第5戦 神の悪戯か

 どうやら、プラウダは聞き上手だったようだ、友が少ない私との会話が時間が経つにつれて弾んでいったからな。それにしても、この会話はプラウダが好青年であるという事に気づける有意義な時間だった。

 因みに、プラウダと出会ったばかりの時の彼への評価とは180度違うということは言うまでもないだろう。


「あの~、スターリン……書記長?」

「君はさん付けで構わない」


 もう私は書記長はおろか政治家ですらないからな


「ふふっ、分かりました。じゃあ、こんなことを聞かせて頂きますけど、スターリンさんは何故この時代に転生してしまったんですかね?」


 プラウダの質問は非常にいいものだった。だが、私がその質問の答えをプラウダに用意できない事が残念極まりない。私がこの世界に転生したという事を理解してからというもの、ずっとこの事を考えていたがまともな答えは全く導きだせていない。

 まず、なぜ私だけが現代に転生してしまったのだろうか? 私の周りには多くの人間がいた、例えばモロトフやマレンコフ、更にはベリヤ、フルシチョフ……数えればきりがない。

 もしかしたら、私は普通の人間にはない何かを持っているだろうか? だとしても、それは転生したことに対しての明確な説明にはならない。

 駄目だ駄目だ、いくら考えても分からない。こうなると時間の無駄だ。

 私は困った顔で両手を広げながら、プラウダに返事をした。


「プラウダ、残念ながら私はその問いに答えることができない。だが、当然と言えば当然だ。なぜなら、転生などと言う現象が、この世界の中で私以外の人間の誰に起きた? きっと、その答えは『いない』だろう」

「まあ、……そうですね。普通、転生なんてありえませんもんね。う~ん、だとしたら、神様のいたずらかもしれませんね」


 プラウダは私の考えに納得したようだが、私はプラウダの発言の中に私の気に障るものがあった。その発言とは、「神」だ。神だと⁈ そんなものは存在しないにきまっている!

 第一、宗教は麻薬だ! あんなものにすがった所で自分の状況が変わる訳では無いのに、なぜ神や宗教を心の拠り所にする連中がいるのだろうか?

 しかし、プラウダと私では時代観が大分違うのだから、ここは落ち着いて受け流さざるを得ないな。また明日にでも、この哀れな青年に宗教を信仰すること自体が間違っていることを教えてやろう。

 それにしてもあの時、宗教に対しての政策の方向性を変えるべきではなかったな。


「まあ、考えても分からないことにこだわるのは意味がない事であるからな。だから、今は、これからをどうするかという事を考えたい。プラウダ、いい提案だとは思わないか」


 プラウダは、私と談笑し始めてから初めて少しだけ真剣な表情になって答えた。


「はい、確かにその通りですね」

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