第123話 合格パーティ
安息日の朝8時30分。
俺の周りには大量の食材、鍋、皿、調味料類が置かれている。
イザベルによると、スティヴァーレ王国の一般的コース料理は7品目だそうだ。
1品目はチーズやハム等を添えたおつまみ的な前菜。
2品目がスープ。
3品目が魚料理。
4品目がサラダ。
5品目が肉料理。
6品目がデザート。
7品目として暖かい飲み物とクッキーが出て終わりらしい。
「3品目と同時にパスタかパンかジャガイモが出るのですよ。あと食前と食事中には冷たい飲み物が出るのです。今回はオレンジジュースと牛乳を用意してあるのです。オレンジジュースが食前用で牛乳が食事中用なのです」
だそうだ。
これを42人分1人で作れと。
よろしい、ならば
使徒の力を存分にみせてくれる。
俺自身としても奴らを祝いたい気持ちは同じだしな。
なお今回の現場は第1談話室に近い2年1組の教室だ。
何せ量が多いので俺の部屋でやるのは無理。
もちろん一般教室には水場は無いし調理施設も勿論無い。
でもそんなの関係ねえ。
俺の施術で何とかなるからな。
そんな訳でまずさっさと作れて冷やしておけばいい物から。
デザートはやっぱりケーキだろう。
俺の個人的好みでスポンジケーキでは無くチーズケーキとする。
見栄えを考えて葡萄と苺のコンポートもつけてやろう。
小鍋の片方に苺、片方に葡萄を入れ、砂糖と水ちょっとだけを入れる。
施術調理は慣れると色々便利だ。
鍋やオーブンと違って材料全てを均一に加熱できるし温度調整思いのまま。
プリン茶碗蒸しどんと来い!
勿論肉や魚の低温調理も自由自在。
アノーバやボニークなんて目じゃないぜ!
そんな訳でいつの間にかクリームチーズとクリームと砂糖に卵の黄身に小麦粉ちょっとが完全に混ぜ合わさり、型に流し込まれている。
先程の小鍋2個は既に葡萄と苺のコンポートが完成。
気がつけば形に入ったチーズケーキの素は既にこんがり焼かれ、表面だけ黒く焦げさせている状態。
こんな感じで施術を使いまくってひたすら作りまくる。
魚はマスだなこれは。
町の水源池では水道に使わなかった水を放流しているのだが、その水を使って養魚場をやっている部署があるのだ。
おそらくそこからイザベルがどうにかして調達してきたのだろう。
思った以上に新鮮だし、血抜きえら取り等しっかりやってある。
これはなかなかいい素材だ。
取り敢えず3枚におろして皮部分は軽く湯引きして香草と塩を振りかけて脱水。
中骨部分はちゃんとスープの出汁に使ってやろう。
その間に肉を低温調理きっちりやって、程良く冷ましておく。
まあそんな感じでガリガリ働く訳だ。
ひととおり出来はじめたところでイザベルを召喚。
「おーいイザベル! 少しは手伝え!」
「仕方無いからやるのですよ」
文句を言いつつやってきた。
「料理はほぼ出来ている。食べる前に施術で冷やすか温めるかすればOKだ。そんな訳で盛り付けの手伝い頼む」
「私達もやりましょうか」
生徒の数人が顔を出している。
「その辺は気持ちだけでいいのですよ。ここは校長先生と私に任せておくのです。その代わりテーブルのセッティングは頼むのですよ」
「わかりました」
「それじゃ盛り付け頼む」
「了解なのですよ」
◇◇◇
「それでは1年生と2年生の皆さん、打ち合わせ通りに頼むのですよ」
という事で給仕担当者との打ち合わせも終わる。
なお給仕担当も交代制。
自分の番の料理出しと皿の片付け時以外はテーブルで料理を食べたり会話に参加したりする仕組みだ。
最初の給仕番以外は談話室に戻り、お祝い会スタートだ。
「本日はめでたく国立中等学校に合格した皆さんのお祝い会なのです。ついでですのでスティヴァーレ王国の一般的コース料理仕立てにしてもらったのですよ。
国立中等学校には上流社会の生徒もかなり多いのです。なのでお呼ばれなんてされた時にはこんなメニューが出てしまう事もあるのです。まあ最近は作法にうるさい連中も減っていますし周りを見て真似すれば困る事も無いのです。ですけれど念の為、作法の基本だけここでレクチャーしておくのですよ。
