第1章 俺、使徒となる

第1話 俺、使徒として目覚める

 固い床の感触。

 神官達の祝詞のような合唱のような声の響き。

 俺は使徒として召喚されたという訳か。

 先程までの神との対話と状況から判断する。


 俺は使徒としての力を使って辺りを観察する。

 ここは天井の高いホール、というにはややみすぼらしい建物。

 周りにいるのは白い衣装着用の神官っぽい奴4名。

 聞こえているのは使徒召喚の呪文だ。


 合唱形式で最後に長く声を伸ばして呪文は終わる。

生命の神セドナの使徒は召喚された!」

 正面の神官の台詞で全員の声がやむ。

 これで召喚儀式は終了のようだ。


 正面の神官が俺の方へと歩み寄ってくる。

「使徒様、御出で頂き誠にありがとうございます。私はここ生命の神セドナ神殿の首座大司教を務めますアセルムスと申します。あとは大司教でスコラダ、ソーフィア、オルレナでございます。以後宜しくお願いいたします」

 そう言って4人とも深々と俺に向けて頭を下げる。

 アセルムスというのがちょいハゲのいかにも神官という白髭のおじいさん。

 スコラダは細いが頑丈な感じの40代風の男。

 ソーフィアは同じくらいの細面の女。

 オルレナは30代位の細め小柄な女性だ。


 アセルムス首座大司教と名乗った老人が俺に尋ねる。

「ところで使徒様、使徒様の御名前は何とお呼びすれば宜しいでしょうか」

 RPGなら『名前を入力してください』というところだな。

 何か格好いい名前を考えてくればよかった。

 そう思うのだがもう遅い。

 制限時間は無いけれど、あまり返答までの時間が長いのもまずいだろう。


 考えようとした処で能力の一つ『現状認識』が働いた。

 これは必要な知識を即時入手できるというまさに神業的な能力である。

 今回入手した知識はこの世界の人名の常識。

 名前はファースト、ミドル、ファミリーの3つで成り立っているという知識だ。


「レンと呼んでください。レン・ミッド・ウッドランドです」

 中森なかもりれんという前世の名前を適当に英訳しただけである。

 工夫が足りないなんて思わないでくれ。

 いきなりだったから洒落たのを思いつかなかったのだ。

 

「かしこまりました、レン様。本日は召喚されてお疲れでの事しょう。ですので今日はゆっくり過ごして頂き、明日からご案内をさせて頂こうと思っております。そのような予定で宜しいでしょうか」

 まあそれが無難かな。

 そう思ったが一応考えてみよう。


「少し待ってください」

 そう言って俺は現状把握能力を使う。

 ここは生命の神セドナを祭る神殿の総本山的存在らしい。

 でも少しばかり朽ちたこの建物の他は、事務棟や居住棟と思われる小さな長屋風の建物数棟と広大な畑だけだ。

 畑はジャガイモをメインに小麦等も植えているようだが生育はあまり良くない。

 その理由はここが高地で気温が低いからだけではなさそうだ。

 他はと見てみるがメインはやはり畑だな。

 芋や麦の他にも豆類など作物は色々植えてあるようだ。

 更に畜産もやっている模様。

 宗教施設というより集団農場的な施設だ。


「この付近の畑はこの教団のものですか?」

「ええ。我が教団はここで主に自給自足を行いながら、布教及び救済活動を行っております」

 なるほど。

 元々なのか衰退したのかは別として、貧乏教団なのは間違いなさそうだ。

 そして早急にやった方がいい事を俺は発見した。


「なら急で申し訳ありませんが、農場を視察させていただきますでしょうか。農業部門の知識を持つ実質的な責任者をつけていただけると助かります」

 俺は使徒だから命令形でいいのかもしれない。

 でもどう見ても年長者で偉そうな彼らには口調が少し丁寧になる。

 まあここの言語に敬語というのは無いのだけれどな。

 命令形かそうでないかの違いだけで。


「宜しいのでしょうか。お疲れでいらっしゃると思いますけれども」

「かまいません。早急に見て措置したい場所があるのです」

「なら一度着替えていただく事に致しましょう。その間に案内の準備を致します」

 確かに今の俺の服装は上下白装束で畑とかの視察には向かない。

 傘をかぶって杖をついたらお遍路さんスタイルだ。


「では私が案内いたします」

 この中では一番若そうなオルレナさんがそう申し出てくれたので、俺は彼女に従って建物の中を歩いていく。

 ホールのある建物を出て長屋風の建物の1つへ。

 そしてオルレナ司教はある扉を開け中に入る。


「ここが当面使徒様に使って頂くお部屋になります。衣服等はそこの棚に入っております。農場の視察ですとこのような服が適切かと思われます」

 ささっと棚から黒い服を上下一式出してくる。

 今着ている服の黒色版のような感じだ。

 それにしても大司教という偉そうな役職なのに随分細かい事もやるんだな。

 それとも俺が使徒だから特別扱い……

 いや、『現状把握』能力によるとそんな事は無さそうだ。

 単にこの教団が貧乏で、教団の体質的に偉い人も率先して動くという風習がある事が理由のようだ。

 何か貧乏くさいというか質素というかそんな教団だな、ここは。

 そう思いつつ服一式を手に取る。


「それでは着替えますので外でお待ち願いますか」

「はい、かしこまりました」

 手伝うと言われなくて幸いだ。

 そう思いつつ俺は着替える。

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