【116本目】ゴースト/ニューヨークの幻(1990年・米)

 吹替版のサムとカールが江原さんと芳忠さんで「ポプテピピックで共演した二人じゃん」って自分が悲しくなる発見してしまった。


【感想】

 映画撮影で演技をしているとき、役者はすぐ目の前にあるカメラを全く意識しない状態で演技をしなければなりません。

 結果として観客たちは、【その場にいるのに登場人物たちに意識されない】という幽霊のような視点で映画を見ることになります(たまに意識してる奴もいるけど。なぁデップー?)。

 【ゴースト/ニューヨークの幻】は、その幽霊のような視点、という要素をカップルの片割れに付与させ、愛し合ってるのに触れ合えない切なさを描いた映画と言えるでしょう。基本ラブロマンス系映画はあまり見ないクチなんですが、この映画はホラー要素のある設定を生かした脚本、撮影が面白かったので最後まで楽しんで見れました。

 第63回アカデミー賞では作品賞を含む5部門ノミネート、うち助演女優賞(ウーピー・ゴールドバーグが)、脚本賞の2部門を受賞しています。


 さて映画では観客が(劇中で言及される)登場人物の秘密などを把握できていることから「神の視点」なんて呼ばれたりしますけど、この映画の主人公・サムは死後霊体として現世にいるけど、恋人を含めた現世の人間たちほぼ全員に存在を把握されません。で結果として、【その場にいるけど気づかれないし、自分で見た秘密も知っている】という正に観客のそれに近い視点で現世をさまよう状態になるのです。

 この映画に驚かされるのは、設定勝ちの脚本よりもむしろ役者たちの演技力なんですよねー。ただでさえ演者はすぐ前のカメラを意識しないままに演技をしなければならない存在ですが、そこに加えてデミ・ムーアをはじめとするこの映画の俳優女優たちはパトリック・スウェイジ演じるサムの存在を意識せずに演技をしなければならないわけですよ。カメラと人間という二つのオブジェクトを完全にないものとしてふるまわなければならない、というハードルの高い演技を実際にこなしてのける俳優たちの演技には脱帽ってもんです。

 特にウーピー演じるオダ・メイは、サムの存在に気づいてはいるけど声しか聞こえてない、という設定上サムと会話してはいても視線がサムのいる場所からずれている時が多いのが細かくて秀逸です。オスカー助演女優賞獲ったのもそこが評価されたんじゃないだろうか。


 あとこの映画のイメージが強い"Unchained Melody"は元々1955年の映画【Unchained】の主題歌で、愛し合っているのに触れ合えない囚人とその恋人を歌っています。【愛し合っているのに触れ合えない恋人たち】の唄を、死人とその恋人、という形を描いた映画の主題歌としてよみがえらせるという秀逸なセンスの選曲なんです。


【好きなシーン】

 1セント硬貨を介した再会のシーンが有名ですけど、個人的には一にも二にも振り返ったら自分の死体(まだ死体じゃないけど)とそれを抱えてる恋人が視界に映ってるシーンですねー。

 振り返った主人公がアップで驚愕するからヒロインが死んだのかと思ったら、振り返った先には血まみれの自分を泣きながら抱きかかえるヒロインがいた……という構図。

 ホラーとラブロマンスを描いた映画は【ゴースト】以前にもなくはないです(スピルバーグの【オールウェイズ】とか)けど、この二つのジャンルを掛け合わせた映画でキャッチーな映像とは?という問いの最適解となる映像だったと思います。


 また愛し合っているのに触れ合えない、という物語の展開上、サムが死ぬ前日の二人のろくろ回しからのセックスは他の映画の濡れ場とは違う文脈がありますね。この後の物語の秀逸なフリになってる、と言いますか。

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