聖赤翁-Santa Claus-

恋住花乃

第1話 聖赤翁の誕生-オリエンテーション

「よし。完成したぞ。関義文の新たな物語が幕を開ける。」その男は,ペスト菌を扱う医者のような姿で彼を手術した。


「あぁ。助かった。お医者様ありがとうございます。なんだかとても体調がいいです。」

「これからクリスマスに向けて,リハビリをしてもらう。久しぶりの人間界で上手く適応するためにな。まずはこの制服に着替えてくれ。」

「分かりました。心より感謝致します。」


龍文は制服に着替えた。彼の頭は警官時代を思い出していた。色々な事件に携わった記憶が頭の中を駆け回る。

「だが,高校の制服みてぇだな。学生気分か。」


制服の胸には「samsara humanity inc.」と刺繍が施されている。ここはサンサーラヒューマニティ社の養成施設なのである。


「着替えてきました。これから何かありますか?」

「オリエンテーションが待っている。よし準備は出来たか。ここの部屋に行ってくれ。1301教室だ。」

「分かりました。」手術室を出て,オリエンテーション会場に向かった。


そして,校長先生による歓迎の挨拶が開かれた。

「皆さん,こんにちは。私はサンサーラヒューマニティースクールの校長を務める豊岡有紀と申します。再びこの世界にようこそお越し下さいました!」校長先生は女性の方であった。

「まずは私の経歴についてお教えいたしましょう。」彼女はパワーポイントを使って自分の経歴を紹介した。


豊岡有紀は,1975年に生まれた。男の子として誕生し,主に文化部系の趣味を持っていたが特に性別に違和感があるということはなかった。思春期を迎え,周りの男子がエロい話をしている時に彼は耳をふさぎたくなった。

「おい有紀。男らしくねえな。何気にしてんだよ。そんなこと。」

男らしさとは?自分は男らしくないのか?そのことを考えて有紀は悩んでしまった。


クラスで会話していると女子のほうが波長が合う。しかし,やはりデリケートな話になると「何聞いてんのよ。有紀。外に出てもらえる?」と追い出されてしまった。


自分は男なのだろうか。それとも女なのだろうか。男らしさとは?女らしさとは?

考えるたびに頭が痛む。男の体で女らしさを身に着けることはよくないことか。


自我同一性の拡散…そうとでも言おうか。自分らしさを見失っていた。無気力なまま暫くは過ごしていた。だが長いこと考え続けて手に入れた結論は「自分は男性でも女性でもどちらでもよい。自分は自分である」というものであった。考えるだけで無駄である。


心理学を基礎から学び,挫折したものや困っているものの相談に乗った。そして2000年にMr.Xから指輪を受け取った。そして2005年に一般女性と結婚し,娘を授かる。しかしその10年後の2015年に急性心不全で逝去したということである。


「豊岡さんはなぜ存在しているんですか?死んだはずではないのですか?」オリエンテーションに出席する一人の若者が質問を投げかける。


「いい質問ですね。私は人間ではありません。皆さんと同じく人造人間なのです。」

「人造人間?俺たちは人間じゃないのか?」会場全体がざわめいた。


俺は人造人間なのか。義文はその話を聞いて周りと同じように驚きを感じた。

今感じている感覚はいったい何なのか。どのようにして自分の記憶との連続性があるのか。疑問も同時に感じた。


「皆さん落ち着いてください。その体に違和感はないでしょう。高度な技術によって形作られていますから。」豊岡は話を続ける。


そうして体の使い方について説明を受けた。

・動力源は「食事によるエネルギーチャージ」である。

・酒も飲める。

・お風呂なども入ることができる。

・しかし,生殖能力はない。


とほぼ人間と同様なことができるということであった。


「睡眠や食事ができれば十分だ。こんな老いぼれに性欲や生殖能力なんて不要だ。」

義文はオリエンテーションが終わった後にそんな感想を抱いた。









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