極大破壊魔法に7人の花嫁でバフ重ねがけして次元ごと吹っ飛ばす話
和田駄々
第1章 王都編
第1話 蓄積型極大破壊魔法
3時間かけて山を下り、麓の村から馬車に揺られ10時間。
深夜になり宿場で1泊し、そこから更に馬車で丸1日かけて到着したのは王都。
見物をしている余裕はなく、朝早く宮殿へ向かい、何人もの役人の方々に挨拶し、ジロジロと見られながらようやく席に着いたのは、出発から2日半ほど経った昼の事だった。
こうして、僕の15歳の誕生日は移動中に終わった。
軍の作戦室。
席には国の要人達が座り、その周りをよく手入れされた鎧や武器が並び、衛兵も沢山いる。
その威圧感に僕は心が折れそうだったが、かろうじて背筋を正して座っていられたのは、隣に師匠であるサニリア様がいてくれたからに他ならない。
年齢は僕の2倍ほどだが、魔術の知識と磨き上げられた技術は僕の何100倍か計り知れない。切れ長の目をした整った顔立ちで、薄化粧なのに肌に艶があって美しい。
もちろん、あくまでも僕にとっては魔術を教えてもらっている師匠なので、そういった目で見ないように日々気をつけてはいるが、子供扱いされると妙にくやしく思うのは事実だったりする。
山奥で暮らしている時はラフな格好をしているが、今日は城への呼び出しという事もあり、紫のローブとつばの広い尖った帽子を着用している。
しばらくして、部屋に1人の女性が入ってきた。その後にはずらずらと、僕達を監視していたのとは別の衛兵達、何人かは元いた衛兵と入れ替わり、何人かはそのまま部屋に残った。
どうやら田舎者の僕には分からない序列やしきたりという物が存在するらしい。
「遠路はるばるご苦労。厭世の魔女、サニリア」
その女性が「魔女」と呼ぶのを聞いて、僕は内心ひやっとした。
師匠はそう呼ばれるのを嫌うし、抱えた苛立ちは隠さない。だが意外にも、師匠は軽く頭を下げ、涼しげな微笑で答えた。
「お元気そうで何よりです。陛下」
陛下と呼ばれた女性。改めて見るに、高そうな貴族風のドレス、頭の上にはティアラ、ピアスや指輪など煌びやかな装飾をつけている。これではまるで……。
「女王陛下の前では頭を垂れ、その敬意を表すのが習わし。貴殿の連れてきた少年はそんな基本的な事も知らないのか?」
そう指摘したのは女王陛下の1番近くにいたハゲ頭の男性だった。鎧を着込んでいない事から少なくとも衛兵ではない。
「じょ、女王陛下!?」
少し遅れて反応した僕に対して、一斉に視線が集まった。
正直に言うと、僕はここへ連れて来られるまで誰と会うのか聞いていなかったし、何をするのかも理解していなかったし、目の前にいる女性がこの国の長である事も知らなかった。
なんたる無知かと嘲笑されても仕方ないが、移動中はある事に集中していて時間が無かったと言い訳したい。
「妾は一向に構わぬ」と、女王陛下。「それよりも、さっさと本題に入りなさい」
動揺の底から戻って来れない僕を置き去りにして、話は進んでいく。
何人かの役人と思しき人達が入れ替わり立ち替わり、報告と進言を交えて状況説明を行った。
それに対して女王陛下と師匠と僕が肩を並べて耳を傾ける。その内容は、新たな「戦争」についてだった。
事のはじまりは1ヶ月前、王都から遠く離れたある田舎町に突如として『亀裂』が生じた。
畑のど真ん中、何も無い空中に突如としてヒビが入り、僅かに空いた隙間から向こう側が見える。
無論、今までにない謎の現象に農民達は驚き、すぐに近くの大きな街から魔術師、司祭、学者、いわゆる賢者と呼ばれる人達が駆けつけたが、何も分からなかった。
『亀裂』は徐々に大きくなり、1週間が経つ頃には人間の子供くらいの大きさになっていた。
身を縮めれば大人でも入れるようになったので、領主の許可を取った賢者の指揮の下、近くの街に滞在していた傭兵と腕利きの冒険者合わせて30人が、中に入って調査を行う事になった。
そして帰ってきたのはたったの1人。勇猛果敢な傭兵だった彼は心神喪失状態になり、事情を聞くのにも丸一日かかったらしい。そしてその内容も、俄かには信じがたい物だった。
「中には怪物達の国があった」
傭兵の彼が言うには、怪物1匹1匹は山のように巨大で、獣や魚や人など様々な姿をしていた。
恐ろしい牙や鋭い爪を持ち、彼の仲間達は束になって丸呑みにされた。他にも火を吐いたり光線を発射したり、共食いしている所も見たそうだ。
まさに地獄。
およそこの世の光景ではない、終末の顕現。
そもそも1人だけ帰って来られたのは、彼が逃げるのに成功したからではなく、1匹の怪物がわざと逃してくれたのだという。
何故逃がしてくれたのか、理由は翌日にすぐ分かった。
『亀裂』から瞳が覗いた。
次の瞬間、村は焼け野原になった。
たった1匹の怪物が発する光によって、ほとんどの家、人、畑が一瞬の内に消滅したのだ。
怪物からしてみれば、与えられた餌を全て食べてしまうよりも、餌がどこからやって来たのかを知る方が長い目で見て得だという訳だ。つまり知能もある。
命からがら逃げ帰ってきた傭兵の男を責める事は出来ないが、事実『亀裂』は徐々に大きくなっており、確実に人類には危機が迫っていた。
怪物達はいずれも巨大なので、まだ小さい『亀裂』ではこちら側に侵入する事は出来ない。だが、このままで行くといずれは、この国、いや世界が怪物達に蹂躙されてしまう。
