第147話 盗賊退治、終了!

 弓での奇襲が失敗、魔法攻撃も効果なし。その上、飛べる騎士マルちゃんの登場だ。盗賊達は焦りを隠せない。

「無理だろコレ……」

 戦線を離脱するのは放っておいて、攻撃を仕掛けてくる敵に集中する。

 護衛が盗賊の武器を防いで、返す剣で斬り付けた。後ろに隠れている従業員は石を投げ、怯んだ瞬間に冒険者がこん棒で殴り倒した。

 着実に倒していくよ。

 

 この期に及んで、まだ魔法を唱える魔法使いには、マルちゃんが一直線に向かった。あっという間に距離が詰まる。

 魔法使いは片手を前に伸ばし、もう片手を肘の辺りに添えて詠唱を急ぐ。


「光よ激しく明滅して存在を示せ。響動どよめけ百雷、燃えあがる金の輝きよ! 霹靂閃電へきれきせんでんを我が掌に授けたまえ。鳴り渡り穿て、雷光! フェール・トンベ・ラ・フードル!!!」


 手のひらに光が弾けて、バチバチと音がする。黄色の輝きから火花が散り、一筋の稲妻になって放たれた。

 マルちゃんは止まらない。僅かに身を低くして、片手を顔の前にかざして防ぎながら進んだ。コートを翻すマルちゃんに、大きな音を立てる雷が当たって辺りが白く塗り替えられる。

 眩しさに目を閉じた。

 ゆっくりまぶたを上げる。再び視界が戻ると、マルちゃんは魔法使いを地面に抑え込んでいた。

 雷は攻撃力が強い、上位の魔法だよ。防御もせずに突っ込むのは常識的にあり得ない。当の魔法使いも、盗賊達もあ然としていた。


「うーん、近くで直撃したから腕が少し痺れる。抵抗したら手元が狂いかねん」

「ひっ……」

 脅しか本当なのか判断がつかないマルちゃんの軽い口調に、魔法使いが息を飲む。もう抵抗はしないだろう。

 頼みの綱が切れた盗賊達も大人しくなり、破れかぶれになった数人を倒して他は大人しく縄に縛られていた。

 三人組を追い掛けた冒険者が戻れば、終了だね。

 盗賊の捕縛と並行して、怪我の確認と回復をする。私も回復魔法を唱えたよ。その間にマルちゃん達は、捕らえた盗賊に尋問していた。


「あちらの逃げた方にも待ち伏せがいるのか」

「少しいる……、が、そんなに多くはない。あまり人数を割けなかった」

 盗賊の一人が簡単に喋った。マルちゃんは護衛と顔を見合わせる。

「こちらが落ち着いたんだ、助っ人に行って来よう」

「我々は見張っていますので、頼めますか?」

「構わん。猫の世話は頼んだ」

 護衛は見張りと回復の他に、二人が町へ知らせに走った。従業員は馬車のチェックや商品の確認をしている。ケットシーのアークは、商人の女性が預かってくれている。

「行こう、マルちゃん」

 私とマルちゃんは、森に消えた人達を追うよ。

「……お前は大人しくしていてもいいぞ」

「私がいれば、回復魔法が使えるじゃん!」

 邪魔にされてる!? 私もついて行くからね!


 盗賊達が逃げた道を辿り、森へ入った。細い道がある、このまま進んでいいのかな。

 途中で彼らを追い掛けていた丁稚の人が、こちらに向かって走って来る。何かあったのかも!?

「どうした」

「うわっ!?」

 マルちゃんが尋ねるとビクッと大きく震えて、方向を変えようとした。盗賊の一味と勘違いされている!

「安心してください、味方ですっ! 馬車はもう安全ですよ!」

「え、味方……?」

 男性はこちらに顔を向け、立ち止まった。


「そっちはどうなった」

「それが、数人の待ち伏せがあって、冒険者の方が怪我をされました。それでも善戦されています」

「分かった、私達に任せて! 馬車に戻ってください」

「すぐに応援を呼びます。あちらで戦っています」

 大きく頷いて、森の奥へ向けて指をさす。そして再び走り出し、私達の横をすり抜けた。

「いらん、待機させておけ」

 馬車の人達はマルちゃんが強いのは見ていて知ってるし、どっちにしても警備を手薄にしてまでは応援に来ないだろう。

 私達は丁稚の男性が示した方へと急いだ。人の声がする、近付いているよ。


「くそ、ランクが高い冒険者を雇いやがって!」

 負け惜しみを吐き捨てて、誰かが去っていく。盗賊が逃走してるんだな。木の葉の向こうに、三人の冒険者と倒れている人達の姿があった。

「止血をしよう、縛っておく」

「ぐぐ……っ、痛え……っ」

 腕に矢が刺さったんだ。地面には矢じりが血に染まって、折れた矢が転がっていた。別の冒険者が布で血をぬぐっている。

「大丈夫ですか? 私が回復魔法を唱えますよ」

 へへん、出番ですよ。戦いが終わっているから、マルちゃんじゃなくて私の出番だよ!


