第2話 地味な奇跡第一弾
着替えたら再びあのちょいボロなホールへ。
俺達が行くと、先ほどまでの大司教さん達のうち2人が消えて、代わりに灰色の作業着姿の男性が2人増えていた。
「使徒レン様。こちらの農業部門の実務責任者になります。まずこちらがセルゲイ司祭長、農業部門の管理をしております。そしてこちらがヒラルス司祭、農業実務の指導担当です。また私、スコラダ大司教が農業や建築、食品生産等の実務部門を統括しております」
スコラダ大司教が2人を紹介してくれる。
セルゲイ司祭長は小柄な40代位のおっさん。
ヒラルス司祭は細マッチョな30代後半という感じの男性だ。
それにしても細い人ばっかりだな。
栄養状態が良くないのか、それとも粗食が教義に……はないな、現状認識で確認した限りでは。
あと役職が偉そうなのに色々しょぼい感じなのは、貧乏で幹部の人数が少ないからか、それとも清貧の思想的な感じで……
現状把握能力で確認した処によると両方らしい。
「わかりました。よろしくお願いいたします。それでは早速、この建物の上の畑からお願いいたします」
「かしこまりました」
そんな訳で案内開始。
「こちらの畑ではコムギ,ジャガイモ,インゲンマメ、カブの4種の作物を基本に輪作を実施しております。また畑によっては玉ねぎ、人参、大麦、ライ麦等も栽培しております。
このうちカブ等やライ麦は牛やアヒルの飼料としても使用しています」
牛肉やアヒル肉なんて食べるのは……OKのようだ。
聖職者だから肉を食べないとか屠殺をしないなんて事は無いらしい。
その辺は健康的な宗教だな。
農法もなかなか正しい輪作をやっている模様。
ただ土地そのものがあまり健康的ではないようだ。
「失礼ですがジャガイモはここ数年あまり調子が良くないのではないでしょうか」
「おわかりですか。実は年々育ちが悪くなってきております。ジャガイモがここの中心作物なので大変困っております。他の野菜もあわせ、輪作期間を4年から6年に変更したりしておりますが、あまり芳しくない状況です」
ヒラルス司祭が答える。
俺の目には理由は見えている。
あのごく小さい黄色い球形の粒。
あれはおそらく……
現状認識で確認した結果は俺の予想通り。
地球で言う処のジャガイモシストセンチュウのシストだった。
つまりセンチュウに汚染されているが故、育ちが悪い訳だ。
現状認識で確認すると他にも色々面倒な奴らが土壌中に増えている模様。
前世でもこいつらの始末は厄介だと聞いている。
抵抗性品種を使うのが一番効率がいいのだが、今現在そんなものはない模様。
なら使徒の奇跡という奴を使うか。
勿論対症療法だからいずれ対抗植物の研究もしなければならないけれど。
「理解しました。それではちょっと施術を使わせていただきます」
「えっ」
「まず教団の足元を固めませんと始まりませんから」
使徒である俺も生命関係の能力、言い方をかえれば施術とか魔法等を使用可能。
この場合は生命と言っても死滅させる方の操作だけれども。
対象と場所さえある程度限定すれば簡単だ。
「ではこの周りの教団の畑と土地全域に施術を行使します」
『害虫死滅!』
死滅なんて言葉が悪いから口には出さない。
俺の力が教団の土地全域に生き渡っていくのを感じる。
生き渡った力は地へと注ぎ、地表から60センチくらいまで浸透していく。
有害な病害虫だのその卵だの病原菌だのは全滅した。
これで今期は病害等に悩まされる事は無い。
ただ広大な土地対象に施術なんて使ってしまったせいだろうか。
強烈な疲労を感じる。
眠い、怠い、そういった感じだ。
「使徒レン様。今しがた御力が広がったのを感じたのですが、一体どのような事をなさったのでしょうか」
スコラダ大司教が俺に尋ねる。
見ると3人共俺が施術を放ったのに気づいたようだ。
流石名目は司祭以上だな。
見かけは3人とも農家のおっさんにしか見えないけれど。
「土の中に潜んでいる有害なものの一部を除去しました。これで今年のジャガイモ等の生育状況は少しは良くなるでしょう。ですがこれは対症療法です。数年経たないうちに元に戻ってしまいます」
そんな台詞を言いながら何を指示するべきか考える。
そうだ、こんな手段はどうだろう。
「今後しばらく近所の各農家を回ってみてください。ここでの問題と同様な症状が発生していないか確認して、もし発生しているようなら、『そんな畑の中でも比較的うまく育ったジャガイモ』を少し分けて貰ってきてきて下さい。無論対価は相応に払うようにお願い致します。
その『比較的うまく育ったジャガイモ』を集めたら、これらを育て交配させてみます。その次の年も同様に繰り返していけば、いずれこれらの障害を克服したじゃがいもが出来る事でしょう。
勿論私も出来る限り手伝わせていただきます」
つまり抵抗性品種を何とかして作ろうね、という話である。
実際はある程度品種が集まれば俺の力で遺伝子操作が出来る可能性が高い。
ただ上手くいかない場合も考え、自分たちの手で品種改良する事もやっておくべきだろう。
そこまで考えたところでふらっと眩暈を感じた。
やばい、今の魔法、思った以上に俺の力を使ったらしい。
「せっかく案内して頂いたのにすみません。来たばかりでいきなり施術を行使したのが少々堪えたようです。ここから先の視察はまた明日以降にさせて頂いてよろしいでしょうか」
ダウンなんて正直格好悪いよなと思う。
俺、使徒なのに。
そんな訳で俺は召喚当日早々一つの教訓を得た。
今度から能力を大規模に使う際はその前に考えよう。
そうしないとちょっと格好悪いと。
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