第13話 ある山の攻防⑤

燃える枯草は私たちの周りを辛うじて見える程に明るくしてくれる。

すると、再び小物入れの中に手を突っ込み妙な、木製の、小瓶を取り出す。

そして、それをその日にかざす…

木製の瓶はもちろん焦げ付き初め、今にも日が燃え移りそうだ。

「何をしているのですか?」

私の言動など意に介さず手に持ってそれを火にかざす。

熱くないのか?

少し燃えてきた所で火から小瓶を引き上げる。

そして、それを剣の先に刺す…

「これは『長々と燃える木』という木でな名前の通り炭化が中々進まなく、更にはついた火を強くするんだ、だからな、松明がじゃまな時とかには持ってこいな物でな…」

なるほど、確かに、剣の先から照らされる世界は、はっきりと服の模様までが明らかなほど明るい。

「さて、もう一回やつらの根城まで行くぞ」

そう言って立ち上がり、再び登っていく。

剣先が照らす地面はないよりはマシとは言えども、見にくく歩きにくい。

しかし、一度歩いた道を忘れない性質なのだろう、登りよりも明らかに早い速度で登っていくタッゲルトの背中をただついていく。

今は夜だ。

この火の明かり以外、足元やいく先を照らすものはない。

しかし、それはあちらも同じだ。

もし、奴らが探しに降りてきていたとしてもこちらの姿を認めることは難しいだろう。

それに、山に慣れているものならば、なおさら、夜の山を降らせるなんて事はさせない。


再び奴らの根城の近くまでやってくる。

やはり、予測通り道中誰にも会うこともなく無事にたどり着くことができた。

念の為だろうか、門番は先程と違い丸い盾を持ち革を小札にして布に縫い付けた鎧を着ていた。

更には土が一段と盛り上がったところには木組みの塔のような物が作られている途中であった。

見た所、先程の首領の男は見当たらない。

どれかの小屋にいるのだろうか。

小屋の前には先程はいなかった、警備の兵士がそれぞれに2人ずつ立っている。

違和感を覚えた。

どう見ても山賊の集落にしては硬すぎる。

まるで何かの脅威に備えようとしているかのようだ。

それが、今協力している馬賊なら良いのだが。


低く聞こえにくい声を出すために喉に力を入れる。

「どうするんですか?」

「丸小屋は宝物庫だろう、とするとあの四角い丸太小屋のどれかに奴らの首領いる事になる」

「そうですね」

「だが、あの小屋の中に大量に備蓄食料でも入っている恐れがあるから、簡単にあの小屋を燃やす事はできない、だが闇雲に飛び出せば袋だたきだが、裏に回るにも根城を突っ切らなきゃならない」

「はぁ…」

策はもしかしてないのか?

今考えているのか?

「どうするんですか?」

「まず門番を殺す」

!?

どういう事だ…

「どうやって?」

「一番近いところの小屋の前に立ってる門番見えるか?」

最初見た時よりも見えにくいが何とか見える。

「まず、あれをやってくれるか?」

「で、そのあとどうするの?」

「俺の見立てだとその小屋に奴がいる」

タッゲルトは簡潔に物をいう事が出来ないのだろうか…

結論から言って欲しい

「だから、結局どうするの?」

「俺がもう一人を、飛び出して、殺して中に入り首領を殺して出てくる」

作戦でもなんでもない…

結局力業じゃないか

どうしてあの小屋に首領がいると予測するのか聞こうとしてところで私の矢筒から矢をとって差し出す。

「頼む」

その目には決意が表れている。

そうか、タッゲルトの中では既に作戦が端から端まで決めており決意を決めたことによって興奮しているのだろう。そのせいで冷静にこちらに作戦を説明することができないから順を追って説明しようとしていたのだ。

