第26話 2人の帰り道

「ふふーん。こうして一緒に帰るのって初めてだよね」


「確かにそうだよな。付き合いだしたのが冬休みだから学校がなかったものあるけどね」


「でもこうして大樹くんと一緒に帰れる日が来るなんて……。怪我もしてみるものだね。これからずっと捻挫しててもいいくらいだよ」


「そんなの嫌だよ。俺は瑞波には元気でいて欲しいし。これじゃあどこにも遊びに行けないよ」


 今は瑞波と一緒に帰っている途中。荷物は俺が持っているのだがやっぱり捻った足は痛そうだ。


 できるだけ俺には隠してるっぽいけど俺には分かる。軽いとは言っても捻挫したら痛い。


 家には誰も居ないって言ってたからせめてバスか、タクシーでもいいと思ったのに歩きたいって瑞波の方が譲らなかった。


 理由は単純に俺と一緒に帰りたかったらしい。こんなに無理してまでしなくていいのに。今の俺は瑞波と一緒に帰れてる喜びよりも一歩一歩歩くたびに顔を歪める瑞波を見るのが辛い。


「瑞波。ちょっと公園があるから休憩しよう」


「えっ? 私は大丈夫だよ。家まで半分もないんだし」


「うそ言うな。もう限界なんだろ?」


 俺が強めにそう言うと瑞波も観念したようにコクンと首を縦に振った。ゆっくりと公園に入って傍にあったベンチに瑞波を座らせる。


 片足使えないだけでかなり負担になるんだろう。瑞波は冬だというのに薄っすらと額に汗を掻いていてそれを裾で拭っていた。


 でもそれと同時に何故か目には涙を溜めていた。


「ごめん大樹くん……やっぱり足……が痛い……」


「瑞波っ……」


 捻挫して俺が支えるとは言ったもののケンケンで帰っていた訳ではないので、やっぱり足首には相当な痛みがあったに違いない。


 もうこれ以上瑞波にそんな思いはさせられない。部活終わりで多少きついが俺は行動にでた。


「瑞波、俺の背中に乗って。ここからは俺が負ぶって帰る」


「え? いいの? でも大樹くんに悪いよ。今日の部活だって相当下半身に負荷かかるトレーニングしてたんだし私まで負ぶったらそれこそ大樹くんが危ないよ」


 確かに言われればそうだ。今日は徹底的に下半身をいじめられた。フラフラになってる人もいたし。俺だって限界が近い。明日は筋肉痛確定だ。


 でもそれがどうした。最愛の瑞波が痛いって言ってるのに何もできないんじゃこれまで鍛えていた意味がない。


 ただソフトボールでホームランを打って守備で活躍するためだけに辛いトレーニングをしてきたんじゃない。こういう時の為だろう?


「俺は大丈夫。瑞波が応援してくれたら俺はなんでも出来るしな」


 好きな人の応援ってマジで力になると思う。研究では証明されてなくてもこれはガチだ。たぶん好きな人の前でカッコイイところ見せたくなって頑張れるようになるんだろう。


「なら……失礼します……わぁ大樹くんの背中大きくてしっかりしてる」


 一瞬で足の痛みを忘れたのか俺の背中をぺたぺたと触ってくる。ちょっと恥ずかしくなったので「よっ」っと一声かけて瑞波を持ち上げた。


「大丈夫? 荷物は瑞波任せるぞ」


「うん。じゃあごめんなさい……お願いします」


「オッケー任せろ。瑞波は俺がちゃんと送り届ける」


 と意気込んでいたのだが……


(これ思った以上に密着度高くないか?)


 正面からハグするのもかなり密着度が高いがこれはこれで高い。背中越しに感じる瑞波の吐息とか手に感じる太ももの感触とか背中に押し付けられる柔らかい感触とか……。


 っていかんいかん。そんな変態的なことを考えちゃだめだ。それはしちゃいけない。


「んっ……」


 ってなんか背中から色っぽい声が聞こえるんですけどぉぉ!? これはあれだよね? 足が痛くて出てしまった声だよね? それ以外ないよな?


 誰か教えてくれ~!


 こうして俺は何故かトレーニングでボロボロになった下半身以上に精神力を削られながら瑞波の家へと行ったのだった。











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