センパイと呼んでくる後輩がカワイイ件
@jaja5
第1話
玄関を開けると光風が包み込むように頬を撫でている、お出かけには絶好日よりだ。こんな日は聖母のように慈愛のこころを持つことができる気がする。
おはよう小鳥さん…世界は何て美しいんだろう。
家の門を開け、学校へと歩み出す。歩いていると犬の散歩をしているおばあさんとすれ違った。
すれ違う際、犬がこちらの足下へ寄ろうとするのをとどめるおばあさん。多少の困惑を含ませた後に会釈されるが、いえいえとこちらも会釈し返す。
今日もいい1日になりそうだなぁ。
今度は大学生と思われるカップルとすれ違った。彼らは手と手を絡み合わせて表情筋を緩ませ会話しながら、駅へと向かっていった。
聖母のようなこころなんて俺にはない。まず男だし。リア充許すまじ、というふつふつと怒りが湧き上がる。
足元の小石に怒りをぶちまけ、蹴ろうとしたが、前の通行人に当たり突っかかって来られるという最悪のケースは避けたいがため軽く蹴った。
チキンかよと言われるかもしれないが「喧嘩ダメ絶対」をモットーとし、現代のガンディーの名を欲しいままにする自分にはこれが当たり前である。
「おう兄ちゃんいい体してんねー。ちょっとお姉さんと遊ばないかい?」
「結構です」
聞き慣れた声が背後から聞こえたため適当にあしらうと左手をしっかりと掴まれそのまま捻られた。
「痛てててて」
「なにスルーしようとしてんのよ」
現在進行形で関節を決めている彼女は幼馴染みの赤堀美紅。空手の県大会で優勝経験のある彼女はどこぞの名探偵
もびっくりの強さを誇る武道家である。
「新学期で鬱な気分になってたところに面倒なやつが来たからな」
「…もう1回決められたい?」
「いやーこんな可愛い子と朝から会えるなんてテンションがhighになっちゃうなー」
チャラ男みたいな言葉遣いになってしまったが、まあこいつは幼馴染みというポジション贔屓なしにしても可愛いのが事実である。意外と料理も上手で、散らかってた俺の部屋を掃除してくれたり、たまに朝の弱い自分を起こしに来てくれたり…うーん、美紅さんマジ天使。
「もう、そんな恥ずかしいこと言うようなやつはこうだ!」
「痛い痛い!何でまた関節技を決めてるんですかね?!」
ちょっと戦闘力が高いことを除けば大天使ミクエルなんだなって。
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2人でその後も雑談をしながら登校し、学校へ着き、下駄箱で靴を履き替える。その先には人溜りができており男女の声が耳に飛び込んでくる。新学期といえども、春、即ち進級であるためクラス替えなるものが生じる。同じクラスだ、そうじゃないだので一喜一憂する、新学年最初のイベントといえる。
「今年も同じクラスだといいね」
靴を下駄箱に入れながら横目に声をかけてくる。
「どうせ同じクラスだろ」
この学校は生徒数の少なさ故に4クラスしかない。さらに文系、理系に分かれる。俺と美紅は文系であるため50%の確率で同じクラスとなる。ソシャゲの低確率の最高レアが意外と当たるのだから50%なんてほぼ100%だろう。
「同じクラスだった!」
下駄箱で考えごとをしている際に、さっさと掲示されていたクラス発表の用紙を見てきた美紅は笑顔でこちらへ向かってきた。
「そうか、じゃあ教室までさっさと行くぞ」
「はーい」
呑気に鼻歌を歌っている美紅を横目に眺めながら教室のある2階へと進んでいく。
その後体育館にて入学式が行われ、えらいお話を聞いた後、HRがあり新学期1日目が終わった。
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「このあとゲーセン行かない?クレーンゲームに新しい商品が入荷されたらしくてさー」
「明日実力テストだぞ?勉強しなくていいのか」
俺の返答にあぁそういえば明日テストか、みたいなリアクションを取り口元に手を当て考えているようだ。
「なら明日でいいや!補習嫌だし」
そう言うやいなや自宅に向かって駆け足でこの場から立ち去っていった。家が同じ方向の幼馴染みを捨てて駆けていくとは…。
1人で帰ることになったがまあいい。近くのコンビニで雑誌を立ち読みでもするかと気を取り直し歩き出す。
10メートルほど歩くと何やら声が聞こえてくる。
幻聴かと思ったが声の発信源にたどり着いた。
うちの高校の制服を来た女子生徒だったようだ。その女子生徒と話しているのは他校の男子だ。あぁリア充ね、はいはい、と思ったが何やら揉めているようだった。
なるほど実に面白い…異性交遊の交渉してるんだろうなぁ…俺にはできないなぁ…と思っていたら女子生徒がこちら側を見た。
「あ、センパイ!遅いですよ〜早く帰りましょ」
なるほど、彼氏がいるのに誘われて困ってたところに彼氏が現れたということか。現実は非常なりとか言われるけど結構ご都合主義なとこもあるものだな。
こちらに近づいてくるので顔つきが判断できる。ぱちりとした目に、透き通った髪からして美少女だといえる。そりゃナンパされますよ。だが、この美少女は俺の横を通り過ぎることなく俺の目の前で止まった。
私がどくのではなくお前がどけということを伝えようとしてるの?わかった、どきますよ。
「行きましょう」
そう言って俺の裾を掴み悠々たる足取りで歩き出す彼女により、糸に引っ張られるように足を踏み出した。
どかなくてよかったのね。けど連れていかれるのは想定外なんだが。
あの、俺の家と逆方向なんですけど。
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