第85話 初夏までの学校

 俺達が考えた新しい街の計画はソーフィア大司教以下の事務部門等で更に色々改良された。

 例えば家族向け集合住宅が平屋から2階建ての長屋になった。

 風呂トイレLDKは1階で寝室2室が2階という設計だ。

 この方が資材も工期も節約出来るらしい。

 取水堰や堰堤も一部の構造が石造りから土盛りに変わった。

 風呂の構造も耐火性を考慮した範囲で煉瓦造から木造に一部が変更。

 これらの変更で費用は1戸あたり6割増から4割増まで下がった。

 ただ全体の理念はほぼそのままだ。


 最高幹部会議も無事通過。

 強いて言えばオルレナ大司教が、

「この構造の住宅、アネイアの教団住居用にも欲しいですね」

と行ってソーフィア大司教が困った事位だろうか。

 後にソーフィア大司教に聞いたのだが、オルレナ大司教は強烈な風呂好きらしい。

 ここの本部でも仕事が無ければひたすら風呂で長湯をしていたそうだ。

 ただ教団の風呂は共同で決まった時間内しか入れない。

 だから沸かせば自分の好きな時間入っていられる個人風呂に惹かれたのではないかとのこと。

「でも風呂は薪で沸かす方式ですし、沸かすのに1時間はかかりますよ」

「オルレナ大司教なら施術でそれくらいのお湯を自分で作れます。場所さえあればいいのでしょう」

 なるほど。


 そんな訳で街づくりの作業は俺の手を離れた。

 でも代わりに生徒の方にその影響が行ったようだ。

「何か最近毎日同じサイズの管ばかり焼いている。型枠があるから作るのは楽なんだけれど面白くはないよね、重いし」

 ごめんなさい2年3組のサビーナちゃん。

 でも一応説明はしておこう。


「今度近くに新しい街を作るんだ。そこでは家の中でも自由に水が使えるような仕組みにする予定でさ。その為にその管を大量に使う予定なんだ」

「家の中に井戸でも作るんですか」

 まあこの世界だとそういう発想になるよな。

「いや、山の方からその管で水を運んできて各家に通すんだ。家の中にその水を出す場所が何カ所か作って、洗い物や食事、風呂に使ったりする。ある程度出来たら実際に見に行ってみればいい。そうすれば自分が作っている物がどう使われているかわかるしさ」

 あとでこのクラス担任のブルーノ司祭補に頼んでおこう。


 そういったもの作りでは無く実際に現場で働いている生徒もいる。

「あの谷をせき止める作業、凄いよな。施術で山を崩して谷の入口を塞いで、熱で土を焼き固めながら壁を大きくしていく作業。俺もあの山を崩すような施術を使えるようになりたい」

 この工法は俺が知らなかったこの世界ならではのものだ。

 熱の施術で帯水層を水蒸気爆発させて山を崩したり、土を熱で素焼き状態にして固めたりする工法。

 重機や発破等が無くともこれでかなり効率的な土木作業が出来る。

 一方2年生を入れて8人に増えたイザベル麾下の図書館組は、交代で街の工事状況の記録を作っているそうだ。

「他に同じような街を作る時に参考になると思うのですよ」

とのこと。


 ただそんな状況と関係無く学校の方も色々進んでいる。

 1年生には昨年開発したボードゲーム『スティヴァーレ王国馬車道中』改良版がそこそこ効果を発揮している。

 内容は目標地点を決め、そこに向かって進みながら、マス目に書かれた指示に従ってお金を稼いだりするというもの。

 ぶっちゃけ『桃太●電鉄』をボード版にしてこの国舞台に書き直したもの以外の何物でもない。

 でも数字や文字を覚えたり地理を覚えたりするのになかなか効果的だ。

 2年生になるともう言葉にも授業にも慣れて、そろそろ自分の今後の進路とかも考えはじめる状態。

 そして3年生は就職組以外はもう進学向けてそれぞれ頑張っている。

 例えば最精鋭の3年1組は三角形の合同と相似、一次方程式の解法まで進んだ。

 日本だと既に中学の範囲だ。

 ここまでやっておけばどの学校の試験も少なくとも算数については問題無い。

 文章題の対策も充分やっている。


「ここまでくると算数もなかなか面白いと思うよね」

「でも本当に面白いのはここからだぞ。この先ある程度進むと理科、物の動きなんかがひとつの式の変形で速度も場所も加速度もわかるようになるんだ。そうすると数値の世界の言葉で世界を見ることが出来る」

 俺自身は微積をやったあたりが面白かったかな。

 円を表す式が積分の仕方で球の体積や表面積を求める式に変化させたり出来るあたりが。

 流石に3年間ではそこまで教えられない。

 でもこいつらが中等学校を卒業してまた会うことがあったら、こっそり微分積分の知識を教えてもいいかもしれないな。

 角度は勿論ラジアン方式で。

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