信頼する。

この場ではそれしかないからという以外に、何故か信頼したいとおもった。

今この場に於いてこの山賊に対し被害を被ったのは私とタッゲルト。

そんな似たような境遇の者を信じたかった。


「分かった」

そう言って弓を左手にとり、右手で矢を受け取る。

タッゲルトが横で、剣先から燃える木片を外し草などをどかした地面の上に置いている。

弦に矢を番え小屋の前に立つ、うなだれている男を狙う。

そして…

湿った音が鳴るや否やタッゲルトが隣から凄まじい速さで走り出し、その小屋の前のもう一人の男の首を剣で割く。

外にいる他の男達はギョッとしてそちらを見るが、既に小屋の扉は勢いよく蹴破られていた。

小屋の中から少しどたどたとした音が聞こえ再び入り口からタッゲルトがこちらに向かって走りこんできた。

途中周りの男達が走り止めようとしたが前に立つことも囲むこともできない程に速い。

遂に私の隣迄来る。

「行くぞ!」

そう言いながら木片を地面から剣先に動きながら刺す。

再び逃亡劇がはじまったのだ。


「やったぞ!首は取れなかったが、之で死ぬはず」

息を切らしながら、暗くて危険な斜面を駆け下りながら、タッゲルトは言う。


なんとか山を下りきり日の出ていた頃に来た山の麓までたどり着く。

すると、そこには既に全身を、鉄の小札鎧に包んだ首長を先頭として、タッゲルトと同じ様に剣に木片を刺した無数の兵士達が既に待ち構えていた。

総勢で幾らくらいだろうか。

軽く300人以上はいそうだ。

「攻めの好機と思い、今か今かと待ち望んでおりました」

首長はそう言うと直ぐに後ろを向き剣を上に突き上げた。

すると、後ろに並ぶ300人以上の男たちも一斉に剣を突き上げた。

首長が剣を押し下げると後ろの男たちも一斉に剣を押し下げる。

「さて、奴らの拠点は見つかったんですね?」

「はい、見つかりました、しかし、道が…」

首長は私とタッゲルトの後ろを眺める。

「その後ろのわかりやすい大きい道は…罠なんですね?」

タッゲルトが口を開く。

「この道は恐らくちゃんと奴らの拠点までは繋がってる、しかし、前話した通り二度目の先遣隊はこちらの道を登っていく所で待ち伏せに遭い全滅した」

首長は首を傾ける。

「そうか、なら他の道も通るべきだが…その道を恐らく見つけたんですね?どこですかダッカさん」

言いづらい。

だが教えないわけにはいかない。

「道という様なものではないのですが…」

後ろの自分たちがおりてきた所を指し示す。

首長は一瞬何を言っているのかよくわからない顔をしたが、直ぐに曇った様子になる。

「そうか…、案内を頼めますか?」

「えっ?」

予想外な言葉で驚く。

折角降ってきたというのにまた登り直しか。

しょうがない。

「分かりました…」

仕方なく再び山に踏み入れる。


300人以上を一度に同じ道で目標まで行かせる事は時間がかかるので軍は二つに分けられ、私が先導する方は先程おりてきた道を、そしてタッゲルトを案内役とした方は待ち伏せの危険性を容認しつつ大きな道を行く事になった。

大きく整備された道の方が足元もよく幾分かの犠牲を出しつつも先に到着すると思われるので、奴らの拠点につきつつ攻撃を始めた所を、私の先導する集団が横から奇襲するという算段だ。


暗い中の大勢の山登りは大多数が山に慣れていないこともあり非常に困難を極める。

中には足をくじいたりへりから滑落仕掛ける者も出てくる。

なので二人で登った時よりも断然早さは落ちてしまっている。

しかし、戦いの前だという意識が凄まじいのかこの軍勢は物音をなるべく立てない。

空は暗さを増していく。

「どうですか?今どれくらいまで来ましたか?」

後列の到着が遅れるとまずいので途中で足を止める。

「まだ、もう少しかかりますね」

振り返って首長の側近らしい体格の良い男の質問に答える。

確か名前はヂョウトルとだったか。

ある程度の纏まりを保つ為20人程の塊で登りその塊ごとで早さを合わせる。

しかし、あまり先頭の集団が他の集団とも離れていざ目標についた時攻撃できなければ困るので止まって少し間隔を調整する。


その時、遠くから多くの男たちの雄々しい叫び声が聞こえた。

「これは、時の声ですね…どうやらあっちは敵の襲撃に遭った様です」

待ち伏せに妨害されているのだろう。

しかし、あの人数なら難なく突破できるはずだ。


やっと、奴らの拠点が見える地点までついた。

今手近にいる集団は私のいる集団一つだ。

あとはまだ後ろにいる。


激しい怒鳴り声や叫び声、悲鳴が聞こえる。

もう一つの方の軍も既に到着しており、もう攻撃を開始している様だ。

しかし、依然として拠点は落ちていない。


拠点内には2人の時に見た数とは比較にならない程の武装した山賊どもが見て取れる。

数だけなら、こちらの軍の総勢の半分ぐらいだろうか。

拠点の入り口は鉄の板で補強された大きな木の板の様な者で塞がれている。

入り口の上に通された木の道かには弓を持った男たちが、がむしゃらに下に向けて射っている。

私たちの軍の様子はこちらから見えない。







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