こっち!」


 大男はボーデン達に気付いて、嬉しそうに手を振ってくる。


 周りの人々がそれに注目し、ボーデンとラミアは少し顔を赤らめ、注目を浴びる。


「恥ずかしい……」


 男はそんな事を気にせずにずっと手を振り続ける。


「エレキ少尉。恥ずかしいから大声で叫ぶのだけはやめてくれ……」


 ボーデンは、男に言った。


「何を言う。俺とお前の仲じゃないか。そんな悲しい事を言うなよ」


 男は大笑いする。


 男の名は、エレキ・フレーゲル。ヴィルヘム国の軍人であるが、出身国はキルヒベルク国である。歳は、ボーデンの三つ上の二十一歳。


 本来であれば、軍服姿でいるはずのだが、今日は私服姿である。古びたズボンに涼しそうな白のワイシャツを着ていた。


「まぁ、私服姿で仕事をするのが嬉しくてな。軍服だと暑すぎて、堅苦しいだろ?」


「それは分からないでもないが……母国に帰ってきたからと言っても、一応、仕事だからな」


「分かっている。これでも俺は軍人だ。自分の仕事くらい、しっかりとやるつもりだ」


 エレキはドンッ、と構える。


「それでお前の隣にいるちびっ子は、誰だ? 迷子か?」

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