第2話転生者、歪なお子様ライフを送る
惑星リーアミール 獣人の国、ミルフォード共和国
この国は珍しい。
獣人の住まう国ミルフォードは共和国と名乗っているが国民が主権を得る事も代表を出す事も出来ない。
今は一般的に代表の子息の中から国民に選ばせるというスタンスを取っている。
最初は集落の集まりで代表を出し合い投票によって決められたらしいが、二回目以降その者の子息がなるべきだと代表達が全員自ら辞退するという事が数回繰り返された様だ。
その繰り返しが続き国民の支持が5割を切った時のみに代表を出し、再度選挙を行うと言う法律を作り落ち着いた。
そこから400年一度もこの法律が活用された事は無い。
代表も国王と呼ばれておりもう王国でいいんじゃないかと突っ込みたくなる。
集落の集まりから国に変貌を遂げて500年、今では大国と呼ばれるほどの国になっていた。
そんな国の第7王子として俺は生を享けた。
まず最初に、当然の如く驚愕した。
転生はガチだったのだ。
おそらく、転生前の俺は女神に殺されたのだろう……だって俺、生きてたもの。
お陰様でちゃんと生れ落ちた時に泣けました。あいつどうしてくれよう……
夢だって俺、女神に向けて言ったじゃん! ちゃんと否定してよ!
信じなかっただろうけど……
女神の方は国王の親友で軍事トップの総大将の娘として生まれた。
こいつは転生前にちゃっかり神託を出していて自分の名前を付けさせて行動を縛る事を禁じたりと、やりたい放題である。
まあ俺にとってもそれは必要だけど……
そして今、俺はものすごい苦痛の日々を過ごしている。
はい、赤ちゃんです。生まれたてです。何も出来ません。
正確には出来る事もあるけどやっちゃまずいよなぁ。
今はケモミミや尻尾を見て癒されつつ、頬擦りされる時に触れる事で我慢しよう。
と思いながら大人しくしていると、乳母と母親の話が聞こえてくる。
「奥様、神託の御子様がもうお喋りになったという話は本当なのでしょうか?」
「ええ、本当よ……」
うは、あいつ早速何やってんの……俺たちまだ生後20日だよ?
「あの場では何も言えなかったけど、正直怖かったわ……なんて言ったと思う?
『私もう黙ってるのはやめるわ、とりあえずミルクを頂戴』よ。
普通の発音でスラスラと……本当に神様が顕現されたのかも知れないわね」
「私も長くの子供をお世話させて頂いて居ますが、生まれてひと月未満の子供が喋るなど噂に聞いた事すらございません」
……待て何故二十日たつまでは我慢しての第一声がミルクの注文なんだよ。
そんなにミルク貰えなかったの? 食いしん坊なの?
まあいいか。あいつは既に神託で注目決定してるしな。
ちょっと笑わしてもらったし。
「その点うちの子達は良かったわ。
ただでさえこの子は獣人の特徴である耳と尻尾が無くて、将来虐められないか心配なのに……
でも、何があってもこの子は絶対に私が守るわ。お母さんだもの」
はぁ~、安心するわぁこの人……
彼女の名はカトリーナ・ミルフォード。
元軍属の兵士で小隊の隊長をしていたらしい。
小隊と言っても王族特務の特殊部隊のようなもので地位もそれなりに高かったようだ。
ケアリーさんが俺と二人の時は基本的に母上の話を言い聞かせてくるから良く知っている。
この人……いや、うちの母親ね。いい母さんなのよ。
子供の為ってだけでなくて、乳母さんにも優しいし、綺麗だし、いい匂いだし。
俺って恵まれてるな。
オタクだったから前世は割と酷い虐めも食らったけど。
身近な人にはずれが少ないのだ。
あ……女神も身近……いやハズレではないか。
残念だけど……
そうして、何の変哲もない赤ちゃんライフというもの送り続け、苦痛を耐えきりつつも生後5カ月が過ぎた。
俺は行動を開始していた。
あいつだけが好き勝手に喋り、我がままを言える状況を打破する為に……
布石は打っておいてある。
意思表示を少しずつ明確にしていき、ハイハイも首が座る頃合いをみて立ち上がる小鹿のイメージを再現させながら実行した。
最近までしきりに心配していた獣人としての特徴も発現が確認された。
特徴が少しでもあれば、かなりなレアケースではあるものの前例が無い事では無い。
その者たちは例外無く優秀な戦士であったと記載されているらしい。
そんな事もあり…………
母、大・感・激!
俺は母にとっては初めての子供であり、もう俺しか見えない状態になっていた。
まー凄いわ。
この子天才かしら?
しかも努力家よ、可愛すぎるわ!
と、おだてられ過ぎて少し調子に乗ってしまっていたようだ。
ついつい喋ってしまった……
「母上……僕も大好きですよ?」
「ケアリー? ……冗談が過ぎるわ。
思わず嬉しくて泣きそうになっちゃったじゃない」
母は目をぱっちりと開け乳母の方に振り返り言い放つ。
まあ大丈夫だろうあのアホのおかげで目立たないはずだ。
少しビビりながらもこの時、この体で初めて言葉を放った
「奥様、私からそんなに愛らしい声は出ませんよ」
と驚きから苦笑いへと忙しく表情を変え、発生源は自分では無いと否定する。
「えっ……?
で……では……どうしましょう……大好きって私の事がよね。
私何をしたらいいかしら……とりあえず父親に連絡よね。
それからパーティと祝砲はやりすぎかしら……いや、いいわよね」
いい訳あるか!
せいぜい父親に連絡くらいにしておけよ……
「奥様いけません、こういう時はまず思いっきり抱きしめて差し上げて言葉のお返しをするものです。
それとよろしいのですか?
パーティなど開いてはこの想いの中、自由に愛でられないのですよ」
ナイスだ第二の母よ。
だかこの状況の母上に抱き上げられるのはちょっと怖いのだが……
「さ……流石ねケアリー。
親である私が一杯祝ってあげればいいのね?」
とさっそく抱き上げられた俺は驚愕した。
言葉のごとくこの母親は思いっきり抱きしめたのだ。
骨が軋み視界がぼやけ激痛が続く最中、なけなしの肺に残る息を使い必死に言葉を紡ぐ。
「ぐ……ぐるじぃ」
すぐに締め付けは解かれた。
いや、完全に解き放たれた…………
俺は今、浮いている。と思うくらいスローに感じた。
なんだこりゃ……?
ああ、これが思考速度が上がっているという事か、チートだな。
なんて思っているのもつかの間。
赤子の身でこの高さから落ちるという事の大きさ……
そう一大事である。
この高さ、大人との身長比で考えると4m~5mくらいか? そこから落ちたらとても不味い事になるだろう。
そして俺は防御力の低い赤子である。
もっとひどい事になるだろう。
なので俺は周りを必死に見渡した。
観察対象はもちろんこの残念な事を仕出かした母親だ……
服装はとても豪華なワンピースというか部屋着用のドレスか?
そんな事は今はどうでもいい。掴める場所を探さなくては……
あった。あれだ!
スカートの下の方に両脇から伸びるひも状の装飾!
必死に手を伸ばしどうにか掴んだ!
掴めたんだ。もう離さない。だから……
俺は自力で生還できる。助かったんだ!
と思ったが、支えるほどの握力などあるはずもなく一瞬で振りほどかれ、頭から落ちるのはどうにか避けたという程度の効果しかなかった。
そして思考が加速した状態の恐ろしさを実感した……
自分が死ぬかもしれない衝撃をゆっくりと待つのである。
ドンッと音がして、静寂が訪れた。
顔面蒼白で絶句中の母を見上げながら、俺は激痛と恐怖がいっぱい詰まった思い出を刻み込んだ母に、万感の思いを込めて大泣きをした。
それは激しく怒号のごとく泣いてやった。
結局怪我は大したことは無く、ケアリーが大急ぎで持ってきてくれた回復薬ですぐ痛みは引いた。
だが、俺は忘れないだろう。
この恐怖を……母が残念な事を……
それからは大きな問題もなく順調に成長していき、2歳になる頃に俺は再会をする。
そう生後二十日でしゃべり始めちゃったあの子。
名は女神の名リーアミールを付けさせ、姓はアードレイ。
彼の家は古くから王家と深い繋がりのある名家だ。
今日は『我が家のお子様発表会』正式名称知らないから勝手に名付けてみた。
国の明日を担うとされる国から認められた名家。
要するに貴族様達がホクホク顔で「うちの子が~」と囁きあい褒めたたえるパーティーらしいのだ。
母上から普通にしてれば皆がもてはやしてくれると言っていたのでそんな感じだろう。
パーティーが開催される前の準備時間、少しづつ人が集まり始める中、一人の幼女がすり寄って来て小声で話しかけてきた。
「あなたが第七王子でいいのよね?」
この子があの女神様か。
いいねいいね。めっちゃ可愛いじゃん。数年後に美少女確定だな。
だがこいつには言っておきたい事がある……いくら何でもあれは早すぎだと。
「ああ、あなたがたった二十日で我慢の限界が来てしまったミルク好きの女神様ですか」
「ちょ……!」
何で知っているのって顔だな。
口止めでもしてなきゃまず相当の噂になってると思うんだが。
「なに? 何か間違った事言った?」
「……別にミルク好きじゃないし」
そっち?
しかも好きじゃないんだ?
我慢の限界がきて注文したんだろ?
「「……」」
っと雑談時間がいつ遮られるかわからないんだせめて自己紹介だけでも……
「まあいいか。
僕の名はフェルディナンド・アルフ・ミルフォード。これからよろしくね」
「ええこちらこそ。私はリーアミール・アードレイよ」
「それで早期に喋り始めてしまったお前は今まで何をしてたんだ?」
「……名前」
ああ、これは失態だな。
俺も名前はって聞かれて次の言葉でお前って言われたらイラッと来るわ。
「ごめん。聞いた後にお前はないよな……なんて呼べばいい?」
「お父様達にはリーアたんって呼ばれているわ」
うーん、ちゃんや君があるのは分かるけどたんもあるって……
これって日本でも昔からあるわけじゃなかったような……
恐らく、言語理解が働いているのだろうな。
「えっと……たんは厳しいな。リーアって呼ばせて貰う事にするよ」
「わかったわ。それで私がしてた事だけどお勉強してたのよ。
周辺の地理、出現モンスターとレベル、あとは最近の情勢と歴史ね。
フェルは私が知ってるつもりでいるのでしょうから気を利かせたのよ」
おお、これは評価を変えなきゃいけないな。
と言うか素直に嬉しい。
大人になるまで別行動の線も考えたけど一緒に行動するっぽいな。
「ありがとう、嬉しいよリーア」
「ど……どういたしまして、あなたはどうしていたの?」
「真っ当な赤ちゃんライフを送っていた」
「ぷっ」
イラっと来たぞ……?
お前の願いを叶えてやる為に我慢してやった行動なのだが……?
「我慢が足りなくてダメダメだったのはリーアの方だよね。
ちゃんと自覚してる?
ここで余りに目立っちゃったらレベル上げに行き辛くなるし、国外での行動なんて出来ないんだよ?」
俺達は曲がりなりにも国の王子と重鎮の娘だよ?
こいつは余り目を掛けても意味がないくらいに思わせて置くべきだろう?
仮に俺が親なら可愛い我が子に危険なレベル上げなんてさせないよ?
「だ……大丈夫よ。
ちゃんと神託で行動の制限を禁じたし、そこら辺を突けば問題無いはず」
「甘いわー。この子ほんと甘いわー。
神託の効果がどれほどかは知らないけどさ。
俺の計画通りに行動出来ても、最終的に反対されてごり押しをする事になると思うよ」
「最終的にごり押しするならいいじゃない」
アホ! 注目の的になったらそれも通らないっての!
