緑の帽子

@seizansou

本文

 みな、緑の帽子をかぶっていました。


 みな、バラバラの方向を向いて立ち尽くしています。


 黒いコートを羽織った、痩身の男が立ち尽くしていました。緑色の帽子をかぶっていました。

 和服を着た、小柄な老婆が立っていました。緑色の帽子をかぶっていました。

 ランニングウェアで、サングラスをかけている女が立ちぼうけていました。緑色の帽子をかぶっていました。

 白衣を着た壮年の男が立ちすくんでいました。緑色の帽子をかぶっていました。

 甲冑に身を包んだいかつい男が、仁王立ちしていました。兜の代わりに、緑色の帽子をかぶっていました。


 他にもたくさんの、緑の帽子にかぶられている人間が立っていました。


 彼らが立つ場所は世界でした。

 世界の上に彼らは立たされていました。


 彼らが立つ時間はバラバラでした。

 彼らが立つ時代はバラバラでした。


 ある程度の時間が経つと彼らは行動を起こしました。


 ある者は泣き崩れました。

 ある者は怒りにかられ、人を殺しました。

 ある者は浪費で埋め合わせをしました。

 ある者は哲学者になりました。

 ある者は人を信じられなくなりました。

 ある者は自殺しました。

 ある者は仕事に没頭しました。


 それぞれの者が、それぞれの反応を示しました。


 いつ、誰に、緑の帽子がかぶせられるのか。

 それはどんな存在であっても知り得ません。

 緑の帽子をかぶせられないまま死ぬ人間もたくさんいます。


 今も、どこかで、誰かの頭に、緑の帽子がかぶせられています。


 それは近しい人かもしれない。

 それは自分自身かもしれない。


 伴侶かもしれない。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

緑の帽子 @seizansou

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