第17話 戦いの後に②
私は、結局戦いに勝ったのだ。もう、この陣地にいる必要はない。更には私の目的はウヌリスと行くことのほうが確実だ。なにも迷う必要はない。しかし…
「話は終わったな、どうした?」
そう言われて、再び天幕の中に入っていく。タッゲルトの前まで行き、物置兼腰かけに座る。
先程のウヌリスとの会話について考える。どうしてここから直ぐに去ることが名残りおしいのか。それは一重にタッゲルトのせいだ。何故か最初から親切にしてもらった。確かに、利用しようと思ったから周りも含めて、申し訳なさを引き出す事で逃がさない様にしたのかもしれない。
実際、作戦会議の場面では他の若者から反対の声が多く上がった。あれが信用のない余所者に対する本当の態度だったのではないだろか。
しかし、それだけの役割であったとしたらわざわざ戦いの中でこちらを気遣うだろうか。私の役目は戦いではない。あくまで道の探索だ。用済みだったら放っておくだろう。
タッゲルトは山に向かう際中、感情を晒した。事実を言った。それは何故か。
「あー、お前の友達はあんまり、静かに話すのが不得意なようだな…、で、お前は今それについて悩んでいるもんだから、そんな難しい表情をしている…」
その通りだ。
「…あいつと行きなよ、何も悩む必要はないじゃないか、俺たちはお前を…あー、悪いが…利用した、危ないところに連れまわし命を懸けさせた、お陰で勝てたんだがな…、まぁ…もちろん俺も感謝するし、皆も感謝してる、だけどお前は散々な目にあった、俺たちはあれを落とした事で食料を得られるが、お前は何も得ない、殆ど損しかしてないじゃないか、もう二度と来たくないと思っててもおかしくない、顔も見たくないと思われてもしょうがない、お前の人生の道を少し邪魔してすまなかった」
「そんなことない…姉が死んだ事は分かった、それに人生の邪魔なんかじゃない」
そう、この体験は無駄じゃなかった。
「友達が…」
はっとする。友達…。相手はそう思ってないのかもしれない…。よくある…。本当にただただ利用しようとおもっていただけでそれ以上の感情はないのかもしれない。下を向いていた顔を前にむける。思い切って顔をみるのだ。
…
「あはは、あはははは、そうか、そうか友達、友達か、言葉にすると安っぽいな、そう、そうだ、そう思ってくれたのか、そう」
一しきり、タッゲルトは、笑うと、一瞬、真顔になり少しにやっとしてこちらを見た。
「嬉しいぜ、信頼してくれてたんだな、認めてくれてたんだな」
大きく深呼吸をしてじっとこちらを見つめる。
「改めてよろしく願うぜ、おれはタッゲルトだ、タッゲでいいぜ」
「よろしくタッゲ、ダッカだ」
そうか、タッゲルトも友人と思っていたのか。やはり、信頼してくれていたのか。この戦いは私にとっても無駄ではなかった。こんなに良い友人が増えたのだ。
「で、友よ!…結局どうすんだ?」
「まぁ、普通は直ぐにここを離れるが…」
しまった。今ので更にここから離れずらくなってしまった。だが、もんもんとしたままここから出て行ってもずっと尾を引いたかもしれない。
「そ…うか、あー、分かれずらくなったな…」
「でも、はっきりさせないと…もっと後味が悪くなったかもしれないから」
「そうか…」
悩む。悩む。だめだ、答えがでない。どちらにせよここから出なければいけないことは確実だろう。でも…。
「どうしたら良いと思う?」
信頼している友人の答えなら…。
「うん、そうだな、直ぐにでもあいつと行くべきだ、俺となら…きっと…またいつか会えるだろうが、お前の親族は早くしないと野垂れ死ぬかもしれないからな…」
「…そうだな…ありがとう、そうするよ」
そうしよう。友人に答えを求めてそれがでた。信頼した友人から。だから、そうしよう。私の人生を信頼できる友達に決めてもらうなら、胸をはってその人生を送れる。友人からの贈り物なのだから。
