第62話 午後の巡視
翌日は施術院と畑の巡視。
施術院は建物こそ古いが広いし清掃も行き届いている。
ただ患者は多い。
腰痛だの神経痛だのといった完治しにくい患者が俺達が来るのにあわせてやってきたのだ。
教会と地域との意思疎通が出来ているという意味では悪いことではない。
そんな訳で俺もイザベルも治療開始。
「凄い、あんなに痛かった腰が何ともない」
「ただ骨自体は弱っているので無理はしないで下さいよ」
なんて感じで午前中目一杯働く。
ただ患者は多いものの致命的な患者はいない。
入院中の重病患者でも、上級治療魔法が使えないまでも出来る処は治療して食い止めているという感じの患者が多いのだ。
これは間違いなくよくわかっている治療担当者がいる。
人数が多い割には治療は何とか午前中いっぱいで終わった。
患者の皆さん含めて非常に協力的だったおかげもある。
「間違いなく誰か勉強熱心な施術師がいるのですよ。中級で出来る範囲の治療としては最善の状態なのです。これだけ的確に治療できている患者ばかりなのはあまり無いのです」
どうやらイザベルも俺と同じような感想を持ったようだ。
「多分それは村を巡回中のジュリア司祭ですね。まだ若いけれど勉強熱心で最新の治療関連の資料なんかも本部から取り寄せてよく読んでいます」
「ここまで出来るなら上級の治療や回復施術も訓練すれば出来る筈なのですよ」
「ただここは人が少ないのでなかなかそういった講習等に出してやれなくて」
「その辺は大司教にお願いしておくのですよ。ジュリア司祭なのですね」
この辺の把握も巡行の任務のひとつだ。
「それに患者さんも皆さん協力的でしたね」
「この地区は皆さん
その辺他の教団の皆さんはどうなのかな。
まさか金次第って事は無いと思うけれど。
確かに
まあここは
他の教団のことはとりあえず置いておいて。
「さて、農業関係は明日として、午後は救護院と孤児院を見て回りたいのですが。国の施設にこそなりましたが実際運営しているのは教団の仲間ですし、出来る事があるかどうか見てみたいので」
「そうですね。それでは午後からご案内しましょう」
そんな訳で昼食が終わったら救護院と孤児院を見に行く。
救護院と孤児院はこの街北側の丘の上。
元々カラバーラの教団施設は農場を含み丘の上が中心。
教会と施術院だけが業務の都合上街中なのだそうだ。
教会から歩くこと約10分程度で救護院に到着。
こっちは教会と違って木造、それもログハウスを大きくしたような建物。
教団の事業部が造る建物によくある感じだ。
救護院の院長で元地区司教のアレシア司教と挨拶した後。
「イザベル司教補も立派になりましたね。見かけは相変わらずですけれど」
「これでも少しは成長したのですよ」
そんな会話が入る。
「アレシア司教とお知り合いでしたか」
「私が教学部に配置になった時の最初の上司なのですよ」
なるほどイザベルの元上司か。
「元々私は此処の出身ですからね。司教になったらここに落ち着きたいと前々から思っていたんですよ」
そんな話を聞きながら救護院の中を案内してもらい、出来る治療等も行う。
こちらは施療院より更に重症だったり動けなかったりする患者が多い。
ただ施療院と同様出来うる治療は全てやってある。
こっちは上級の治療や回復施術が使えるイザベルすら追加治療が出来ないくらいの状態だ。
だから使徒の俺しか出来ないような再生治療とかが中心になる。
「流石使徒様ですね。見事な治療施術です」
「いえ、これは
使われている施術そのものは中級の治療回復の施術だ。
でもその背景にあるのは間違いなく上級施術以上の知識。
でなければこの時代に肺癌だの胃癌だのといったいわゆる悪性新生物の類いを切除だの組織破壊だのして食い止めるなんて事は出来ない。
他の患者もしかりだ。
「流石イザベルの元上司だな」
「私の治療施術も教本に無い範囲のほとんどは当時のアレシア司祭長に教わったのですよ」
微妙に疑問を感じる。
「何故教学部でそんな事を教わるんだ?」
「施術の教本も編集は教学部なのですよ。原稿そのものは施術訓練部と施術研究部が書くのですけれど」
なるほど。
「私はイザベルほど施術の才能は無いので中級止まりでしたけれどね」
「知識では上級治療施術者を超えているのです。オルレナ大司教が引き抜こうとして失敗したと嘆いていたのです」
そういうレベルなのか。
まあ納得は出来るけれどさ。
「それでは孤児院の方も見て回って頂けますか。他にもイザベルの古い知り合いに会えると思いますよ」
イザベルの知り合いか。
どういう知識の化け物だろう。
いやそれは偏見かな。
そう思いつつ施療院を後にする。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます