第154話 ミノタウロス退治!
村の入り口の方から、ミノタウロスが出たと叫びながら人が走ってくる。子供や女性は急いで家の中へ入り、男性は武器を持って集まっている。
私達は人の流れと逆らって進んだ。
村の門は閉められている。でも門も柵も木製だ。力の強いミノタウロスなら、簡単に壊せちゃうよ。
「門を壊した直後を狙おう」
クロスボウを抱えたヴァンダと大槌を持ったドワーフのイーロが左右に分かれて、私とヘルカは正面で待機。
ミノタウロスは何度も門を叩き、
「
門が破られ、ミノタウロスが姿を現す。
人より背が高く筋肉質で、頭は牛、手には棍棒を持っていた。アレで叩かれたら、一発で死んじゃいそう!
「岩よ砂よ、絶え間なき嵐となって、縦横無尽に打ちつけよ! タンペット・ド・ロッシュ!」
ミノタウロスが村に入った瞬間を狙って、魔法を完成させるヘルカ。
タイミングをとるのが上手だなあ。
砂嵐が起きてミノタウロスを包み、小石や土の塊が勢いよく舞っている。ミノタウロスは動きを止め、顔を腕で隠した。砂が目に入ったら、痛くて大変だよ。
風が弱まったのを見計らって、私はストームカッターを唱え、ヘルカはクロスボウでミノタウロスを狙う。ヘルカの矢が足を貫き、風の刃は体を傷つけた。
「グオオォォ!!!」
痛みに前屈みになって
崩れ落ちたミノタウロスだが、再び立とうとしている。生命力が強い魔物だから、まだとどめには至らない。
ていうか、私はミノタウロスのとどめになるような魔法は知らないよ。
「よし、今だ今だ!」
武器を持って外に出ていた人達が、いつの間にか集まっていた。そして倒れているミノタウロスに斧や剣や金属のバールなど、持ち寄った武器で打ちのめしている。
メッタ打ちにされたミノタウロスは、さすがに絶命した。
やった! しかしこの場合って、誰が倒したことになるんだろう……?
「グモオオォォオ!」
「わあああ、また出たぁ!」
ぼんやり考えていたら、もう一体のミノタウロスが乗り込んできた。倒れたミノタウロスの側にいた人達は、蜘蛛の子を散らすように散り散りに去る。
「まだいたんだ! みんな、油断しないで!」
ヴァンダが再びクロスボウを構え、矢を放った。ミノタウロスは避けて、正面にいる私達に向かって突進してくる。
早い!
途中にいたイーロが大槌を振るけど、走って通り抜けてしまった。大槌が地面を打ち、くぼみを作る。イーロの体が弾みで跳ねた。
「魔法を使う時間もないよ!」
「二手に分かれて逃げましょう、ミノタウロスは知能が少ない魔物ですわ!」
私とヘルカは背中を向けて、正反対に走った。標的がその場からいなくなったミノタウロスはいったん止まり、ちょっと考えて私の方へ進路を決めた。
ヴァンダが矢を用意し、ヘルカも魔法の準備をする。
禁令で時間を稼げば、助けてもらえる!
殺気をまき散らしながら迫るミノタウロス。
牛顔怖い!!! けどそれどころじゃない、魔法魔法!
「間に合った」
とぼけた声とともに、黒い物体が降ってくる。
狼マルちゃんが空を飛び、ミノタウロスに体当たりをしたのだ。ミノタウロスは転がって仰向けに倒れた。
マルちゃんが追い掛け、ミノタウロスの牛頭を咥えて炎を吐く。
頭が黒焦げになり、さすがのミノタウロスもイチコロだよ。
「マルショシアス様ああぁ! 私を助けてくださったんですね……、素敵……ナイトのようでしたわ」
「俺が助けたのは契約者のソフィアだ」
「なんて奥ゆかしい方! ヘルカは無事ですわ!」
めげないヘルカを、マルちゃんが面倒そうに
「良かったな、じゃあ行くぞソフィア」
マルちゃん、戻ったばかりなのにもう逃げようとしているよ。倒れたミノタウロスにはまた人が集まり、完全に倒せたか確認している。討伐部位は角かな。
「ヴァンダの家に荷物があるから、取ってこないと出られないよ」
「討伐したって報告はしないの?」
ヴァンダが尋ねる。一体はマルちゃんが一人で倒したんだし、私も気になっていた。
「お前達でしておけ。さっさと準備しろ、遅くなるなら先に行くぞ」
「ええ、マルちゃんの意地悪~!」
マルちゃんはそのままヴァンダの家に向かう。私も慌てて追い掛けた。
「クールなところが一番素敵ですわ……」
ヘルカの目は完全にハートマークだよ。マルちゃんが何かする度に好感度が上がっちゃう。
罪作りな狼だね、マルちゃん!
