ボーデンは、噛まれた後の腕をじっくりと見た。


 痕は残っていなくとも未だに痛みなどは引いていない。自分の体内に吸血鬼の血が流れていると思うと、ゾッとする。確かに条件を聞かなかったボーデンが悪いのだが、予想もしていない事をされると、流石に戸惑いもする。


「それに吸血鬼の血は、魔法使いにとっても決して悪い事ではないわよ。血を吸われた従者は、吸血鬼の恩恵を受け、魔力が高まる。それに怪我の再生も少し早まるわ」


「それって、半分人間じゃなくなっているだろ……」


 ボーデンは頭を抱えた。


 自分が助けた女は吸血鬼であり、その上、相当なやり手だった。


 今思うに自分が行った行動は、間違っていたと言えばそれに近いが、はっきり言って凄い幸運とは言えない事だ。


「魔力を取り戻した私は、元の姿に戻る事が出来る。一石二鳥じゃない」


 ラミアは笑って見せた。


「どーこーだーがー。って、元の姿ってそれじゃないのか?」


 耳を疑った。今の姿が本当の姿ではない。


「ええ。本当の姿に戻ったら魔力を相当使うもの。だから、この姿が最適なの。人間に対してそこまで力も使わなくていいしね」


「なるほどな。それじゃあ、お前が本気を出す見る機会は一生無いんだな」


「そうなるわね」


 ラミアは自分の席に戻り、微笑んだ。


 ボーデンは、ラミアをじっと見て、それから溜息をつく。


「それで貴方はこれからどうするつもりでいるの?」


 そんなボーデンを見て、ラミアが話を変えた。


「そうだな。本来は、今日、約束していた人物と会う予定だったが、それが出来なかった。だから、ここから西区の一番大きな街、サールバーツに行こうと思っている」


「それで、その会う人物とやらは一体誰なのかしら?」


「ああ、現西区の––––」




     × × ×




 二日後––––


 東から昇る太陽が、西区の朝を照らすに東区から約三十分後の日の出だった。午前中は晴れ、午後から曇りの予報が出ている。


 列車は、汽笛きてきを鳴らしながら目的地へと線路を走り続ける。窓から見える景色は、数分置きに変わっていく。山が見えれば、平地が見え、途中には小さな街まで見える。各駅停車していき、ようやく西区の都市、サールバーツに辿り着いた。

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