7話 木戸 政宗

  

政宗は今まで空手に打ち込んできたので、

『空手バカ』という表現が自分には相応しいと自負していた。

そんな政宗が今にも小躍りしたい気分になっていた。

大野巧の技術を見たとき、政宗は彼が絶対に我が部を優勝に導いてくれると感じていたが、当の巧は空手はあくまでも趣味なのだと言い切ってしまう。

政宗はどうしても諦めきれずに、何度も何度も巧を部長に推薦し続けた。

諸葛孔明を口説き落とした劉備を遥かに凌ぐアプローチだったのだが、

それもなかなか実を結ぶ事はなかった。

このまま終わってしまうのかと、諦めかけていたが突然巧から前向きに検討したい、と返事が返ってきたのだ。

これは『空手バカ』木戸政宗の粘り勝ちと言っても過言ではない。

今まではどんなにアプローチをかけても響いている様子はなかったのだが、

さすがに今回は巧の熱の入り方も違う。

頻繁に相談をしてくるし部活終わりに何度もご飯を食べに行き、部長の在り方から空手への付き合い方まで教えを乞うてくる。

そんな巧の態度に、政宗は悪い気はしなかった。むしろいい気分と言って良い。

どんな相談にも乗ってやろう。先輩としてそれはごく自然な事で、

そうすべきであるとすら感じていた。

巧はいつも超然としている様に見えたが、何の事はない。

恋の悩みや部活での付き合い方など、まさに大学生のそれである。

政宗は空手一筋に生きてきた為、恋愛には本当に疎い。というより、もはやその知識は壊滅的ではあったが、それでも相談に乗って解決してやりたい、と考えていた。そんな巧に「部長、絢と同じ高校でしたよね?助けてもらえないですか」と言われれば、それは絶対になんとかしてやりたい。

ましてや、高橋絢が巧の悩みの種であるのならば、同校出身者として尚の事。

お節介過ぎるからやめておいた方が良い、と仲の良い友人に止められもしたが、自分がなんとかしてやれるのなら何とかしてやりたい。

きっと高橋も話せばわかってくれるさ、と声をかけると巧は本当に安心した表情を浮かべていた。

政宗は一人っ子だったので、兄弟がいると言うのはこういう感じだろうな、としみじみ思った。

それにしても、巧の部活の邪魔をしようとするなんて

高橋絢も子供みたいな事をする。

巧が部長を拒否していたのも、彼女が原因だったのだから余計に腹も立つ。

あまり上手に喋れる方ではないので、

なるべくそういった私情は挟まない様にしなければいけない。

それにしても、巧に高橋絢と同じ高校だったことは伝えていただろうか?とどうでも良い事が気になったが、あまり自分の話はするタイプではないから、

きっと高橋絢から聞いたのだろう。

そんな事よりも、これからの空手部の事に思いを馳せていたい。



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