4 アオイさんは友達が欲しい
「もしかしてアオイさんですか?」
圭太が無意識のうちに発した質問に目の前の少女──アオイさんは『うん、そうだよ』と軽く返事をする。
どこからどうみても普通の少女にしか見えないがここに来るまでに起こった出来事を考えれば、彼女が『アオイさん』だと言われても何の違和感もなかった。
「それにしても君は冷静だよね。こんな人今まで私見たことないよ」
部屋の周囲を歩きながらこちらを観察するアオイさんにどこか拍子抜けしてしまった圭太はとりあえず『どうもありがとうございます』とお礼の言葉を呟く。それから頭の中に浮かんだ疑問を口にした。
「それでどうして僕だけを連れてきたんですか?」
圭太が一番気になっていたのはやはりここに連れてこられた理由。あの場には圭太の他に昴と冬馬の二人もいた。その中でどうして自分だけがこの場所に連れてこられたのか単純に疑問だった。
「うーん、それは君が私の好みだったからかな?」
そんな子供のような理由に一瞬だけ動揺するが相手はあのアオイさんだ、何か他に意図があるのかもしれない。そう思って彼女を見るが返されるのは笑みだけ。どうやら本当にこれだけの理由らしい。
「あの、僕って帰してもらえるんですか? 出来れば元のところに帰して欲しいんですけど」
「えー、せっかく来たんだからもっとゆっくりしていってよ」
「ゆっくりと言われましても……」
圭太は困っていた。このまま帰ったら呪われそうで、かといっていつまでもこの場所に閉じ込められるのもごめん。それ以前に帰り道が分からないという問題もあった。詰んでる、圭太は率直にそう思っていた。
「もう仕方ないな、分かったよ。君を帰してあげる。でも一つ条件があるからね」
アオイさんの出した条件、それはアオイさんと友達になること。それだけで帰れるのだが圭太はどうも警戒していた。それを承諾することで何か起こるのではないか、やっぱり呪われたりするのではないかと。
だが圭太には選択肢などなかった。友達にならなかったら帰れない、友達になったら帰れる。そのどちらかを選べと言われて友達にならないという選択肢を選ぶ者はほとんどいない。もちろん圭太も選ばなかった。
「分かりました。友達になります、なるのでどうか呪いだけは……」
「……ん? 呪い? まぁ良いけど友達になってくれるってことで良いんだね? ところで君の名前は何て言うのかな?」
どこか嬉しそうに聞いてくるアオイさんに対して咄嗟に圭太は『圭太です』と自分の名前を言う。
「へー圭太君か、良い名前だね。じゃあ私から離れないでね」
アオイさんの言葉に『はい』と返事をした瞬間、周りの景色が急に切り替わった。気づくとそこは学校の廊下、圭太は念のためアオイさんに確認する。
「……戻れたんですか?」
「そうだね」
廊下から外の景色を見る限りどうやらここは先程までいた校舎一階だったが、そこに昴と冬馬はいない。自分を置いてどこかに行ってしまったのだろうかと圭太が辺りを見渡していると、どこからか声が聞こえてきた。
「おーい圭太!」
夜の学校で見回りの先生が来るかもしれない中での大声に圭太は慌てて声がする方へと向かう。するとそこには昴と冬馬の二人がいた。
「心配したぞ、圭太。一体どこに行ってたんだ?」
「ちょっと色々あって……」
こちらを見る昴はかなり心配そうで事実を言うべきか悩んだが、言ったところで信じて貰えないか、信じて貰ったとしても今以上に心配をかけることは避けられない。それを考えるとアオイさんのことをこの二人に話すことは出来なかった。
「まぁいいか。でもまたいなくなられても困るからな。今日は帰ってゆっくりしてろ。後は俺達二人でやるからよ」
「うん分かったよ、昴。それと冬馬もごめん」
「おう、ゆっくり休めよ」
「気にしなくていい」
昴と冬馬に送り出されて、そのまま校舎の外へと出ると背後に誰かの気配を感じた。先程二人と話しているときは感じなかった気配に後ろを向いて確認すると、そこにはアオイさんがいた。まさかこのままずっと家までついて来る気なのだろうか、そう思った圭太は彼女に問いかける。
「あのアオイさん……」
振り向き様の問いかけに何か用事でもあるの? とでも言いたげな顔をこちらに向けるアオイさん。
しばらくして何を勘違いしたのか彼女はなるほどと何かに納得して的外れな言葉を放った。
「大丈夫、私の部屋は圭太君と一緒で良いよ」
やはり家に来る気なのかと圭太は心の中でため息を吐く。今のアオイさんの発言は誰がどう聞いても、今後圭太のお世話になると捉えられる発言だった。
「やっぱりアオイさんは僕の家に来る気なんですか?」
「ん? そうだけど駄目だった?」
「いや、駄目と言うかそれってつまり……」
圭太が言葉を濁したところでアオイさんは何か察したような顔をすると『大丈夫だよ』と圭太の肩を優しく叩く。
「もう圭太君は心配性だな。大丈夫だよ、私の姿は私が姿を見せようとしている人にしか見えないんだから」
そういうことではない。やはり言葉にしてはっきり伝えないと駄目なのだろうと圭太はアオイさんの肩を両手で掴む。
「……圭太君!?」
圭太の大胆な行動に顔を赤らめるアオイさん。つられるように勢いだけで彼女の肩を掴んだ圭太の顔も赤くなっていた。
「違うんです。アオイさんが家に来たら……それってつまり同棲になりますよね」
少し直接的過ぎたかと圭太がアオイさんの表情を窺っているとアオイさんは咄嗟に背中を向ける。
「アオイさん? 急にどうしたんですか?」
突然背を向けたアオイさんを圭太は心配そうに呼び掛けるが返ってきたのは『ちょっと待って』の一言だけ。
背を向けた彼女から『どうしよう、もしかして私いやらしい子って思われちゃったのかな?』という声が聞こえるため、多分同棲ではないかと指摘されるまで先程の発言が同棲を意味しているということに気づいていなかったのだろう。
それからどれくらい経ったか、時間にしてそう長くはない沈黙の後アオイさんは再び圭太に顔を向ける。
「でも圭太君、私には圭太君の家に行く以外の選択肢はないんだよ。うん、だって私はもう圭太君に取り憑いちゃってるんだからね!」
自分自身に言い聞かせているようにも聞こえるアオイさんの衝撃的な言葉に圭太はただ口を開けることしか出来なかった。
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