 冒険者達は勢いよくこちらを振り返った。手当をしていた冒険者は、反射的に怪我人を守っている。警戒されてるよ。

 私達の姿を確認すると、お互いに顔を見合わせて知らない顔だと話していた。

「あちらも盗賊の更なる襲撃があり、退しりぞけたところだ」

「私達も手伝ったんです。Dランク冒険者です」

 ランク章を示して、盗賊じゃないよと訴える。ようやく信じてもらえたみたい。

「回復魔法……、助かります」

 怪我人と私達の間で庇うようにしていた冒険者が、脇に身を引いた。

 私は怪我をした腕の横に移動し、深呼吸して回復魔法の詠唱をした。


「柔らかき風、回りて集え。陽だまりに揺蕩たゆたう精霊、その歌声を届け給え。傷ついた者に、再び立ち上がる力を。枯れゆく花に彩よ戻れ。ウィンドヒール」


 風属性の、初級の回復魔法だ。

 優しい風が吹いて、温かく甘い香りがする。その風が傷口に流れ込むように吹いた。タオルを汚していた出血がとまる。怪我した腕で戦ったんだろう、服が血だらけだよ。

「ありがとう、痛みが治まったよ」

 ……完治はしなかった。予想より傷が深かったのだ、それに他にも切り傷や打撲がある。これはポーションや中級の魔法じゃないとダメだ。

「すみません、力不足した……」

 私が治せると意気揚々としていただけに、ちょっと恥ずかしい。

「気にしないでください、だいぶ楽になったから」

「よし、あとは残りのヤツラも縛って連行だな」


 逃げたのは二人。待ち伏せしていた五人と、追っていた三人のうちの一人を倒していた。

 商品の奪還には成功している。もうこれ以上追う必要はないだろう。

「戻ったらポーションを使ってもらおう」

「そうだな、急いでいても一つ二つは持つべきだった」

 冒険者達が喋りながら、怪我をした盗賊を縛る。

「おやおや、こんなところで人族同士が戦ったのかい」

 木の後ろから顔を出す、白いもふもふ。羊人族だ。

「盗賊を追って来ました、終了したのでもう戻ります」

「そうかい、あ、その死んでる一人も必ず連れて行ってくれ。食人種カンニバルを呼んだら大変だ」

「そうだな」

 さすがに連行しながら遺体を運ぶのは大変だ。戸惑う冒険者達をよそに、マルちゃんが抱える。羊人族がひょいっと木の根を軽く飛び越えると、後ろからもう二人も姿を現した。


「治りかけの怪我だね」

「この薬を使うといいよ」

 後ろにいる羊人族が、茶色いカバンから塗り薬と貼り薬を取り出した。羊人族は薬草医の多い種族だよ。冒険者は素直に手を出して受け取った。

「ありがたい、お礼は……」

「薬草とか食料とか子供のお菓子とか、元気になったら差し入れておくれ」

 羊人族は手を振って森の奥へ消えた。

 この近くに村があり、物音が心配で出てきたみたい。村に行きたかったなー!

 盗賊と取り返した品物を手土産に、荷馬車に凱旋だ。


 町の兵が到着していて、犯罪者の移送用馬車も手配したそうだ。兵に盗賊を引き渡したら、終わりだね。あとは逃げた二人の捜索もお願いする。

 商人達は期日があるから、ここでゆっくりしていられないのだ。

「やあレディー達! 大活躍だね」

 馬車の外で兵と話す商人の女性に抱かれて、アークが前足を上げ肉球を披露している。

「助かりました。お礼と、アークをお返ししませんと」

 逃げられはしたものの、大事なものを取り返せて商人の女性はやっと人心地ついたと笑顔を見せた。


「ギルドで依頼を見てました。行く方向が一緒なんです、町までご一緒しませんか? 今からでも護衛依頼としてくれたら、それでいいです!」

 どうよ。交渉も上手くなったよ。

 女性はその方が心強いと、次の町で依頼としてギルドに出してくれることになった。受注即達成。効率がいいな。

「町で依頼を受けてくだされば良かったのに」

「ランクの問題がありまして……」

 制限を付けられていたからね。女性はあっと小さく声を発した。

「そうでしたわね。ランクが低くても、頼りになる方はいらっしゃるのね。勉強になりましたわ」

 

 まあ護衛依頼はランク制限があって当然だし、ランク高い人の方が強いっていうのも、普通はそうだよね。召喚術師って実力を測りにくいんだなあ。

 しみじみと感じた。

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