知られざる言葉の学問の真実「規範文法」と「記述文法」という専門概念-なぜ「辞書は正しいは誤り」なのか-
すべての定義が失敗するほど、人間は幅広く、多岐多様なものである。
-マックス・シェーラー-
専門用語として「規範文法」と「記述文法」という概念があります。
おおざっぱに言うと「正しい言葉」と「間違いだが使われる言葉」です。
三省堂国語辞典は記述主義、つまり記述文法を標榜する辞書として有名です。
新聞社の元校閲記者の金武伸弥さんによれば、新聞・出版界では「大きな辞書にない言葉でも、三国を引けばある」と冗談まじりに言われるそうです。
なぜ辞書には多くのものがあるのか、よく考えてみたらわかるはず。
辞書毎の傾向や見解が合致しないからです。
ちなみに三国は記述主義を「実例主義」と言っていますが、実例主義の反対は「作例主義」で、そういう意味でも三国は記述主義です。
なお実例主義とは、実際に使用された文章を例文として使うことを指します。
たとえば、「国境の長いトンネルを抜けると雪国であった」という文章は、川端康成の『雪国』で実際に使われたものであるから「実例」です。
対して作例主義とは、実際には使われていない文章を例文として使うことを指します。
たとえば、「すごく長いトンネルを抜けたら雪が山ほど積もっていた」という文章は、実際には存在していないものなので「作例」です。
ある辞書の意思はその辞書独自の意思であって、他の辞書に同調するのであれば、そんな辞書が辞書と呼ぶにふさわしい道理はありません。
真の学問は筆記できるものではない。
筆記できる部分は滓である。
真の学問は行と行とのあいだにある。
-新渡戸稲造-
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