「で、私に声がかかったという訳だ」
話の最後を師匠が締めくくる。僕にとっては初耳だったが、師匠にとっては3週間ほど前に同じ話を聞いていたのだろう。思い返してみれば、その頃確かに聖騎士の方達が師匠を尋ねてやってきて話をしていた。
「それでサニリア。解決策は持ってきてくれたのだろうな?」
女王陛下が師匠に尋ねる。やや高圧的だが若干の親しみも混じっていて、冗談めいているが真剣でもある。
2人の関係についても僕は何も聞かされていないので気になったが、今はそれを訊ける雰囲気ではない。
「ええ、もちろんです女王陛下。私はこの3週間で新たに2つの魔術を開発しました」
周囲がどよめく。発言の内容というより、この難問に即答で「解決出来る」と答えた事自体に驚いているようだ。僕も同じく。
「1つは『
これにも周囲は驚きの反応を示していたが、一方で僕はこれには驚かなかった。
何故なら、その魔法はちょうど3日前に師匠から教わり、この3日間移動中にずっと唱え続けて来たからだ。忙しくて事情を聞けなかったという理由がこれだ。
「そんな魔術がある訳がない」
と、発言したのは女王陛下に続いて部屋に入ってきた役人風の中年男性。よく見てみると杖を持っている。師匠と同じく魔術師の類なのだろうか。
「山を吹き飛ばす威力? 馬鹿げていますな。そんな事が可能なら、今すぐ『亀裂』に向かってそれを使ったらよろしい」
明らかな嘲笑と挑発のニュアンスだが、師匠はそれを気にする事なく答える。
「『亀裂』の向こう側にいる怪物は1匹1匹が山のような大きさだと聞きましたが間違いでしたか? それが国単位となれば、たった1匹倒した所でどうにもならない事は例えダビド様のような賢者でなくとも分かる事だと思いますが」
師匠がダビドと呼んだ男は眉間に皺を寄せて師匠を睨む。険悪なムードだ。
「私が申し上げたいのは、そんな魔術は有り得ないという事だ。女王陛下とどのような関係なのかは存じ上げませんが、魔女などと呼ばれる怪しげな者を城内に入れる事さえ私は反対し……」
「やめなさい、ダビド」他でもない女王陛下がダビド氏の言葉を遮る。だがダビド氏は構わず続ける。
「……ですが、俄かに信じがたい。サニリア殿、その魔術が実現可能な事を何らかの方法で証明可能ですか?」
師匠がこちらをちらりと見て、すぐに向き直った。
「その言葉を待っておりました」
女王陛下を先頭に、衛兵達、ダビド氏、その他の役人、師匠、そして僕。
ぞろぞろと連れ立って城の1番高い塔へ登った。作戦室に比べれば狭い部屋だったが見晴らしは良く、表側の窓からは王都を一望出来、裏側からは堀を跨いだ向こうに兵舎と訓練場が見えた。
「ちょうど昼の休憩中のようですね。あの訓練場の地面に向かって破壊魔法を放ってみましょう」
師匠の発言に再度周囲がどよめく。何か言う度にいちいち驚かれているが、これがまさしく厭世の魔女と呼ばれる由縁なのかもしれない。
「お、お待ちください」衛兵の1人が動揺しつつ発言する。「いくら何でもそれは……」
「幸い人はいませんし、土も固そうですから多少抉れるだけで済むでしょう。兵士達の訓練にもなって一石二鳥ですよ」
本気なのか冗談なのか分からない事を言う師匠に、衛兵はたじろぎ女王陛下に助けを求めた。女王陛下はダビド氏をちらりと見たが、帰ってきたのは一言。
「私の意見は変わりません。そんな魔術は有り得ない」
「ならば」
師匠が僕を引っ張りだす。
「威力を確かめてみましょう。実は私も最大威力を見るのは初めてで、少し楽しみなんですよ」
僅かに口角を吊り上げ、僕の肩を叩く師匠。全員が僕を見る。突き刺さる視線が痛い。
「し、師匠。本当にやるんですか?」
師匠は答えず、ただじっと僕を見て頷く。
仕方なく、僕は教わった通りに両手を掲げて交差した。指と指の重なる隙間から、訓練場を見る。
確かに、人はいない。地面も見た感じだと固そうだ。
魔力を込める。起動詠唱を開始。集中。足の指先から全身に向けて、血のように魔力を巡らせるイメージ。師匠に教わった通り、失敗しないように。
「……解放」
最後の術式を唱えると、僕の手のひらから一筋の光が真っ直ぐに伸びた。
それは狙い通り訓練場の地面に突き刺さり、僅かな間の後、まずは閃光、その後に轟音、そして地響きとなって城全体を揺らした。
僕もあまりの威力に腰が抜けた。なのでどうなったかはすぐには分からなかった。
ただ、生まれて初めて虹を見た子供のようにワクワクした表情の師匠が視界に入ったので、よくない事になったのは分かった。
「陛下! 陛下!」
衛兵達が騒いでいる。どうやら腰を抜かしたのは僕だけじゃなかったらしい。
女王陛下も何か恐ろしい物を見るような表情で師匠を見ている。ダビド氏もだ。
「これで話を進められますね」
いつの間にか普段の冷静な表情に戻った師匠が、埃を払うように自分のローブを軽く叩いて、僕に手を差し伸べた。
それを握り返して立ち上がった僕は、窓から訓練場を眺める。
そこには巨大な穴があいていた。
穴の縁には抉れた土が盛られており、その周囲では兵舎から出てきた兵士達が大騒ぎしている。
師匠が女王陛下にこう宣言する。
「陛下。この戦争は、彼が一撃で終わらせます」
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