第96話 ハルピュイア戦!

 だんだんと近づいて来る、ハルピュイアの群れ。十や二十じゃない、本当にたくさんいる! 魔法の攻撃範囲に入ったかな、というところで詠唱を開始した。


「大気よ渦となり寄り集まれ、我が敵を打ち滅ぼす力となれ! 風の針よ刃となれ、刃よ我が意に従い切り裂くものとなれ! ストームカッター!」


 飛び交うハルピュイアに、風属性の攻撃魔法を唱える。胴体を狙ったつもりなんだけど、片方の羽が切れて地面へと墜落した。

「ギイイイィィ!!」

 ハルピュイアの甲高い啼き声は、なんだか不快感がある。

「いい狙いだな、ソフィア!」

 マルちゃんに褒められたよ! この調子、この魔法なら矢よりも威力を持ったまま遠くまで届く!

 まずはヤツらが攻撃に入る前に、少しでも撃ち落とさなきゃ!

 私とオルランドの魔法で数を減らして、隊商の専属護衛が矢で狙いを定める。


 群れから離れたのは、マルちゃんやシムキエルが飛んで倒しに行った。

「マルショシアスさん、飛べたのっ!?」

 隊商の護衛の魔法使いの女性が、驚いていた。まだ飛ぶところを見ていなかったっけ。黒い騎士って、飛べると思わないよね。彼女はハルピュイアが馬車に接近した時に防御をするので、今は控えている。魔法使いが三人いるから、分担できるね。

 槍の男性は数本射てから槍を構えて、馬車の前に立った。剣の男性はまだ弓を使っている。

「かなりの大群だが、この調子ならイケる。飛べる方との共闘なんて、そうそうないからな。無駄に矢を射るな。邪魔にならないようにしながら、確実に仕留めるんだ」

 リーダーである槍の男性が、声を張って指示を出した。


 商人の馬車に乗って護衛をしている魔法剣士も、外に出て扉を守っていた。彼は依頼主の商人を守ることに専念する。

 そうこうしているうちに、さすがに抑えきれず一羽、二羽と馬車にハルピュイアが迫った。武器を持った人が応戦するから、私たち魔法使いは攻撃が当たらない場所に避難しながら魔法を使う。

 今はマルちゃんもシムキエルも、空で戦っているよ。守ってもらえないからね、自分で頑張らないと!

「君達は後ろにいて、絶対に前に出るな!」

「はいっ」

「頼んだよ~」

 ついに一匹のハルピュイアが、私達の前にいる護衛に照準を定めて突っ込んできた。

「キュアアアァ!」

「いつ聞いても耳障りなっ」


 鋭い爪をギラつかせて襲い掛かる敵を、男性が槍で突いて串刺しにした。更に横から迫る別の個体に向かって槍を横に振り、叩いて地面に墜落させる。もう一人の護衛が剣で斬りつけ、すかさずとどめを刺した。

 魔法剣士は剣に氷を纏わせていた。攻撃が掠るだけでも、ハルピュイアはよろよろと飛びにくそうにする。中空で逃げ帰れずにいるそれに軽くジャンプして、真っ二つに切り裂く。

 マルちゃんとシムキエルも順調に倒して、金切り声を上げるハルピュイアが、ボトボトと地面に落ちていく。残りはもう少し!

「ソフィア、左、左~!」

 オルランドの叫び声で左を振り向くと、ハルピュイアが私に向かって低空飛行をしている! 避ける、避けなきゃ!

 でも避けたら荷馬車にぶつかる、これはいいの!?


「プロテクション!」


 魔法使いの女性が唱えてくれたあ!

 ハルピュイアは防御魔法の壁に阻まれ、ガンとぶつかって後ろに下がった。そこに槍の男性が飛び込み、槍を振るって倒した。

「あ、ありがとう……」

「ダメだよ~、もっと色んな方向を注意しないと。飛ぶ敵は、どこから来るんだか分からないんだからねえ」

「まあまあ。目の前で戦いがあると、そちらに目がいっちゃうんですよね」

 オルランドに叱られた。女の子は苦笑いしながらも、フォローしてくれる。

 ハルピュイアはほとんど倒し終わって、亡骸がたくさん転がっていた。これは後片付けしないと、食人種カンニバルを呼ぶね……。

 地上に降りたのは、剣士と槍の人が倒し終わっている。まだ残った敵がいないか、周りを確認して、空も見渡す。


「あっちに逃げた!」

 数匹のハルピュイアが、方向を変えた。マルちゃんがすぐに追う。逃げた先には、後から来た荷馬車が!