今でさえ本当にごり押し出来るのか不安だってのに……
「お前マジで説教するよ?」
「……名前」
「うるせえ」
……俺はとても疲れる相手をパートナーに選んでしまったのかもしれない。
うなだれているとパーティーが始まった様だ。
何故か俺だけが壇上に呼び出された……
王子だからかな?
と考えながら壇上の中央に行きマイク(音声拡張魔道具)を渡され、司会が喋りだした。
「皆様、これより第七王子フェルディナンド様から式典開催のご挨拶が行われます。
どうかご清聴ください」
はっ?
なにそれ……
2歳児にアドリブで開催号令とか可笑しいだろ?
あっ、これガチなやつだ……
皆微笑ましそうに見てるし母上が「なんでもいいのよー大丈夫ー」とか言ってる。
貴族社会に揉まれる前の通過儀礼とかか?
畜生……
リーアといい、こいつらといい、適当やりやがって……
この生暖かい空気には入りたくないな……黙らせてやろうじゃねーか畜生!
「えー、ゴホン。
初めに、この度は我々の様な若輩者の為に名立たる名家である皆様方にご足労頂けた事に深く感謝を申し上げます。
知っての通りだとはございますが、この式典はミルフォードの将来において、国の明日を担う者達のお披露目をするものでございます。
温かい目で見守り応援して下さる事を切に願います。
わたくしフェルディナンド・アルフ・ミルフォードより、只今をもって式典開催とさせて頂きます」
おおう、予想通りだな。皆絶句してるわ……
あ、リーアがすごく何か言いたそうだ。
だけどね、もう遅いんだよ……
君と一緒に行動するとなると影の薄い王子という線は消えたんだ。
それに、一番恥ずかしかった母上を黙らせられたのは素直に嬉しい。
いや、感動に打ち震えているだけな感じにも見えるが……
「で……では大変丁寧な開催のお言葉を頂きましたので、これよりお披露目と言う事で御一人ずつお父様お母様に向かってご挨拶をお願いいたします。
では最初に名門アードレイ家より三人目のお子様、ご息女様ですね。ご挨拶お願いします」
あ、しょっぱなリーアだ。
階級が高い順なのね。さてさてどんな挨拶をしてくれるのか。
ニヤニヤしながら見守ってやろうじゃないか。
ああなるほどこっち側は楽しいんだな。
「皆様、こんばんわ、私が神託を受けた者リーアミール・アードレイですわ。
ご興味を持たれている方は多々居るかと思いますが、事情により今は伏せさせて頂きます。
これより私はパートナーを選び、その者と共に己を高め世界の平穏の為に戦っていく事になるでしょう。
それは並大抵の事では無く危険も多々あると思いますが、アードレイの名に恥じぬよう決して足を止めず、国の為世界の為、戦い抜く事を宣言いたします」
なるほど。神託と共に己の意志が決まっているという意思表示か。
だが親の愛がどれほど重いか自分の手で持ってみて確かめてみるといい。
「先ほどから耳を疑うほどの良いスピーチですね……
流石は神託の御子様、聡明で神々しさすら感じます。
続きまして――――」
ここからは記憶に留めておく必要は余りなさそうだな。
将来関わり合うであろうが、所詮は幼児の集まりだ。
こんな事覚え続ける奴はいないだろう。
と司会の言葉から意識を外しリーアに視線を向けるとチラチラとこちらに視線を向けていた。
とりあえず親指を立ててスピーチが良かった事をアピールすると、ドヤ顔に早変わりしふんぞり返った。
ああ、こいつは褒めるとダメになるタイプなのかもしれない……
そんなこんなでリーアとゼスチャーで他愛無いやり取りをしている内に式典も終わり、用意されていた馬車で両親と共に屋敷へ帰る。
その途中母は珍しく視線を強めて言った。
「あのリーアって子とお友達になってはダメよ。フェルちゃん……約束して!」
とても強い眼差しだったが、俺も強い眼差しを返した。
「ごめんなさい。心労を掛けてしまうのは分かっていますが、そこは譲れません」
「ど、どうしてなの?」
困ったな……どう伝えても波乱の予感しかしないと言うか確定だろう。
女神の加護というか能力を貰っていても長生き出来る可能性は低そう……あれ?
