【85本目】アルゴ探検隊の大冒険(1963年・英)
【感想】
日本に特撮映画の巨匠・円谷英二がいたように、アメリカにも特撮映画の巨匠と呼ばれる人物が存在します。【キング・コング】の生みの親であるウィリス・オブライエンと、彼に影響を受け、ストップモーション技術を駆使してゴジラのルーツと言われる【原子怪獣現わる】などを製作したレイ・ハリーハウゼンです。
そして後者の人物が1963年に手掛けた特撮ファンタジー映画が、この【アルゴ探検隊の大冒険】です。
レンタルビデオ屋でも非常にレアな映画だし、一応ネットフリックスで配信されてるけどそこでも3月31日に配信終了するので、現状非常に視聴困難な映画になりそうなんですが、まあこういう映画がありました、ということを記録しておこうということで。
ギリシア神話をモチーフとしているわけですが、この時代よりちょっと前の1950年代くらいのイタリアには、ちょうどソード&サンダル映画という、ギリシア神話に基づいた叙事詩映画がブームになっていた時期がありました。
【ユリシーズ】や【ヘラクレス】【ヘラクレスの逆襲】など、ギリシア神話のスターが主人公となる映画が数多く作られ、人気を博したわけですが、軽装だけど筋肉隆々のヒーローが神話に基づいた世界観で剣を駆使して戦う、という【アルゴ探検隊の大冒険】のストーリーラインは明らかにこのソード&サンダル映画の流れを汲んでいます。
その神話映画に、主に【キング・コング】と【原子怪獣現わる】などのSF映画で使用されていたストップモーション技術を採用したところが、この映画のポイントと言えます。
時代劇と特撮技術を融合させた【日本誕生】や【大魔神】の日本版とも言えるこの映画は、同じハリーハウゼンの【シンドバッド七回目の航海】と共に欧米の映画界でファンタジー映画と特撮技術を融合させた功績を持つ映画の一つであり、ある意味で後の【ロード・オブ・ザ・リング】にも影響を与えた作品だと思っています。
【キャラについて】
まあ神話モチーフの物語なんでキャラクターも神話通りですけど、個人的に面白かったのはゼウスとヘラの立ち位置ですかね。
この映画では天界?にいる彼らが、泉だかを通して主人公・ジェイソン(イアソン)を含むアルゴ探検隊の冒険を見守るさまが何度か挿入されます。
安全な立場から見下ろすように見ている様を見て思ったんですけど、あれって多分、我々映画を観ている観客のオマージュなんです。
見た方ならわかると思うんですけど、この映画すっごい尻切れトンボというか、ジャンプの打ち切り漫画みたいな終わり方をします。
まあソード&サンダル映画ならあからさまに時間配分のおかしいストーリー展開は日常茶飯事なんですけど、この映画の場合神々が見下ろしている、という構図と、特に興味持って見ているのは女神のヘラということ、そしてラスト近くで主人公・ジェイソンとヒロイン・メディアが結ばれるということを総合して考えるとあのラストが別の視点で見えてきます。
おそらく、主人公の冒険に興味を持って見ていた観客・ヘラが、彼女を作った彼に興味を失い、冒険を見守ることもやめた、という、【途中退出】的なシーンなんですよあのラスト。
【好きなシーン】
この映画の最も特筆すべきところ、それはやはり、【ストップモーションでしかできない表現】の探求に全力が注がれている、という点でしょう。
東洋の島国で【ゴジラ】なんて着ぐるみ技術を使ったリアルな怪獣映画が欧米でも人気を博しちゃって、1960年にはイギリスでも【怪獣ゴルゴ】なんて着ぐるみ技術を使用した【ゴジラ】フォロワーが出てきたりしていた時代です。ストップモーションが衰退したというわけではないにしろ、【キング・コング】の時代のようにストップモーションだけが優れた特撮技術という時代は過去のものになりつつありました。
ハリーハウゼンがそういう潮流を読み取っていたかは定かではないですが、この【アルゴ探検隊の大冒険】は、そんな時代にあってストップモーションだからこそ可能であって、着ぐるみではできない表現というものを全力で追及していることがわかります。
なんせストップモーション特有のカクカクした動きを巨大な石像が動くという設定で違和感なく表現しきったタロス像、着ぐるみや操演では難しい空中アクションをストップモーションでやってのけたハービー、造形上人間が中に入って動かす着ぐるみでは不可能なスケルトンなど、ストップモーションだからこそ冴えわたるモンスターが数多く登場しますから。
特撮技術がCGのほぼ独占状態と化した現在にあっても、【KUBO/クボ】【犬ヶ島】などストップモーションが本領を発揮する映画が時折見られますが、そういった映画には、ハリーハウゼンが【アルゴ探検隊の大冒険】で見せてくれたストップモーション技術への熱意が、遺伝子レベルで受け継がれているのかもしれません。
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