第58話 馬車の完成
数日後。
「校長先生いらっしゃいますか」
午前中の職員室に見覚えのある生徒がやってきた。
この前鍛冶場にいたグレタちゃんだ。
「どうした?」
職員室は俺とイザベル、あとコルネリア先生がいる状態だった。
「親方、いやイラーリオ司祭補が呼んでいます。馬車が出来たそうです」
思った以上に早い。
「じゃあちょっと行ってくるか」
幸いこの後は昼休みだから時間はある。
「私も行くのですよ」
イザベル副校長は好奇心旺盛だ。
学校の副責任者として待っていろと言っても聞かないだろうな。
仕方無い。
「コルネリア先生。すみませんが留守番お願いします。鍛冶場にいますので」
「わかりました」
3人で鉄工所へ向かう。
鉄工所の前に馬車が置いてあった。
馬2頭立てでメイン車輪2つ補助車輪2つの教団では大型の馬車だ。
あの親方だけでなく鍛冶場、木工所の皆さんも出てきている。
「おう来たか校長先生。なかなかいいものが出来たぞ」
見かけは今までの大型馬車とほとんど変わらない。
「どうですか、作ってみた感じは」
「いままでよりちょい面倒だが予め部品を数作っておけば問題無い範囲だ。それよりこの馬車なかなかいいぞ。なんと言っても動きが軽い」
そう言って親方は本来馬が引く輈の部分を片手で引っ張る。
馬車がゆっくりだが動いた。
「ほれ、片手だけでも動く。今までの馬車じゃ絶対無理だった」
ベアリングの効果が出ているようだ。
乗り心地よりそっちの評価が先に出たか。
「それは親方の腕力のせいじゃないんですか」
「それもあるけどよ。でも今までとは全然違う」
「乗り心地はどうですか」
「その辺は実際に馬をつけて確認しないとわかんねえな。ただしっかりバネがきいているから悪いって事は無いと思うぜ」
「もうすぐアネイアに行く臨時便がある。それで評価して貰うつもりだ」
最後の台詞は木工所の方の主任さんだ。
現状認識能力で確認する限り強度的には問題ない筈。
強いて言えば今までの馬車より15kg程度重くなっている。
でもそれくらいなら誤差の範囲の筈だ。
念の為俺は馬車の車体部分に力をかけてサスペンションを試してみる。
割と長めのバネで保持しているので俺の体重でも少しは動いた。
これならかなり衝撃を吸収してくれるだろう。
期待してもよさそうだ。
「予想以上の出来です。これなら乗る方も大分楽になると思います」
「おうよ。試運転で上手くいけばスコラダ大司教に頼んで増産だな」
「それじゃお願いします。また夕方にでも様子伺いに来ます」
挨拶をして学校へと戻る。
「なかなかいい感じなのですよ」
「これが普及すれば夏あたりにありそうな大巡行も少しは楽になるかな」
「確かにその可能性は高いのです。これなら乗っている最中に熟睡出来るのです」
「イザベルは元々熟睡しているだろ」
「あれは施術の力を借りて寝ているのです。今度は施術の力が無くとも眠れそうなのですよ」
「あとは乗客の関係だな」
「馬車の出来と評判次第で
確かにいままでは制度とか店とかの話が多かったからな。
「金持ち相手の施策はまだ全然やっていないけれどさ。でも教団の制度だの店を出すだのといった方向の改革は今の状態で一度ストップでいいと思うんだ。当分はこういった細かいモノの改良とかをやりながら便利な方へと進んで行ければいいと思うな」
「でもあの布の件とか虫殺しの件とかは結構面白くなると思うのですよ。教団が直接関与する訳ではないのですが、うまくいけばこの国の南部も大分豊かになるのです」
そういえばそんな話もしたよな。
「あれって結局何処に託したんだ?」
「それは秘密なのですよ。上手くいったらお楽しみなのです」
誰が何処と結びついているかわからないしな。
スコラダ大司教が国王を動かすとは思わなかったし。
そう思ってそして気づく。
そう言えばイザベル、こう見えても王女だった。
だったら領主である貴族にも大分顔が利くのかもしれない。
なら話した先はおそらく……
何か色々ありそうなので取りあえず俺は追及しないことにした。
◇◇◇
改良型の馬車は無茶苦茶好評だった模様。
何よりも御者役が一番喜んだそうだ。
今までより圧倒的に楽で腰が痛くならないと。
だから夕刻、俺を含む有志一同でスコラダ大司教にお願いしに行った。
大司教本人が実際に馬車を運転して確認した結果、採用が決定。
今後の教団馬車はこのタイプに変えていくことになった。
クロエちゃんや俺達が使う頃までにどれくらいの馬車が新型になるだろうか。
今から楽しみだ。
なおソーフィア大司教にお願いした乗合馬車の件はもう少しの間お預けになった。
新型馬車が行き渡る頃を目安に改めて考えてみるそうである。
どれくらいで行き渡ってくれるかな。
そうしたら地方の人の流れが少しでも変わるかな。
その辺もまた楽しみだ。
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