音楽に合わせて廃墟とりゲーム

ちびまるフォイ

体の芯から燃えられるような

てれてっててれれ、てってれ♪


てれれれれれ、てれれれれれれれれ♪


てれてっててれれ、てってれ♪


てれれれれれ、てれれれれれれれれ♪


てれってって、てれってて♪

てれってって、てれってて♪


てってってってってってって

てれてっててれれ、てってれ♪


てれ――



音楽が止まると、空が一瞬だけ光ったような気がした。


光の柱のような熱線が地上に降り注ぎ、廃墟に入れなかった人間を消し炭にする。

音楽が止む前に入れなかった人たちは悲鳴をあげることすらできなかった。


てれてっててれれ、てってれ♪


音楽が再始動する。


「もういい加減にしてくれ!」


いったいいつまで続ければ良いのか。

気がついたときにはだだっ広い荒れ地に立っていた。


最初は何百人もいた。

素人を集めての大規模なクイズ番組かと思った。


どこからか音楽が鳴り始めて、しばらくすると音楽が止まる。

止まったときに外にいると空からの熱線で焼き消される。


生き残るためには音楽が止む前に建物の中に入らなければならない。


「はぁっ……はぁっ……」


てれてっててれれ、てってれ♪

てれれれれれ、てれれれれれれれれ♪


音楽が止むのが先か体力が尽きるのが先か。


「おおい! こっちだ!! こっちにあるぞ!!」


生き残った人が新しい廃墟を指差す。

一度使った建物にもう一度とどまることはできない。


外に出るのが怖くなって同じ建物にうずくまった人間が、

2度目の熱線で建物ごと焼かれたのをこの目で見たからだ。


「くそ! 窓に板が打ち付けてある!」

「はやくしろ! 音楽がとまっちまう!」


てれってって、てれってて♪

てれってって、てれってて♪


「もういい! 俺は別の場所を探す!」

「バカ! 協力したほうが早いんだよ!」

「いつ勝手にやってろ!!」


てってってってってってって

てれてっててれれ、てってれ♪


「あっ」


俺は運良く塀の下に空いている穴から廃墟の中へとネズミのように入ることができた。


てれてっててれれ、てっててれてって


音楽が止むと空から一瞬の煌めき。

強烈な太陽光線のような黄みがかった白い光が廃墟の外を包む。


次の瞬間には骨も残っていない。


廃墟の窓に入ろうと打ち付けられていた板を剥がそうとしていた人も。

他の場所を探そうとしていた人も一瞬で消されてしまった。


てれてって――


ふたたび間髪を入れずに光の柱が現れた。

しかし、今度は遠くの方だった。


「いまのはいったい……」


これまでは廃墟の周囲をピンポイントで降り注いだが、

今度はまるで見当違いの場所に光が見えた気がする。


「おい! なにぼーっとしてる!

 次の曲が始まる前に避難先を探すの手伝え!!」


まだ元気のある人は散り散りになって次の避難先を探す。

疲れと絶望がにじみはじめたひとりは諦めたように言った。


「次の避難先? そんなこと無駄だってまだわからないのか?」


「なんだと?」


「いい加減、これが椅子取りゲームと同じだって気づいているだろう。

 椅子取りゲームの終了方法はなんだと思う?」


「……」


「最後の1人が決まれば、だ。避難先の廃墟を探してみんなで隠れて……。

 それは単に周りの人間をいたずらに苦しめているだけなんだよ」


「逃げた先で誰かに助けを求められるかもしれないだろ!?

 ここにいたらそれこそみんなで助かる確率はゼロじゃないか!!」



てれてっててれれ、てってれ♪



背筋が凍るような音楽がふたたび再開された。


「どうするんだ!? ここでとどまって死を待つか!

