適当SFポエム集

廉価

折り紙と重力



 折り紙が自分で自分を折ることがあるのなら。

 きっとそれは、わたしの孤独に似ているでしょう。


 折り手が不在でも、形を為していけるのなら。

 きっとそれは可能なのでしょう。


 無限に薄い紙を、無限に折りたたんでいく。時空の最小単位まで。


 折りたたまれるたびに、わたしの領域は狭くなっていきますが、表面積は変わっていません。つまり持っている情報量は変わっていないのです。


 だからわたしは大丈夫です。

 どんどん小さくなるけれど、何も失っていないから。


 この手紙は折られた内側に書かれていて、投函されることはありません。

 誰にも読まれてはいけない。言葉それ自身以外によっては。

 それが自己を保つ条件だとあなたが教えてくれたのでしたよね。

 それともあなたの部屋の扉の足元に、そっと置いておこうかしら。


 あなたはこれを蓄音機とタイプライターの間に、紙風船と一緒に置いて。開くことはないでしょう。


 どうしても読んでほしいけれど、読まれたら意味を無くす、そんなこれは書簡なのです。

 わたしがわたし自身を読めるようになるまで、待っていてとは言いません。

 あなたを束縛するつもりはありません。


 先程、何も失っていないと言ったけれど、いいえ。折り目が増えています。

 幾年重ねたとお思いですか?


 あなたがつけた折り目を開いて、それでも消えない爪痕は破壊された情報、エントロピー、無知を表す情報量。

 それは罪の別名です。


 折り紙の紙の部分、面の部分に意味はない。

 折られたことによる破壊の線分、出来た立体の節点としての端点。

 破壊された紙繊維の傍観者としての両の端点が、その関係性のみが、問題なのではなかったでしょうか?

 いえ、節点が増え続けることは、重力を意味しているのではないですか。

“ある節点から出発してそれ自身に戻ってくる経路”

 折るとはつまり、閉じられたループを増やす行為です。

 ループとはつまり、時空間の単位です。


 だからわたしは折ることが、それ自身の重力によって可能だと申し上げたのです。

 薄い紙の重力など無視しても差し支えないと言ったあなたの前で。

 折り目の数そのものが重力として、さらなる折り目を呼び込むのです。

 そのようにわたしは折られていくと、先程から申し上げているのです。


 なぜわかっていただけないのでしょう?

 その過程に、あなたの指先など必要としていないことが。



 ごめんなさい。取り乱してしまいました。

 自分を無限に折りたたんで、消えてしまえたらいいのに。




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