~第1.5章~ おうちに帰ろう
第44話 囲い込まれる系男子
俺とイゾルデが帝都にある中等学園に通い始めてはや1年が経過したころ。
いつの間にか俺も11歳半くらいになっていた。
前世基準で見てしまえば、まだまだ小学校高学年の子どもでしかない。
しかし、この世界では成人まで残すところあと3年半と短く、そうのんびりもしてはいられない。
平均寿命が短いせいで早熟なこの世界では、求められる言動も必然的にそれに準ずる形となる。
世間からの扱いも、属する社会階級の差はあれど、あえて比較するなら日本の中学生後半~高校生前半とさほど変わらないものだった。
事実、平民であれば、既に各商業ギルドの見習いとして社会の一員となっているような年齢なのだ。それは何らおかしな話ではない。
幸い俺は貴族の身分に生まれることができたので、一人前になるための教育を受けている途中──つまるところのモラトリアム期間にいるわけだ。
しかしながら、自分がすでに世界を取り巻く流れの中に、否が応でも組み込まれているように感じられる状況下では、将来の身の振り方についても考えなければいけなくなっていた。
そして、それはヘルムントと会話をしていた大半が、現実のものとなったことにも起因している。
◆◆◆
時を
《竜峰》でのゴタゴタの後、俺たちは学園へ通うための帝都の下見も兼ねて、エンツェンスベルガー公爵家の帝都別邸へとベアトリクスを送り届けることにした。
もちろん、ベアトリクスひとりだけでうちの所領軍の護衛をつけて送り返すような真似はしない。
アウエンミュラー侯爵家として動いていることを誇示するため、当主であるヘルムント、護衛のサダマサと共にである。
ティアマットから譲り受けた《神魔竜》の鱗を、密かに療養していた公爵家当主ユルゲンに手渡すのも、目的のひとつだった。
俺の中では、鱗の所有権はすでにベアトリクスに譲ったつもりでいた。
しかし、意外にも当のベアトリクスがそれを頑なに拒んだ。
鱗を入手できたのは、自分自身の力など一切関係なく、あくまでもサダマサと俺が神魔竜との
まぁ、本人がその功を手放すというなら是非もない。
これにより、偶然とはいえアウエンミュラー侯爵家としてベアトリクスを保護し、同時にエンツェンスベルガー公爵家の危機まで救ったという立ち位置となれた。
ここまできたら、もう後はヘルムントの計画どおりに進んだと言っても過言ではない。
ついでとばかりに火縄銃の存在を伝えると、それはもう恐ろしい勢いで喰いつかれ、特に何の譲歩を求められることもなく利権確保に成功。
強いて言うなら、見返りとして帝室派としての立場を表明することにはなったが、それも正直なところ想定の範囲内であった。
こうなると、もはや動き出した流れは簡単には止まってはくれない。
具体的な話を進めるためユルゲンの体調の回復を待ち、俺たちは公爵家別邸に3日ほど逗留することになる。
今になって思えば、ここで油断したのがいけなかった。
せめて、ほぼ放置状態になっていたとはいえ、俺たちは帝都にある侯爵家の別邸を使うべきだったのだ。
完全に気が抜けていた俺たちは、まさかの不意打ちを喰らう。
非公式ではあるもののなぜか皇帝陛下と直接会談することになり、その場で不意打ち同然に俺とベアトリクスの婚姻話を持ちかけられることになる。
思わず「なんで
たしかに、エンツェンスベルガー公爵は現皇帝の従兄弟にあたる王族公爵であり、ベアトリクスは
とはいっても、まさかいきなり皇帝直々のお出ましになるとは思っておらず、俺もヘルムントも内心の動揺を隠すのに必死であった。
しかし、この帝室の反応は、考えてみれば当然のコトである。
それまで神話上の存在としてしか語られていなかった《神魔竜》と友誼を結んだ存在など、遥か
使いようによっては、とてつもない威力を秘めた
是が非でも入手しておきたかったのだろう。
向こうとしては、初手から何が何でもこちらを囲い込むべく全力で畳みかけに来ていたので、そこに断れる隙間などあろうはずもない。
何しろこちらからすればデメリットがないに等しかった。
強いて言えば、俺が面倒事に巻き込まれる可能性が跳ね上がったくらいだ。
最終的にどうなったかだけ言えば、そのまま半ば押し切られるように、ベアトリクスとは俺が15歳になって成人するのを待って婚姻し、ユルゲンの後の次期当主としてエンツェンスベルガー公爵家に婿入りする流れとなった。
とはいえ、これはあくまでも最終的な着地点だ。
竜の鱗によって完全回復したユルゲンは、当分は現役でいられるだけの年齢および健康状態であるため、現時点では完全に自陣営への囲い込みのようなものである。
公爵家を継ぐとは決定しているものの、ユルゲンが引退するまでは、何か功績でも挙げれば適当な領地を与えるくらいのつもりではなかろうか。
正直、端から見れば王族に迎え入れる破格のエサとも言えなくもないが、逆を言えばそうまでしてでも引き込んでおきたかったのだろう。
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