 向こうの人達も異変に気づいているだろう、止まって様子を窺っていた。護衛らしき人が、外で指示を出しながら守りを固めている。

 弓を引き絞り、矢を放つ。初級の魔法攻撃も行われている。

 マルちゃんは先に低空に移り、ハルピュイア達を狙いやすいように離れた。討伐依頼じゃないから、この場合は放っておいてもいいんだよ。私達は護衛依頼を受けた隊商を守るのが一番だからね。

 とはいえ、こちらにはシムキエルもいるし、敵があちらに移ったから問題はない。天使なのに守りに行かないんだ、シムキエルってば。さすが破壊の天使。


 私は怪我をした人に回復魔法をかけて、治療をしている。依頼主の商人が用意しておいたマナポーションを貰って飲んだ。

「回復魔法が使えるっていうのも、助かるね」

「あまり大きな傷は治せないんです」

 今回は怪我を負った人が軽症だったから、私でも大丈夫だったよ。ちょっと危ない場面もあったけど、役に立てたな。

 向こうでは護衛達が応戦し、対応しきれなかった分をマルちゃんが倒し終えたところ。お礼を言われている。

 シムキエルは剣を仕舞って、荷馬車で足を組んでいた。

「アイツら下品で好きじゃねえ」

「ええ、それシムキエルさんが言うの!?」

「……なんだとテメエ」

 思わず本音が口を飛び出して、睨まれてしまった。怖い。


「仕方ないよシムキー、僕もそう思う~」

「テメエまで一緒になるんじゃねえ!」

 オルランドは火に油を注いでるの!?

 ここは知らないフリをして、ハルピュイアの片付けを手伝おう。ハルピュイアは素材にならない。ただし害獣扱いだから、討伐すると多少のお金がもらえる。倒さずに放置したら、繁殖して大変らしい。

 討伐部位である足の爪を残して、後は埋めるのだ。あちこちに散らばっていて、集めるのも大変。見回りの兵でも来て、手伝ってくれないかなあ。

 隊商の人達と協力して作業をしていたら、後ろの荷馬車がマルちゃんと一緒に追 

いついた。


「ありがとうござました、お陰様で怪我人も出さずに済みました」

「お互い無事で何より」

 挨拶してくるのは、女性だ。女性の商人なのね。隊商を率いるような人は、男性が多いよ。こちらの隊商の商人と、握手している。

 あちらから申し出てくれて、一緒にハルピュイアの片づけをした。思ったより早く済んだよ。荷馬車はその後も、しばらく私達の後ろを走っていた。

 次の町で休憩するのも、やっぱり同じ。


 私達は、まずギルドへ。ハルピュイアの討伐部位を出して、換金してみんなで山分けした。嬉しい臨時収入だ。向こうの護衛が倒した分は、向こうで持っているよ。

 それからみんなで、町外れで休んだ。

「俺達は護衛っていってもCランクだし、対空戦は慣れてなかったから。本当に助かったよ」

「スゴイよね、騎士様が飛んでくるからビックリしちゃった」

 リーダーの男性がマルちゃんに頭を下げ、女性も水を飲みながら頷く。

「別に、戦力が余っていただけだ」

「そちらが襲われていたのに離れて静観していたから、まさか駆け付けてくださるとは思いませんでした」

 商人の女性は、戦力不足で援助できなったことを謝罪している。護衛の人数やメンバーからしても、あの場面で助けを出すのは難しそうだよ。

 私達の雇い主はというと、得意満面だ。


「いやあ、今回は優秀な護衛が雇えたからね。専属で雇っているみんなも、しっかり働いてくれた。無事に目的地に着いたら宴会だな!」

「やったね! 頑張ろうね、みんな」

 一番喜んだのは魔法使いの女性だ。お酒が好きなのかな。他のメンバーは笑っている。シムキエルも張り切るね、これは。

「皆様はこれからまだ東へ?」

 笑い声が途切れたところで、商人の女性が尋ねてきた。

「ああ、そうだ。もっと東なんだ」

「ではこの町でお泊まりになるんですか?」

 なんでだろう? 商人もきょとんとした。その様子に、もしかしてと女性が大きく口を開く。


「この辺りでギルドに寄っていないなら、ご存知ないですね! この先で大規模な魔物の討伐が行われるそうで……、それで私はランクの高い冒険者が雇えなかったのです」

「なんだって! まさかこんな時に……!」

 雇い主もビックリしてるよ! 巻き込まれたら大変だ。いつだろう、納期に間に合うの!??

 国境を越えたからなあ、あっちのシャレーにまでは伝わっていなかったんだ!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る