間違えた勇者 ~本当に好きなのはお前だけって言葉、信じられる?~
春野こもも
一、本当に好きなのはお前だけ
アランは物心ついたころから一緒に遊んでいる二つ上の幼馴染だ。私は八才のときにアランへの恋心を自覚した。
アランは同年代や年上の女の子からよく言い寄られている。肩くらいまでの長さの白金の髪と青い瞳は見目麗しく、何よりも女の子に優しい。加えて裕福な商家の息子だ。アランも女の子が好きなようで、いつも女の子に囲まれて楽しそうにしている。
気持ちを打ち明けるつもりは全くなかった。アランの家は金持ちだけど、私はただの農民の子だったから。
私は薄茶色の癖のある髪に茜色の目で、特に美人というわけではなく平凡だ。身分違いも甚だしいと、うちの両親には一緒に遊ぶのをよく窘められた。
だけどアランはそんなことを気にも留めない。私を自宅へ招いていろんな本を読ませてくれる。私は本が好きだったので、アランの家に行くと夢中で本を読み漁った。
十二才のとき、アランに呼び出されて好きだと告白された。
アランのことは好きだ。でもアランの傍に寄ってくる女の子が、とりわけ仲のいい私のことを憎々しげに睨みつけてくる。それにアランが女の子皆に優しいことを知っているから、つきあうのは気が進まない。
「俺は諦めない。ローズとつきあいたい」
断ろうとすると、アランが私の言葉を遮るように訴えてきた。
「アランは仲のいい女の子がいっぱいいるでしょ? 私、そういうの無理だから」
「本当に好きなのはお前だけだ。俺は浮気はしない」
「……あんたのことは好き。だけど……」
「頼む!」
「……分かった。でも浮気したらすぐに別れる。そのときはただの幼馴染に戻るから」
アランは私の唇に触れるだけのキスをした。初めてのキスは柔らかくて温かかった。
なんだかんだ言っても、アランが好きだ。異性としてだけではなく、かけがえのない友人でもある。つきあうのを渋ったのは、友人としてのアランを失ってしまうかもしれないと懸念する気持ちもあった。
アランは約束を守っていた。いや、守っていたように見えた。
ある日アランの家に遊びに行くと、執事さんにアランの部屋へと案内された。
扉を開けてみると、アランと少女が抱き合っていた。少女はアランの家と同じくらい大きな商家の一人娘、アリスだ。無理矢理迫ったとかではなさそうだ。なぜならアランも楽しそうに笑っているから。
アリスはいつもアランにべったりくっついていた。見目のよいアランと美少女のアリス。大人たちはお似合いだといつも言っていた。
それでも私を選んでくれたとそう思っていたのに。胸の中に悲しい気持ちが湧き上がってくる。他の子と仲がよくても好きなのは私だけだと信じていたのに。
「何してるの」
「ローズ……」
睦み合うのに夢中になっていたアランは、私が扉を開けたことにも全く気付かなかったようだ。声をかけると、こちらを見て驚いたように目を見開いて固まった。
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