俺なんでこんな死んでくれって言う様な願い引き受けたんだ……
ああ、夢だと思ってたんだ。
いや異世界転生だし、分かってても受けたかもしれない。
うん、受けたな。絶対に受けた。
いや、今はそんな事より母上との話をどう決着付けるかだ。
おそらくこの人は思いの丈が強ければ強いほど暴走するという、バッシブ(常時発動型)スキルを所持しているだろう。
冷静に対処しなければいけない。
それに俺はこの若干お馬鹿で優しい母上が好きなのだ。心を病ませる事はしたくない。
騙してでもどうにかしなくては……
「実は……僕も神託を受けているんです」
「そんな嘘ついてもダメです! そんな話は誰からも聞いていません」
「それはそうでしょう。その時僕はまだ魂でしたから……」
「私……フェルちゃんが何を言ってるのかわからないわ」
そりゃそうだよな。
無理やりこじつけるつもりだけど、罪悪感がぱないな。
「僕が生まれる前の話です。
色々な素質を女神様から直接貰う事と獣人の国で生まれる事を条件に、使命を言い渡されました」
「いやよ! 聞きたくないわ。フェル君は私の子供!
子供と母親は一緒に居ないとダメなの! お母さんがダメになっちゃうの!」
おおう。普通は子供にとって良くないとか……いや逆に潔くていいな。
だがこの人は本当にダメになる気がする。手を打たねば後で後悔する事になりそうだ……
ならば……
「はい、僕もこのまま一緒に居てほしいです。
だから無茶をいいます。僕と一緒に冒険をしてください」
「え?」と口を空けて固まる母上。先ほどのどうあっても聞き入れないとしていた姿勢は崩せたようだ。
この調子で頑張って説得せねば。
「えと、ケアリーさんから昔の母上は上位の小隊の隊長をしていてとても強かったと聞いています。
だから僕と一緒に魔物退治をして僕の成長を近くで見ていてほしいです」
「で……でもそんなの危ないわ」
「僕とリーアが強くなるのはこの国の為でもあるんです。
女神が必要になると言ったのです。
僕はお母さんを守りたい。その為に強くなりたい。
恥ずかしくても情けなくても結果が得られるなら構わない。
だからお母さん僕と一緒に冒険に出てください」
巻き込んで行くスタイルで行こうと思う。
元兵士で隊長までしてたんだ。
戦争が始まって状況が悪化したら無理やり軍に戻されて大変な目に合う事になりそうだし。
「お……お母さん……もう一度呼んでみてくれないかしら」
あ? あれ?
こっちは恥をかき捨てながら必死なのに……話はそっちのけだぞ……
いくら、子供になって多少は精神的に幼児退行させられてても、かなり恥ずかしいんだぞ!?
ちょっとムカついてきた。伝えなければ……僕は本気なのだと。
「話が変わってはいませんか?カトリーナ」
「ちょっと!お母さんでしょっ。
親を名前で呼び捨てにするとかいくらフェルちゃんでも失礼だわ」
「ええ、存じ上げております。ですがカトリーナ様、我が子の必死な頼み事の話より、自分の楽しみを優先する相手に、礼を尽くす必要があるのでしょうか?」
冷めた目で俺は追い打ちを掛けた。
「や……やめなさい。そう言う責め方しちゃ……ダメなんだから……
泣くわよ……泣いちゃうからね?」
おっと、大人気なかったな。そろそろ妥協案を出してみるか。
こんな母相手だ。何度も段階を踏まねば。
取り合えずの目的は母さんを暴走させない事だしね。
「ではその件は一先ずは保留にして、明日からお庭で剣のお稽古とかはいかがでしょうか」
その内に勝つなり何なりして認めさせればいいだろう
「うーんまだ早いけど、そのくらいなら……」
そうして俺は一先ずの勝利を勝ち取った。そんな折、馬車が止まる。
外に視線を向ければそこには見慣れた屋敷が映った。
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