なおこの国の会食は基本的に会話しながらで大丈夫なのです。ですので私の説明が終わったら次の料理までは自由に会話をして欲しいのです。
さて、最初は食前の飲み物を給仕が聞きにきます。この辺の注文は色々面倒なので、特に希望が無ければ『お勧めで』と言っておけばいいのです。なお今日は面倒なので全員食前はオレンジジュースなのですよ。本式は炭酸入りのワインとか炭酸水をレモンで割った物が出るのです。
それでは給仕担当さんよろしくなのです」
まずはグラスに入ったオレンジジュースが出てくる。
そして最初のメニューの前菜。
今回は手のひらサイズにカットしたパンの上にトマトとチーズ、薄切りの塩漬け肉を載せて焼いたものだ。
「最初に出てくる食事は前菜なのです。今回は食器類の一番外側に置いてあるナイフとフォークを使って食べるのですよ。という訳で前菜開始なのです」
今回は前菜なので薄く軽く、焼き強めでカリッと仕上げてある。
「まずは合格者の皆さんおめでとう」
「ありがとうございます」
「ねえこれ美味しいよ。パリッとしているけれど中がとろっとしている!」
早くもいつもの雰囲気だ。
「校長先生って甘い物以外も料理が上手なんですね」
「ミランに行ってしまったロレッタ先生にもそうひけをとらないのですよ。伝統的な貴族料理の知識と技術に関してはロレッタ先生が上なのですが、他の世界に渡る知識と施術の技ではかなう料理人がいないのです」
「ロレッタ先生元気かな」
「副校長として色々忙しいと思うのですよ」
そんな感じで祝賀会というか食事会は進んでいく。
タイミングをみてイザベルは次々に給仕担当の下級生に指示。
「2品目はスープなのですよ。これは右一番外側のスプーンでいただくのです」
「3品目は魚料理なのですよ。これは校長先生というか料理長、献立説明なのです」
「今回は副校長が浄水池下の養殖場から買ってきたマスのバター焼きだ。マスを3枚におろして塩とハーブを振って脱水させた後、皮を湯引きし、バターをかけながらぎりぎりの温度で焼く。最後にバターとハーブを混ぜたソースをかけて完成だ」
「今回の料理長はレシピを説明しすぎなのですよ。通常は『マスの
そんな感じで料理が出てくる。
そして肉料理、ローストバリケンを食べている時だった。
「あ、イザベル司教補、こちらにいらっしゃいましたか」
何故か教団の事務担当が部屋にやってきた。
「どうかされましたか、ニソノ司祭補」
「急ぎの手紙だそうです。先程飛脚が来まして」
飛脚で寄越すとは相当な急ぎだ。
何せ飛脚1人分の金がかかる。
「了解なのです。ありがとうなのですよ」
イザベルはさっと封を切って中身を一瞥する。
一瞬、イザベルが怖い顔をしたように見えた。
でも次の瞬間にはもういつもの表情に戻っている。
「会話を中断して申し訳無かったのですよ」
イザベルは読み終えた手紙をさっと封筒に戻し、自分の懐に入れた。
「手紙は何だったのでしょうか」
生徒に尋ねられたイザベルはにっこりする。
「古い友人からなのですよ。ちょっと頼み事をしていた結果なのです。それで校長先生、ちょっとお願いなのですよ」
え、俺にか?
「何ですか、副校長先生」
「明日から1週間、休みを下さいなのですよ。ちょっとだけアネイアに用事が出来たので行ってくるのです」
俺は予定表を頭の中で確認する。
イザベルの担当授業は3年生が主だったので今はほとんど残っていない。
2回ほど俺か誰かが代行すれば何とかなるかな。
「日程的には問題ないな。あとで授業2コマの進度だけメモしておいてくれ」
「了解、ありがとうなのです。ちょっと旧交を温めてくるのですよ」
こいつはこれでも王女だし色々な知り合いがいるからな。
この時の俺はイザベルが手紙を読んだ後一瞬した表情の事を忘れていた。
「さて、次はお待ちかね、デザートなのですよ」
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