第54話 安息日の遊びの時間に
今年は学校だけでも結構忙しい。
何せ午前も午後も授業がある。
しかも最初のうちは1年生の2割位は意思疎通もなかなかうまくいかない。
言語を使った思考力だの理解力といったものが訓練されきれていないのだ。
逆に2年生になるともう生徒も先生側も慣れたもの。
学校1年間でこんなに変わるのかと俺自身驚くほどだ。
「そう言えばこの前家に手紙を書こうと思ったんだよ。ずっと帰っていないからどうだって。でもよく考えたらうちの親、字が読めないんだよね。だから今度夏休み、帰って様子を見てこようと思うんだ」
これは毎度おなじみクロエちゃん。
昨年一番伸びた生徒の一人で休日に俺の所にたむろしている一人でもある。
なお彼女達の休日の居場所は俺の部屋から学校の談話室に変わった。
俺の部屋に入る人数ではなくなった為である。
なおイザベルがいるのも前と同じだ。
ゲームは新たに幾つか開発した。
一番好評なのがこの国全土をぐるぐる回るボードゲーム。
マスの指示の中に各地の名物だの風土だのが色々織り込まれていたりする。
平たく言えば桃太●電鉄なのだが数字や地理を覚えるのはちょうどいい。
なお友情を破壊するようなイベントはオリジナルより少しだけ控えている。
さてクロエちゃんの話だ。
「今度の夏休みは帰るのか。実家は何処だっけ?」
「レッジーノ地方の南の方にあるサナターラって小さな村。ここからだと教団の馬車を乗り継いで4日、その後1日歩く感じかな」
「遠いな」
「往復だけで夏休みが結構無くなるよね。だから帰らなかったんだけれど、少しお金も貯まったしお土産買っていってもいいかなと思って」
この国は北側は栄えているが南側はそうでもない。
教団施設もそのせいで北側に偏っている。
ナーブラから南は大きな街も無い。
教団施設もせいぜい小さな教会とか程度だ。
でも救護院とか孤児院は結構あった覚えがある。
この国は南の方が貧しいから。
農業と漁業以外大した産業も無いし。
「この学校の生徒は教会で泊まれるし教会の馬車にも乗れるしね。でも馬車で4日は結構疲れるよね。校長先生もそう思わない?」
「私も全国巡行で2週間以上旅行する事があるけれど乗りっぱなしは流石に無いな。でも確かに1日中馬車に乗っているだけでも結構疲れるよな。やる事無いし」
幸いこの国は道だけはしっかり整備されている。
そして教団の馬車は国内なら何処の教会にも本部から最短7日で行けるよう整備されている。
その辺を上手く活用して何か出来ないだろうか。
南部を栄えさせることができるような何かが。
「4日乗るという事はカラバーラの街まで行く訳かな」
カラバーラの街はこの国のほぼ南端だ。
「そうそう。サナターラはカラバーラから歩いて1日の処だよ。朝出てずっと歩けば夕方に着く感じ」
「カラバーラって何か名物があったかな」
「特に思いつかないなあ。単に周辺の野菜や魚の集散地ってだけだと思うよ」
なるほど。
何か名産品があってそれを国内で売れるならば少しは栄えるだろうと思ったのだけれども。
ただ名産品が無ければ作ればいい。
条件は馬車で4日間かけて運んでも価値が下がらないもの。
そしてこの国の南部で栽培可能なものだ。
出来れば軽くて単価が高めのものだとなおいい。
教団で今作っているものだと砂糖なんて条件に合う。
でも出来れば他とかぶらないものがいいな。
例えば綿花、生糸、茶、香辛料といったあたりだ。
「何かまた余分な事を考えているのですか」
イザベルがやってきた。
こいつは俺に対しては本当に勘がいい。
「いやさ、この国の南部で何か産業を興すのにちょうどいいものはないかなとふと思ったんだ。繊維関係とか嗜好品とかで重さに対して単価が高くて、なおかつ南部から運んでも大丈夫なもの」
「でもあの辺、本当に何もない処だよ。作物も普通に麦とかジャガイモとかだし」
「今が何もないからこそ新しく何かを作るのですよ」
イザベルはそう言ってにやりと笑う。
「そんな訳でナープラより南から来た人、集合なのですよ。ちょっと一緒に考えてほしい事があるのです」
イザベルは強引な手段に出た。
ゲームを中止して何だ何だという感じで皆さんやってくる。
お、思ったよりいるな。
この部屋にいる22人中10名。半分近くが南部出身者だ。
それだけ南部が貧しいという事でもあるんだろうな。
そんな事を俺は思う。
「さて、この国のこの辺には無くて南部にはあるような産物を教えて欲しいのですよ。市販していたり流通していたりする必要は無いのです。むしろ自分達の家の近くでだけ使われているなんてものを知りたいのです。食べ物でも遊び道具でも役に立たないものでも何でもいいのです」
「うーん、家には何も無かったからなあ」
「何もなかったからこそ、当時は家にあって今ここには無いものを知りたいのです」
「そう言っても難しいよね」
皆でうーんと考える。
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