キミに晴れ

蒔糸

第1話 よくある放課後

教室にチャイムの音が響き渡る。橙色に染まった辺り一面を見て俺はもう放課後なのかと察する。


「もー…またずっと寝てた、優真くん、あさですよー」


鈴のような音色をした方を見るとそこには、1人の女の子が立っている。

大きな目に長いまつ毛、整った鼻と桜色の唇、肩くらいまでのセミロングは、夕日を透かし栗色の髪をさらに茶色く見せている。

そんな彼女の姿に見惚れそうになった俺は慌てて顔を逸らす。可愛いのは確かだが実に不覚だ。


「おはよう」


俺を君付けの名前で呼ぶのなんて彼女だけなのに、今気づいたかのように挨拶をする。


「おそようだよ」


さも古典的な返し


「さあ今日はゲーセンに付き合ってもらうよ!」


身を乗り出してそんなことを言う。目が輝いている。顔が近い!

そもそも今日日ゲーセンって、そんなJK聞いたことがない

そんな考えが顔に出ていたのか彼女は少し機嫌を悪くしたようだ。この後に来る言葉はいつも決まっている。


「…約束」


ボソッと、俺にしか聞こえない、しかし冷めきった声で彼女は言う。

さっき鈴の音色のような声といったのは撤回しよう。


「分かったよ」


そう言いながら俺は立ち上がる。


「帰りの支度は速いね、あ、もしかして実は結構楽しみにしてたりぃ?」


ニヤリと笑った顔でこっちを見てくる。語尾を伸ばすな。


「こっちは約束を人質に取られてるんだよ、さあ、行くぞ」


俺が歩き出すと彼女は右側に移動する。


「マリカーでいざ勝負!」


こうして放課後の教室2人並んで後にする。

分かってたんだ、出会った時から、さよならが近づいていたことなんて。それでも、今はこのぬるま湯に…

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