「まぁ、また会えるさ…そうだ!お前死ななかったな!1っ回も死ななかったな!」
まぁ、そうだ。一度も死んでなかった。それはそうだ。そもそも一度死んでしまえばここにいなかっただろう?不思議な言い回し…
「お前、まさか忘れてないよな!これ!」
そう言って、タッゲは懐からあの「人形」を取り出してくる。
「ほれ、これこれ!」
あ、そうだ。1度だけ、自分が負った、死ぬ程の、傷を無かった事にできる人形。結局死ななかったから、それが効果を発揮する事はなかった。
「これを持ってけよ、使わない限り、効果は消えない、あーっと、だからお前は1っ回だけ「死ねる」、どうせだからな」
そうだ。あの老人が不思議な歌を歌い何かを込めた人形。その存在を忘れていた。すっかり。ごたごたで。
「ありがとう」
それを受け取り小脇に置いておく。
「いつ頃出るんだ?」
いつ頃か。ウヌリスの話では明日の朝に答えを聞くと言っていた。そう考えれば…
「多分、明日でる」
明日だろうな。
「…そうか」
その場に沈黙が流れる。互いに落胆しあっているのか。それとも、なにか考えを巡らせているのだろうか。
「じゃあ、今日は飲もう!祝い酒じゃ!ここでまっとれぃ」
そう言って、タッゲは立ちあがり外に出ていった。
暫く、座ったまま待つ。
「お待たせしたな」
そう言って天幕に戻って来たタッゲの手には大きな壺が握られていた。先のほうが細くなっており、そこを掴み持つようだ。
酒を飲むのか。祝い酒と言っていたな。そのことに関して、一つだけ気になることがある。
「祝い酒って戦勝の祝いだよね?どうして、みんなで飲まないんだ?」
よくよく考えてみると、勝ったというのに外から歓声の一つも聞こえてこない。
「ん?あー…、確かに祝祭の時にはみんなで集まって飲んだりするけど、死者が出た時は、死んでいった奴らが楽しそうなのにつられて旅立てない、っていう状態を防ぐためだ」
だから、決して外で騒ぎながら飲みはしない。恐らく、それぞれの天幕の中で近しい者とのみ飲み交わしているのだろう。
「さぁ、ほれ飲んでみろ」
タッゲルトは私の手に木製の器をよこすと、そこに壺の中身を注ぎ始めた。壺の中身の液体は白く濁っていた。昔、家族で飲んでいた発酵酒を思い出す。母が2年ほどかけて何かの肉を漬け込んでいた物だ。あっちは黒く、味は少し辛い物であったが、それでも兄と姉と私は好んで飲んでいた。
…
やっぱり、タッゲルトの言うとおりだ。いつまでもこんな状況では決して前を向いて生きていくことは出来ない。いつまでも二度と手に入れられない物を愛おしく思い続ける事になってしまう。自分の人生にふんぎりをつけなければいけない。
つがれた酒を勢いよく口に含む。
「おっ!」
口の中でその風味を確かめる為に少し転がし…
「ははは!なんだその顔は!やっぱり口に合わなかったか!ははは!」
あまりに気持ち悪い舌触りに顔がゆがむ。しかし、なんとか我慢して喉に押し込む。
「あー、違う所の酒は、飲んだことあるが、全く飲んでいる気がしなかったからな、よその奴からしたらだいぶ特殊に、いやー、だいぶ不味く感じるんだな、ここのは」
「よぉ、ダッカ、タッゲルト、随分楽しそうだな!俺も混ぜろよ」
その声と供に天幕に首長が入って来た。
「首長!?」
「いいじゃないか、叔父さんも混ぜてくれよ、タッゲ!」
叔父!?いやおじ!?いずれにせよタッゲと首長は何かしらの地の繋がりがあるのだろうか…
こうして、結局3人で夜が更け自然に眠ってしまうまで、私にとって、不味い酒を飲み交わしたのだった。
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