6話 大野 巧 2



巧は今本当に焦っている。これはマズい事になった。

【視る】事が出来る様になってから、自分でも分かりやすいほどに浮足立っていた。

強引に絢を切った事がここに来て自分の首を絞める事になってしまうとは、思いもよらなかった。初めのうちは未来を知る事が出来るのだから、何が起きたとしても事前に対処出来る、と、そう思っていた。

絢が自分を探っている事は分かっていたのだが、まさかその刃が今航平に向っている事に頭が回らなかった。絢は過去の事も考えると何をしでかすか分からない。

【視る】力を何度か試した中で分かった事がある。

【視る】力は万能ではない。ルールがいくつか存在していて、そのルールは破る事が出来ない。というより、ルールに則らないとそもそも【視る】事は出来ない。


1.一日に【視る】事が出来るのは一度だけ。

2.一日というのは能力を使ってから正確には24時間と12分。

3.他人も【視る】事が出来るが対象が目の前にいないと【視る】事はできない。

4.【視る】事が出来るのは対象の2日後の出来事。

5.俯瞰的にではなく対象の一日を主観的に体験する事になる。

6.その疑似体験は現実世界ではほんの一秒にも満たない時間である。

7.【視た】未来で起きた出来事は、人が入れ替わるだけで起こることは変わらない

8.誰かが死ぬ未来を変えて防いだとしても、事象は必ず起こる。事故や殺人なら他の誰かが犠牲になる。寿命は防げない。


巧が知っているだけでもこれだけのルールが存在していて、

もしかするとまだルールがあるのかも知れない。

初めはどんなことでも対処出来ると思っていたが、

知る程に、このルールが鬱陶しい。

こまめに修正していかなければならない上に、どんな風になっていくのかも確認しなければならない。思った様に修正出来ないと、またふりだしに戻るという途方もない作業を繰り返さなければならない。

この上なく面倒ではあるが、今は近しい人間が不幸になるのは見たくない。

ましてや、自分のせいでそうなった等という十字架を背負って生きていく気もさらさらない。

他の誰かは不幸になるのだろうが、これはババ抜きのようなものだ。

自分にとってなるべくマイナスのない、いなくなっても関係のない人間にババをひかせるしかない。先ず、絶対条件は自分を信頼している方が利用しやすいに決まっている。

その人間にも親や兄弟がいる事は十分わかっているが、自分の知らない所で今日も理不尽に殺される人がいる。それと同じだ。やるしかない。

巧は先ず日常からがらりと変える事にした。

あれだけの時間を割いたのだ。上手くいかない訳が無い。

7と8のルールはこの前の親子で良くわかった。下校中に子供をたまたま【視る】と2日後に事故にあう事が分かり、未来を変えようと試みた。

結果、子供は助かったがその母親が犠牲になってしまった。

更にこの事で、ルールがまだある事も分かった。

9. 【視る】事が出来るのは2日後にも生きている人間だけである。

10. 2日以内に死ぬ人間を【視る】と、ただ闇が広がる。

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