第53話 イザベルの復帰
学校が始まる1週間前の朝9時過ぎ、やっとイザベルが戻ってきた。
学校は春休み中だが俺以下イザベル以外の教員全員が職員室に揃っている。
だから
「学校復帰のイザベル副校長に拍手!」
なんてわざとらしく職員室で迎えてやった。
イザベルは自席まで歩いて行き、そこで一礼して口を開く。
「昨日までは臨時でソーフィア大司教のところに派遣されていた副校長のイザベル司教補なのです。ところで大分教員が代替わりしているようなのでとりあえず自己紹介からはじめるのです。フルネームはイサベル・フローレス・デ・オリバ、司教補で使徒様の補佐を兼ねているのです。これでも21歳なのですよ。
授業は主に国語と社会を担当しているのです。あと生徒がわからない質問等があったら何でも受け付けているのです。
以降どうぞ宜しくお願いしますなのです」
ついでなので新任の先生方6名もイザベルに自己紹介。
そこからはまあ、いつも通りの職員室だ。
「副校長先生が戻ってきて校長先生も安心ですね」
最年長のノーラ司祭にからかわれるがそれは俺にとって間違いない事実だ。
「何せ今まで書類作成から決裁、説教の原稿まで全部イザベルのチェックがあったからなあ。やっと戻ってきてくれたかというところだ」
事実は一応認めておく。
「向こうは向こうで大変だったのですよ。それこそ全員の給与だの住居費だの食費だの全部計算し直して設定したのです。ただ孤児院と救護院を教団から切り離したので予算的には大分楽になったのです」
なるほどな。
「学校の方は見た通りだ。グロリアやロレッタはじめ半分はミランの学校に異動した。しかも生徒数が本校だけで一気に3倍になった」
昨年の生徒は100名だが本年受け入れ予定の生徒は202名。
「とりあえず来年度の教材は1,2年生分ともに全部揃った。寮の準備も出来たし生活関係も色々取りそろえている。服の採寸表も事業部に回して制服作業衣普段着運動服全部今鋭意制作中だ。入学前には全部揃うことになっている。生徒のクラス分けは今現在のは仮で本人申告の状態。入学1週間後に様子を見てクラスの変更をする予定だ。学校の方はそんなところ。
あと教団改革の件は教団そのものが大改革中なので余裕が無い、今年度いっぱいは学校に専念してくれとの事だ。施術院派遣も定期的なのは廃止、品種改良とかの仕事と同じで必要な時に実施との話だ」
ひととおり状況は説明する。
イザベルも状況は把握しているとは思うけれど。
「了解なのです。生徒関係書類や新しい教材についてはこれから確認するのですよ」
「だいたいはそこの決裁箱に入っている。決裁そのものは俺が代行済みだ」
「了解なのです」
イザベルは箱を開けて中の書類に目を通しはじめる。
こいつの読む速度は異様に早い。
なおかつまだ処理能力に余裕がありそうだ。
ならちょっと雑談でもしてみるか。
「ところでイザベルは向こうで何をやっていたんだ?」
「さっき言った給与とか住居費とかの計算なのですよ」
その辺について俺は微妙に文句がある。
「俺は諸費用引くと一月あたり
俺は一応教団の頂点である使徒で、学校の校長も兼ねているのだ。
それなのにこの給料は結構悲しい。
以前は平の教団専従員すら貰っている小遣いすら無かったのだから、それに比べれば少しはましなのかもしれないけれども。
「校長先生もそれくらいなんですか。私と同じなんですけれど」
ブルーノ司祭補がそう言って頷く。
「私も基本的に同額なのですよ。給与額に位階は関係無いのです。強いて言えば夫婦だの子供がいるだのすると補助が出る分若干給与額が変わるのです。
基本的に教団居住の専従者は比較的低めに見積もらせてもらったのですよ。住居費食費服代等全部引かれて
イザベル、結構厳しい。
「確かに外で事務員やっていても余裕はそんなものかな。洋服代とかは高いし実際は外の方が厳しいかもしれないですね」
これは新しく来たコルネリア司教補。
前職場はナープラの孤児院で、孤児院を国に移管するときに教団に残り、今度学校に赴任してきた。
以前ドリンクスタンドの件で働いて貰ったトスカやカメリアとも知り合いらしい。
確かに教団専従者はそんなにお金を使わないしいいのかな。
衣食住全てを保証されているから。
位階に関係無く給与がほぼ同額というのもこの教団らしい。
何か原始的共産主義のような気もするけれど。
さて、俺は現状認識でちょっと面白い事に気づいた。
「ところでイザベル、この3ヶ月で大分成長したな」
身長が
少しは女性らしい体型に近づいたようだ。
「誰かさんが呪いを解いてしまったせいなのですよ。なので当分は元の年齢に近づくまで成長してしまうのです」
そう言えば何か依然そんな事を言っていたような気もするな。
「不老不死の呪いか?」
「ある程度は不老だけれども不死ではないのです。単に成長を止めるだけの呪いなので寿命は変わらないのです。かなり昔政略結婚の話を聞いた時にそんな事したくないと自分にかけた呪いなのです。必死に文献をあさって破れないような呪いにしたつもりなのに
まあもう必要ない呪いだったのでどうでもいいのですよ」
なるほど、そういう事だったのか。
てっきりこのちびちびな姿は体質だと思っていたのだけれど。
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