……と言いたいのに、マルちゃんがヘルカから急いで逃げるから、茶々を入れる暇もないよ、もう。
ヴァンダの家では、ケットシーのゾラが廊下の雑巾がけをしていた。
「おや、あんた達だけかい?」
「うん、マルちゃんが戻ったから帰るね。お世話になりました」
「さっさとしろ」
マルちゃんは玄関の外で待っている。私は客間に置いた荷物のリュックを持ち、急いで家を出た。
「またゆっくり遊びにおいでよ」
「マルちゃんが困るから、ヘルカのいない時にねー」
ゾラに手を振って、マルちゃんに乗った。黒い翼をはためかせて、狼マルちゃん出発です!
村の入り口辺りでは、ヘルカがハンカチを振っていた。周辺に目を凝らしてみたけど、ミノタウロスも他の魔物ももういないね。村がどんどんと遠くなる。
「マルちゃんが何も告げずにお泊まりなんて、珍しいね。どうしたの?」
「アスモデウス様に会ってしまった……。契約者の方が使う薬草の採取を手伝ってきた」
「なるほど、マルちゃんらしいね!」
「そんならしさは、いらん」
いらんと言っても、持っているから仕方ない。アスモデウスとは、この近くの山中に恋人と暮らしている地獄の王で、恋人は薬草魔術が得意な魔女。宝石を握って呪文を唱えたり、『神秘なる魔女の会』とは違う系統の治療もするよ。
「そうだ、そこら辺の町で降りてよ」
眼下に見える町に降りてもらい、ギルドでヴァンダへ荷物を届ける仕事が終わったと報告した。さて、塾ももうすぐだし依頼は受けずに帰ろう。
「ねえねえ君」
「ちょっとちょっと」
マルちゃん、この先は乗せてくれそうにないよねえ。マルちゃんなら今日中に着いちゃうのにな。
「あの~」
「おいソフィア、呼ばれているぞ」
「え、私???」
考えごとをしていたので、自分が呼ばれているとは思わなかった。振り返ると、若い男性が立っていた。でも見たことない顔だよ。
「強そうな狼と契約してるね! 一緒に依頼を受けないか? 僕もDランクなんだ」
男性は依頼札を持っていた。
説明された内容は、これだ。
近くの小さな村で、黒い犬の魔物が出没している。子牛ほどの大きさで夜な夜なうろつき、危険を感じる。早急に退治してもらいたい。複数いて、数は不明。
「うーん、ソレを二人で受けるんですか?」
私にはマルちゃんがいるから問題ない。でも普通だったら、それなりに人数を集める依頼だよね。どういう計画なのか、聞いておかないと。
「もちろん、もう一人いるよ。立派な召喚師さ」
彼が示した先には、黒いローブを着て長い杖を持った人が、サロンスペースで椅子に座っていた。
「なるほど、召喚師」
現地で召喚して、味方を増やすのかな? 何が出てくるか楽しみだし、小さな村なら犬の魔物の群れは困っているよね。善行だ!
「受けようか、マルちゃん」
「かまわんぞ」
「じゃあ受けます! もっとメンバーを集めるんですか?」
「大丈夫じゃないかな。報酬が高くないから、増やし過ぎてもなあ。実際に様子を見て、もし大群だったら出直しした方がいい」
なるほど。手に余るようなら調査費用だけもらって、依頼料の上乗せか出兵を要請してもらうわけだ。
召喚師も立ち上がり、私達と合流した。
依頼終了の手続きを済ませたばかりの受付で、今度は受注する。村までは数時間かかるので、お昼を食べてから出発。お昼には少し早い時間なので、お店はまだすいていた。
料理が運ばれるまでに、簡単な自己紹介と打ち合わせをした。
「魔物が出るのは夕方から夜だけ。村の柵の外をウロウロしている姿を目撃されている。まだ村の中に入り込んだりはしていないらしいから、柵の内側で確認して、倒せそうなら外へ出る」
声を掛けてくれた人は、槍を使う冒険者。
召喚師がローブのフードを外し、挨拶する。彼もDランクだ。
「私は魔法は少しと、召喚術が使える。君達のサポートをするよ。『若き探求者の会』に所属していてね」
「一緒に仕事できて、光栄だよな! 『若き探求者の会』ってまだ知名度はないが、実はあの有名なカヴン『森の隠者の会』の会員の人の、お弟子さん達の会なんだ。憧れる~」
「知ってますよ、同じ会です。こんにちはー!」
嬉しいな、同じ会の人だ。しかも知ってて憧れてくれる人がいるなんて。
偉くなった気分!
「おお、すげえー! じゃあこの狼も、めっちゃ強い!?」
「めっちゃ強いです!」
盛り上がる男性と私。召喚師は目を丸くしている。同じ会の人がいると思わなかったのかな?
マルちゃんは視線をチラッと投げただけで、店員が運んでいる骨付き肉を心待ちにしていた。あ、他の人のだった。残念、まだ後だね。
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