2章 第11話
「何をしているのです。その手を離しなさい。」
「は?いきなり誰……、っ!?こ、これはこれは…。失礼致しました。しかし、ジョネス家直系のご令嬢が、何故この様な場所に?」
その女性は、緑色の長髪を
「ええ、私が討伐を依頼した大切な
「え…。そ、そんな馬鹿な、何かの間違いでは…!」
明らかに焦りの色を露わにした役員達。予想だにしない展開に、何より現れた人物に思わず呆然と立ち尽くすノア。そしてどんどん衰弱していくシノ。そこまで順繰りと見渡した女性…ジュリナは、一層眉を厳しく寄せ、持っていた長杖でカンッと一鳴り、地を突いた。
「間違い?何がでしょう。この無礼者!即刻その手を離しなさい。」
「は、はっ!」
瞬間、乱暴に拘束していた手を離す面々。同時に支えを失ったシノは膝をつく。
「シノ!」
すぐさま駆け寄ったノアは、彼の状態が何処まで進行しているのか、そして深刻なのか、確かめようとした。すると、いつの間にか傍らに立っていたジュリナから、とある一つの小瓶を手渡される。中には透き通った青色の液体が入っている。
「…これ、ルウから貰った解毒剤。かなり即効性の高い代物だから、すぐに飲ませてあげて。」
「…あんた、本当に…?」
小声で周りに聞こえない様に話す彼女に合わせて、ノアも声を細めて返す。
「…その話はまた後でね。今はこいつら何とかするからさ。」
「分かった…。」
そして身体を半転させたジュリナは、顔を真っ青にして挙動不審になっている彼らに言い放った。
「此度の件については、追って沙汰を出します。特に管理員のそこの貴方。他者の命を軽んじる発言と行為。到底許されるものではありません。ある程度の刑罰は覚悟しておく事です。」
「…はい…。」
そうして彼女が注意を引いている間に、ノアは手にある小瓶の蓋を開け、シノの口元に持っていき、液体を滑り込ませた。しっかりと嚥下したのを確認し、ほっと息を吐く。
「…ノアさん。それと、そちらの彼も。今回の御助力、心より感謝申し上げます。さあ、早く処置を施しましょう。私についてきてください。」
役員が居る手前だからだろう。普段なら有り得ない口調と丁寧さで、こちらを促すジュリナ。その背中の向こうで恨めしげに睨んでいる、管理員と呼ばれた男性の形相に少なからずゾッとする。
「…大丈夫か?」
「うん、何とか、ね…。でもまだ頭がフワフワしてるかも…はは…。」
「ったく…。俺の肩に掴まれよ。」
「ふっ、自分だって怪我人の癖に…。」
そう言いながらも、素直に従いノアに体重を預けるシノ。それからも分かる様に、余程衰弱しているのだろう。ジュリナが諌めてくれなければ、解毒剤を持っていなければ手遅れになっていたかもしれない。そう考えただけで、脳みそが焼け焦げたかの様に何とも言えない感情に支配されそうになった。
暫く歩いて…ふとジュリナが、やや歩幅を狭めて、ポツリと言葉を零す。
「ノア君に…そこの君。二人には分からないと思うけど、この街は狂ってるの。ううん…スガノウス地方全体が、かな…。」
「……。」
きっと、あの役員達の事を言っているのだろう。今まで自分達は、格差を広げないための政策だとばかり思っていた、Sの理念。だが、その認識は根本から間違っていたのだと、たったさっき身をもって思い知らされた。
「ほら、此処ってエルナド国の一番端っこにあるでしょう?それが原因なのか、財政が宜しくないの。だから、何処かで地方を運営する資金を調達しなければいけなくなった。」
「まさか…それが、Sの理念だってのか?」
ノアの言葉に、ジュリナは一つ小さく頷く。
「施し、支えて、使役する…。良くこんなにも耳障りの良い互換が出来たものだなって、我が家ながら呆れるわ…。しかも政策名がSの理念よ?一体何処ぞの科学理論だって、最初こそ笑っていられた。でも、直系の令嬢として英才教育を受け続けて、どんどんその汚点が見える様になったの。」
彼女は、空の彼方にある、自分にしか見えない過去を見つめ、語り始めた。
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