1章 第4話

「…間違いない、此処だ。」

辿り着いたその場所は、先程自分が視た映像と全く同じ景色だった。辺りは不気味な程静音に満ちている。

「…ねぇ、君の特殊能力イレギュラーの事だけど。ステータスをシェアする前に既に負傷していた場合、それも反映されるの?」

「え?…あぁ…試したこと無かったな、そういや…。」

そんなの考えた事もなかった。無意識にそうだろうなと勝手に結論づけていたのだ。言われてみれば、そんな根拠は何処にも存在しないというのに。

「そ。じゃあ、一か八かの賭けか…。そんな賭け本当はしたくないけど、もしピンチに陥ったら君の力、ちょっと貸して欲しいの。」

「…それは構わないが…危険だぞ?」

「どの道最終手段なんだから危険なのは変わりないわ。やらずに死ぬか、やって可能性を見出すかの違い。まあ、そうならない様に善処はするけど。」

やはり彼女はとてもサバサバとしている。しかし、他にはもう教師達は居ないのだろうか。既に自分達のいるエリア以外は消灯がされている。

「…!来る!」

今まで闇影と戦い続けてきたノアは、特異属性、先見で視た個体の存在を素早く認知した。やはり、こちらに向かってきている。それを証明するかの様に、大きく地を踏みしめ走る足音がどんどん近づいてきた。

音のスピードから予測すると、かなりの高速移動系の闇影だ。そう当たりを付けるが、だからと言って何かが変わる訳でも無い。満足に動けもしない自分に出来ることなど限られている。

「…かなり速い…他に戦える奴はいないのか?」

「残念。今頃他の教師達は皆此処から離れた研究所に閉じこもってるわね。」

「…分かった。全力を尽くす。」

本来は前衛向きのノアだが、今回は後方支援位しか出来ない。攻撃は専らジュリナに任せる形となるだろう。それに心苦しく感じながらも、腰にある剣を抜き放ち、敵を待ち構える体勢を取った。

「ギシャアアアッ!」

そして、それは正体を現す。まるで獣と人間を混ぜ合わせたかの様な姿をしていた。ガシャンと派手な音をたてながら窓ガラスに突進し、不気味な、甲高い声をあげ校舎へとその身を滑り込ませる。此処までは先見通りの展開だ。

「…ギシ?」

だが、そこに本来居なかったはずの二人が存在していた事で、未来は変わった。調理室へと直進する筈だった闇影は、やがてこちらに体を向けた。どうやら標的として定めたらしい。

「ギェェエエッ!」

その狂気的な声と同時に、それは体を僅かに縮こませる。

…まずい!

「させる…っかああっ!」

瞬間、自身の獲物にやや粗い魔力を込め、赤いオーラが宿ったと同時にブンッと一振り、剣を宙に舞わせた。

「グガッ…!」

先程まで五リリル程も離れていたと言うのに、ノアがその波動を放った時、闇影は既に目と鼻の先にいた。もしノアの判断が遅れていれば命はなかっただろう。

「ぐ…う…っ!いってぇ…。」

「……。無理させて悪いけど、あいつの攻撃は私には受け止めきれない。援護射撃は任せるわ。」

痛みに悶えながらも、前方に居る闇影から目を離さずにいたノアは、驚愕した彼女の表情に気付かぬまま一つ頷く。

「さぁ、さっさと終わらせましょうか。」

出会って一番の剣呑さを孕みながら、ジュリナは獲物の伸縮杖を取り出した。魔術は圧倒的に杖が制御しやすいのだ。

体勢を立て直した相手を見て、再度次の攻撃に備える。すると、今度は何やら片腕の肘を後ろに引き、ともすれば波動でも出しそうな構えをした。まさか本当に波動が…。そう一瞬思ったが、ノアは自分の視界上で微かに敵の爪部分が事に気付いた。その情報から、次の攻撃手段の見当を付ける。

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