 それとも俺と一緒に次の避難先を探すやつは協力しろ!!」


「ふふ……オレはひとりにしてくれていいぜ。

 お前らが焼かれて、ひとりになったらきっとゲーム終了だ」


「ひとりになったからって終わるとは限らないだろ!?」

「試す価値はある」


生き残り組はまっぷたつになった。

俺は本当は生き残りたかった。


次の避難先を探して希望を信じていたかった。

必死になっている方が恐怖を忘れられる。


でも、避難先の廃墟を探すのに東奔西走。

足はガタガタでこれ以上遠くへ行くことはできなかった。


「勝手にしろ! こっちは行くからな!!」


避難組は居残り組を見捨てて次の避難先へと向かった。


てれてっててれれ、てってれ♪


死へのカウントダウンのように音楽が聞こえてくる。

居残った人たちは神に祈ったり、家族に書き置きを残そうとしている。


一度使った建物は二度目の熱線を耐えることはできない。



が、それでも地下深くならギリ1発は耐えられるんじゃないか。


足が動かないなりに廃墟を歩き回って防空壕を探す。


「どこか……どこかにないか……」


床に落ちていたトタン板をどかしたときだった。

地下に向かって伸びる階段が現れた。


地下階段に入るとするにふたをして気付かれないようにした。


階段はかなり深くまで続いている。

外から聞こえていたはずの曲もうっすらと、やがて聞こえなくなった。


「ここなら防げるかも……」


地下は深層まで直線で降りてからは、ひとひとりが通るのがやっとの細い横道が続く。

一本道しかなくまるで避難経路のようだ。


しばらく歩いていると、行き止まりになり頭上に登るはしごが見えた。


外からの熱線を防ぐという意味ではこの場所に留まるほうが良い。

それでも地下の道が地上のどこへ通じているのか好奇心にまけてはしごを登った。


はしごのつながっていたのは、どこかの小さな小部屋だった。

すでに先客で男がひとり立っている。


てれてっててれれ、てってれ♪


てれれれれれ、てれれれれれれれれ♪


てれってって、てれってて♪

てれってって、てれってて♪



――この部屋だ。


これまで聞こえていた曲はこの部屋から流れていたんだ。


「あのっ……」


男に声をかけようとしたとき、男はふいに手元のボタンを押した。

その瞬間、音が止まって遠くに見える廃墟に光の柱が降り注いだ。


生まれてはじめて考えるよりも先に体が動いた。

俺に殴られた男はボタンを取り落し壁に向かって吹っ飛んだ。


「お、おい! あんたなにやってるんだ!?」


「あ……あ……」


男の目はすでに死んでいる。

生気のない顔はただスイッチを押すだけのマシーンと化している。


「あんたが曲を止めて熱線をみんなに注いでいたんだな!!」


「返してくれぇ!! ボタンをかえせぇぇぇ!」


男はボタンを取り返そうとがむしゃらに襲ってくる。

しかし、けしてボタンを奪われるわけにはいかない。


てれてっててれれ、てってれ♪

てれれれれれ、てれれれれれれれれ♪


「押させろぉぉ!! そのボタンを押させてくれぇぇ!!」


「ふざけんな! お前がこのボタンを押してどれだけの人が死んだと思う!」


「早く返せぇぇぇ!! ボタンを押させろぉぉ!!」


てれてっててれれ、てってれ♪


てれれれれれ、てれれれれれれれれ♪


てれってって、てれってて♪

てれってって、てれってて♪


男は音楽が進むにつれなりふり構わなくなってくる。

個の目で焼かれていく人を見てきた。けして渡してはならない。


てってってってってってって

てれてっててれれ、てってれ♪


「早くしろぉぉ! 音楽が止まる!!」


「なら……こうしてやるっ……!」


俺はボタンを床に叩きつけて破壊した。

これでもう男がボタンを押すことはできなくなる。


「はぁっ、はぁっ、みんな……やったよ……これでもう誰も死ぬことはない……」



てれてっててれれ、てってれ♪


てれれれれれ、てれ――



音楽が停止した。

部屋の外から見える景色には光が降り注いでいる様子はない。


「やった! 俺はついに止めたんだ!! ゲームは終わったんだ!!」


俺が嬉しさにジャンプして着地するよりも早く。


音楽を止めてもスイッチを押さなかった人間の足元から

まばゆい光の柱がすべてを焼き尽くした。


俺が最後に見たのは徐々にホワイトアウトしていく風景だけだった。

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