Ⅴ
「ラミア!」
ボーデンは立ち上がり、辺りを見渡す。
ラミアも起き上がって、体半分横になったまま、相手の殺気を追う。
「気をつけた方がいいわよ。向こうからわざわざ仕掛けて来てくれるみたい」
「それならそれで、やりやすいってもんだ‼︎」
ボーデンは、ポケットから自分がさっき描いた魔法陣を取り出し、呪文を唱える。
「
ボーデンの体は、車内から姿を消した。
車内に取り残されたラミアは、周りの客を見た。
周囲におかしな所は見当たらない。
だが、何かしらの魔法を使ったのは確かだ。ただのボーデンを呼び寄せるだけの魔法だけではないはずだ。力は良好。いつでも魔法を発動できる。
「いやいや、この私がちょっとばかり本気を出さないといけないとは……ボーデン、気を付けなさいよ。敵は思った以上にやり手よ」
ラミアの瞳が赤くなる。
「おやおや、こんなお子様な手に乗ってくれるとは、国際魔法師であるお方がわざわざ、どちらへ行かれるのですか?」
男は、目の前に現れたボーデンに話しかけた。
「さーな……。俺も丁度暇していた所だ。相手になってやるって言っているんだよ」
ボーデンは、男を睨みつける。
「そうですか。十五歳にして国家魔法師、そして、同年に国際魔法師の資格まで取った神童」
「何が言いたい⁉︎」
「単なる昔話ですよ。なぜ、そこまでして若くありながら国際魔法師の資格が必要だったのか。同じ魔法使いだったらきになるものでしょ?」
「俺は気にならないね。誰がどんな物を追い求めようと、俺は俺自身の道を行くだけだ。他人の事など、構っている暇なんてない」
ボーデンは、男の動きを見ながら慎重に話を進める。
「そうですか。でも、私は、今、ここであなたを足止めしなくてはなりません。嫌、と言われても付き合ってもらいますよ」
「だったら、俺はてめぇーを倒して、洗いざらい吐いて貰うぞ!」
二人は戦闘態勢に入る。
「良いのですか? お連れの方を守らなくても?」
こんな時に他の話を入れてくる。
「ああ、あいつはあの程度の魔法でやられるような奴じゃねぇーからな」
ボーデンは笑って答える。
「そうですか。それは困りましたねぇ。こちらとしてもあなただけ、大怪我さえさせておけばいいと言われているんですが、お連れの方の命まで保証しろとは言われていない。よって、彼女の方は、殺しちゃいましょう」
「それはどうかな? お前にあいつを殺せるとは思えねぇ……」
動いている列車の上に立っていると、足元がふらつく。
列車の最前列から流れ込んでくる黒い煙が、邪魔をする。
「それは彼女も魔法使いだという事かな?」
「さあ……? 自分で確かめてみろよ」
緊張が高鳴り、動きたいが動けない。
「それは私の仕掛けた魔法で見させてもらうよ。こっちはこっちで、楽しもうじゃないか」
男は、何も呪文を唱えずに魔法をいきなり発動してくる。
水と氷が左右から襲いかかってくる。
「呪文なしの魔法か……。テメェー、一体何者だ⁉︎ 普通の魔法使いじゃないな‼︎」
ボーデンも何も言わずに、魔法を発動させ、男の攻撃を軽々と防ぎきる。
モーションなしで黒剣を取り出し、斬りかかる。
男もまた、槍を取り出し、ボーデンに対抗してきた。
剣と槍が交差し合い、足場の悪い屋根の上で金属音と火花、魔法が飛び交い合う。右手を屋根に添えて、鉄を変形させる。
「甘いですね。そんな力で私を倒せませんよ!」
男もボーデンに負けず、魔法を繰り出してくる。
二人とも魔法の威力は同等であり、本気を出していない。下にいる乗客に気を遣いながら、戦いをしているのだ。
火、水、風、雷と、様々な魔法が宙を舞う。
「お前、誰の命令で俺を狙いに来た⁉︎ この列車に乗ることは、極数人しかいないはずだ。言え! 誰の命令だ!」
ボーデンは叫ぶ。
一度も落ちていない黒の帽子を整え、男は笑っていた。戦いの中でも笑っている男は、不気味だ。底が知れない。
「さて、誰の命令でしょうか? 一つ、ヒントでも出しましょう」
男は、人差し指を口に添え、言う。
「十戒……」
「十戒……だと……?」
『十戒』と言う言葉を聞いて、首を傾げる。
聞いたことがない名前であり、十戒がどのような構成で動いている組織なのか、全てが不明な組織である。
「聞いたことも無いだろ? それもそうです。我々は、闇で動いている組織、そして、あなたは我々にとって最も貴重な人材の一人である。だから、我々のために協力する事は出来ますかね?」
男は、ボーデンを誘う。
だが、簡単に首を縦に振ろうとはしない。列車は走り続ける。
「その十戒が、なんで俺を必要とする? まだ、色々と訊きたい事があるようだな。俺を足止めするって事は、この先にお前たちが欲しがっているものがあるんだな」
ボーデンは、推理する。
「教えろ‼︎ あそこには一体何があるんだ⁉︎」
男の周囲に炎が弾け飛ぶ。水の魔法で防壁を作り、炎から身を守る。
「何があるとは言えません。我々が目的を果たすまで、あなたはここで怪我を負うのですから!」
男はスピードを上げ、容赦なくボーデンとの距離を縮める。
「くっ……」
ボーデンは後退しようと後ろへ飛ぼうとするが、それが出来ない。万事休すである。
「そのままの体勢でいなさい!」
と、背後から聞き覚えのある声が風に乗せて、聞こえてきた。
男の動きが急に鈍くなり、氷の粒手が無数に背後から男に向かって飛んでくる。
「どうやら、実行犯は貴方で決まりのようね。さて、二対一になったけど、どうする?」
いつの間にか、ボーデンの背中に乗り、首に腕を回している。
「ラミア、降りろ。息が苦しい!」
「あら、助けてあげたのにその言い方はないんじゃない? 何を手加減して戦っているの? こっちは、とっくに終わってるわよ……」
ラミアは飛び降り、男の方を見る。
「さて、今すぐにここから立ち去ろうとするならば、私も少しばかり本気を出さなくて済むんだけど……。どうする? 私とやってみる? それともやらない?」
ラミアは、フフフッ、と余裕そうな笑みでゆっくりと男の方へと近づいていく。
ラミアの瞳は赤色だ。吸血鬼だと言うことをバレてしまう。
「いや、さすがの私でも二人相手はキツイですね。ですが……」
男は、右手を3、2、1とカウントダウンを開始し、0になると、一瞬にして目の前から姿を消した。
「‼︎」
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