【86本目】タバコ・ロード(1941年・米)

【感想】

 半年近く前にBSシネマでやってて撮り溜めしてたのを最近やっとこさ見たんですけど、ちょっと内容的にあまりにもキマってたのでレビューさせてもらいます。


 監督は【駅馬車】などで知られるジョン・フォードで、彼がスタインベック原作の社会派映画【怒りの葡萄】を公開したちょっと後に製作した映画です。

 原作は1932年に出版された小説ですが、映画より先に舞台化された際に当時(1930年代~40年代)のブロードウェイで最長公演記録を塗り替えるほどの人気を博しています。そのため映画自体の評論も、原作小説よりは舞台版との比較で語られることが多いようです。


  ちなみに現在発売しているDVDのパッケージに映ってるのはジーン・ティアニーというアカデミー主演女優賞にノミネートされたこともある俳優の演じる23歳の女性ですが、全然主役とかではないですし、登場シーンも数えるくらいしかありません。


 同じジョン・フォード監督が映画化した【怒りの葡萄】だと長年暮らしてきた中西部の土地を仕方なく離れて西海岸へ向かう農家の苦難が描かれますけど、こちらでは土地を手放したとしても長年暮らした田舎を離れることもできない農家の悲哀が描かれています。

 だから【怒りの葡萄】と同じ銀行や経営者に搾取される農家の話なのかな?とおもったのですが、実情は全然異なりました。


【キャラについて】

 もう速攻でキャラの話に映りたいんですけど、もうとにかくメインキャラが全員頭おかしくて最高なんですよこの映画。冒頭でいきなり娘婿相手にカブ泥棒する一家、地主からもらったコーンを子供たちにばれずにむさぼる老夫婦、旦那が死んだからって速攻で20歳くらいの若者と結婚するアラフォーおばさん、あまり話しかけてくれないからって嫁(13歳)を蹴飛ばしたり投げつけたりロープで縛ったりする娘婿……といった感じでヤバすぎる言動が、繰り返されます。

 もちろんフィクションなので多少の誇張はあるでしょうが、さほどウケを狙ってる感じでもない自然なノリで、頭おかしい行動をやってのけたりするんですよね。

 一番モラルと常識を持ち合わせてるのが、主人公に土地を貸してる地主さんっていうのが、やけにリアル。


 この映画で面白いのは、貧乏の描写がただお金がないし明日の食べ物にも困っている、という物質的な貧困だけに終わっていないという点ですね。

 教育を受けていて恵まれてる人はある程度将来を考える余裕みたいなのができますけど、【タバコ・ロード】の農民たちは貧しい上にまともな教育も受けていないため(自分の名前すら代筆してもらうレベル)江戸っ子張りにお金の使い方がハチャメチャです。なんせ地主に地代を払わないと農場を立ち退き、という状況下で高級車を買ったり町のホテルに泊まったりしているわけですから。

 そういう意味では現代の常識とかそういう観念からはあまりにもかけ離れた彼らのキマリっぷりこそが、遠回しに当時のアメリカの農民たちの物質的なことだけに終わらない貧しい実情を描き出している、と言えるのかもしれません。


【好きなシーン】

 上に書いた貧しさだけではなく、当時のアメリカ南部の農民の価値観とか慣習みたいなのが垣間見えてくるシーンが色々あるのが21世紀に生きる我々にとっては興味深いです。

 カルチャーショック(?)だったのはジーン・ティアニー演じる23歳の女性が男性に嫁に貰ってよ、的なことを言って、「年増の女は嫌だ!」って返されたシーンですかね。あの当時のアメリカの農村って13でもう嫁に行って23でもう年増だったの!?って驚愕しました。


 あと【怒りの葡萄】と違って、ちゃんと具体的に救いがある終わり方なところが地味に癒されましたね。

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