第15話 告白②
「にわかには信じがたい話ですね……と言いたいところですが、聖堂教会総本山にいる神託の巫女が、同様の内容の神託を受けたとのことです。これは教会内でも一部の者しか知らない機密扱いになっているので、帝都でもないこのアウエンミュラー侯爵家の人間、しかも年端も行かぬ子どもが知っているとは思えません」
いまだにどう判断してよいかわからないといった様子のヘルムントと、事実と照らし合わせたことでやや確信に至りつつあるブリュンヒルト。
どちらも人生でトップクラスの局面に立たされている心持であろうことは想像に難くない。
それも当たり前だ。
普通に生きてきたつもりなのに、ある日突然実子・親族から「実は中身だけ他の世界で育った人間です」と言われてまともに受け入れられる人間があり得ないのである。
「しかしだな……」
だが、そんな唐突の告白に動揺している父親にも、俺は話を続けなくてはいけない。
「そのような経緯があり、私は母の胎内ですでに命が尽きかけていたこの肉体に入れられることで生を受けました。正直、意識は3歳頃からありましたが、私の知る常識とこの世界の常識はかなり差異があり、それを表に出すことは大きな混乱を招く恐れがあったため、今までほとんど伝えずにおりました」
「例外は、あのオガクズの件くらいか……」
「ええ、アレくらいであればそう不自然なところはないと思いましたし、何より耐えられませんでしたので」
「アレにはホント助かったなぁ……」
示し合わせたわけでもないのに、苦笑が重なる俺とヘルムント。
当時の劇的な
まぁ、トイレまわりの衛生事情に関しては、完全やりっぱなし方式がこの世界の『普通』で慣れていたとはいえ、改善されるとなればやはり人間嬉しいものなのだろう。
余談だが、嗅覚への暴力が実は一番凶悪なんじゃないかと思っている。
いずれは、非致死性兵器の代わりに悪臭魔法を作ってみたいものだ。
ひど過ぎると死人が出そうだが。
おっと、思考が逸れてしまった。
「さすがに、その後は当面何もするつもりはありませんでした。あまりに出来過ぎていますからね。それに、私の世界にはない技術――――魔法の習得に関心がありましたので」
「魔法のない世界だって? いや、他意はないんだが、全く想像がつかない話だな……」
ヘルムントが困惑の言葉を漏らす。
俺からすれば科学のない世界の方が想像つかないのだが、余計なことは言わないでおいた。
一応、俺はすでに両方の存在を知っているのだから。
ちなみに、ひとつ前のトイレ事情の会話の時点で、俺はヘルムントが少なくとも警戒レベルをいくらか緩めたのを感じていた。
俺はこの世界に生まれてから今までの観察で、ヘルムントがかなり聡明な人間であることはなんとなく察している。
中世レベルの文明で上級貴族とくれば、前世の勝手な偏見でほぼ例外なくクズだと思っていたきらいがあったが、そうであればこのような真相を打ち明ける話はしていないと思う。
これもある程度俺が受け入れられると確信があっての行動なのである。
「その件については、のちほどとさせて頂きたく」
「あぁ、話の腰を折ってしまったな」
ヘルムントが短く謝罪する。
「……そんな心持で魔法を習得している中、妹であるイゾルデに魔法の才能があることに気付きました。私にもそれなりにあるようでしたが、それは私にとって魔法というものが、不思議なことに元の世界にも空想の産物として存在していたために概念を理解しやすかったためでしょう。ですが、イゾルデにはかなりの才能がある。まぁ、それを中途半端に秘匿した結果が今回の事件に繋がったわけですが……」
「そうです。まず聞きたいのですが、あの事件はどうやって解決したんですか?」
そこでブリュンヒルトが強い関心を示した。
実際、彼女は侯爵家令嬢誘拐事件の解決のために帝都から強行軍で派遣されて来ているのだから、その
また、その内容をどのように騎士団本部に上げるかも考えなくてはならない。この反応は当然と言えた。
もちろん、それだけでないことも理解している。
なにしろ、今起きている事態は、当初予想されたであろう最悪のケースすら超えて、全く別の次元とも言える予想していない方向へ転がり始めているのだから。
「前置きのようになりますが、私には創造神から新たな世界での生命以外にも、ある特殊な能力を創造神から与えられています」
「それは?」
「私の望む前世界の物質を魔力と引き換えに召喚する能力です」
「「……?」」
俺にその能力を与えた創造神のようにドヤ顔を浮かべたりはしなかったが、そもそも彼等にはいまいちピンと来ないようであった。
無理もない話だ。
彼等には、俺が元々どのような世界にいたかも話をしていないのだから。
「うーん、これは実際にご覧になられた方が早いでしょう。少し外に出たいのですがよろしいでしょうか」
「何を見せるつもりなんだ? ここではいけないのか?」
不信の色を見せるヘルムント。
それはそうだろう。別に何かを見せるのにこの部屋を出る必要があるとは思いにくいハズだ。
「……いえ、少し騒がしくなります。母上とイゾルデが休んでおりますので、ね?」
おもはゆさで困ったような笑みが浮かんでしまうが、それを聞いた2人はそれ以上は何も言わず静かに席を立った。
少なくとも了解したということらしい。
その表情にいくらか穏やかなものが交じっているのが確認できたことで、俺は肩の重みが少しだけ軽減されたのだった。
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