3章 第15話
時は数分前に遡る。
「…!」
「…どうやら、解けたみたいだね。」
結論から言えば、ルウは二人に…負けた。より厳密に説明するならば、シノの能力・メンタルハックによって精神介入を阻害したのだ。
それもこれも、メイリという助っ人が来てくれたからこその結果である。もし彼女が居なければ、毒によって彼の隙を生み出す事も、拘束する事も困難だっただろう。防衛戦しかないと悟った時は、正直もっと長期戦になると予想していた。最悪ルウの命を奪う事になるかもしれないと覚悟していたが、杞憂だった様だ。
「…何で。」
「僕の能力で、君の洗脳を解いた。同時に、君の正体も、後ろにいる存在も分かってしまったけどね。…どうする?まだ戦うかい?」
彼は、本来ならば敵である立場なのだ。尚も交戦を仕掛けてくる可能性は極めて高いと思われた。だが…。
「…嫌だよ、もう…。何で…助けたんだよ…!」
彼は首を横に振り、涙ぐんだ声を荒らげた。まるで、殺して欲しかったと言わんばかりの叫び。
「…僕だって好きで助けた訳じゃない。何なら余計な手加減をする必要がない分、その方が楽だった。けど…ノア君に頼まれたからね。」
「……ノアが?」
少し離れた場所に闇影の巨体が垣間見える。今も戦っているであろう彼等を思い浮かべながら、シノは頷く。
「絶対に殺すな。そう言われたからね。彼からあんな殺気立った目を向けられたのは初めてだよ。…それ程、君と関わってきたって事でしょ?」
「……。」
彼が苦しんでいる理由は至極単純。ただ単に、こんな事繰り返したくないのだ。だが、精神介入と、実の妹の存在が、ルウを縛り付けている。もし、残忍な性格を持っていたなら、死を望んでしまう程追い詰められる事はなかっただろう。どちらが幸せかは、分からないが。
「本当は、どうしたいの?」
「僕は…。」
「…っ!?」
その時、耳を劈く雄叫びが向こう側から響いてきた。反射的に振り返ると、闇影が何やら黒いオーラを得物に纏わせ始めている。
「…何、あれ…。」
メイリの、焦りが混じった呟き。それもその筈。遠目からでもわかるのだ。その禍々しさが。
「…っ!」
ルウが、立ち上がった。恐らく、衝動的に。何かに突き動かされる様に、闇影が居る場所を目指して駆けた。そして…。
「…!ノア…!」
その目に飛び込んできたのは、闇に呑み込まれようとしている三人の姿。勿論その中には、ノアの顔も見受けられる。
「止めろ!」
必死だった。立場や後先の事等、頭から完全に抜け落ちていた。
「闇を照らせ!」
ルウは、即座に懐から一枚のカードを取り出す。それには、太陽の下で消えかけている悪魔の絵柄が描かれていた。
彼の魔術により、その事象を具現化させる。すると、目を開けていられない程の眩い光が降り注いだ。闇影が放った闇が、全て焼かれる様に消えていく。
「グゥ…?」
闇影が不思議そうにルウの方を一瞬見遣った。まるで、何で邪魔をするか分からないと言う風に。そこで初めて、彼は自分のした事に気が付いた。
「僕…。」
「…つまり、そういう事なんだよ。君の本当の答えはね。」
後ろから、シノの言葉が聞こえる。ルウの心は、妹の存在と自分の行動を思い出し、大きく揺れ動いた。同時に、自分を見つめるノアの視線を認知する。
「…ノア。」
「……ルウ。」
彼が、次に何を口にするのか怖かった。表情からして、既に素性はバレてると察したからだ。
「お前は…。」
とその時、沈黙していた闇影が再び動き出す。
「グオオ…ッ!」
ルウに向けられている、明らかな敵意。もう味方ではない。そう認識したのだろう。
「チッ…。話は後だ!ルウ、お前も力を貸してくれ!シノ、今は大丈夫なんだよな?」
大丈夫とは、戦闘中にルウの意識がまた乗っ取られないかという意味だ。シノは、自身の能力で干渉を阻害していると、ひとつ頷いてみせる。
「…分かった。」
返答に安心したのか、ノアは少しだけ口角を上げた。
「…!構えろ!」
先見で攻撃を察知し、面々に呼びかける。この人数なら、メンバーなら勝てる。根拠はないが、ノアはそう予感していた。
Re:versal 桜音羽 詩葉 @0_utaha_0
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